農業ビジネスに潜む損害賠償リスクについて、大場弁護士が事例を交えて解説します。
1 生産品のブランド化
ビジネスにおいて、ブランド戦略、知的財産権戦略は重要です。大企業ではもちろん、中小企業であっても、その製品やサービスのブランドをいかに育て、いかに守るかということは、重要な経営事項であるといえるでしょう。
これは農業ビジネスにおいても同様にあてはまります。有名なところでは「あまおう」「デコポン」「青天の霹靂」などのように農協グループや自治体がブランド名を商標登録している例や、「雪国まいたけ」のように生産者独自のブランド名が商標登録されているものもあります 。
本コラムでは、みなさんもブランド化に取り組みましょう、ということではなく、気づかないうちに他人の知的財産権を侵害していることがあるので注意しましょう、ということについてお話をします。
2 気づかないうちに他人の商標権を侵害してしまうリスク
さきに挙げた「あまおう」などの誰でも知っている有名なブランド名であれば、同じ名称を使ってはいけない、ということは容易にわかるでしょう。
しかし、商標権というのは、有名であろうがなかろうが、基本的には、先に登録した人が取得することができるため、自社独自に「○○レタス」というブランド名を包装容器などに付して出荷したところ、ある日突然、聞いたこともない会社から「自社の商標権を侵害している」「損害賠償を請求する」といった通知書が送られてくるようなこともあります。
また、自社独自に「△△みかん」という商標権を取得してその名称を使っている場合でも、第三者から商標権侵害に基づく損害賠償請求がなされるケースがあります。これは、商標登録されている商品分類に抜けがある場合です。
商標権というのは、簡単に言うと、特定の商品やサービスにおいて特定の名称やマークを独占的に用いることができる権利です。
そのため、生産者Aさんが指定商品を「果実」とする「△△みかん」という商標権を取得していたとしても、指定商品を「菓子」「果実飲料」とする「△△みかん」という商標権を別の加工業者B社が取得していれば、生産者Aさんが△△みかんを原料にした菓子やジュースを製造し、その製品に「△△みかんゼリー」とか「△△みかんジュース」といった名称を用いる場合でも、ケースによっては、加工業者Bから商標権侵害であるとして損害賠償請求などがなされるおそれがあるのです。
例えば、「紅ほっぺ」という名称は、静岡県が品種登録したいちごの品種名ですが、一般の果物店が「菓子」「パン類」を指定商品として「紅ほっぺ」という商標登録をしたため、静岡県や県から許諾を受けた生産者なども、スイーツなどの加工品に「紅ほっぺ××」という商品名を使うことができなくて困っている、といった報道もなされています(静岡新聞2012年2月10日25面)。
3 他人の商標権を侵害しないために
誰がどのような名称をどのような商品について商標権を有しているか否かは、インターネットで簡単に検索することができます。
独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営する特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)にアクセスすれば簡単に検索できますので、自社独自のブランド名をつけようという場合は、他の人が先に商標登録をしていないか、チェックするようにしてください。
4 輸出する場合は要注意
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