- 農業法人が成長するうえで、重要な「資本政策」の位置づけ・考え方について、成長をサポートするノウハウ・実績を多数持つアグリビジネス投資育成株式会社のコンサルタントがわかりやすく解説します。
借入と増資の使い分け
法人として資金調達する際、金融機関からの借り入れを選択している場合が多いと思いますが、株主構成に留意して既存株主や新規の株主から出資を受けたり、会社の信用面を考慮して利益剰余金を内部留保として積み重ねていく、という考え方もあります。
資本政策として、借入金で調達するのか増資で調達するのかの選択は、次の3つの視点を踏まえて戦略的に考え実行していきます。
視点①「会社の安全性」
会社の安全性とは、金融機関等が投融資の判断をする際に重要視している指標の一つで、長期的な安全性は「自己資本比率」という指標でみられます。
「自己資本比率」とは、総資本のうち自己資本が占める割合のことで、財務構造(資金の調達状況)の安定度合いを表します。
仮に売上高が減少した場合に、負債(他人資本)が多いほど資金がショートするリスクが高く、純資産(自己資本)=返済しなくてよい資金が多いほど万一の時に資金がショートするリスクは低いと判断され、「安全性が高い」と表現されます。
視点②「資本コスト」
資金調達に伴い発生する費用のことを資本コストといいます。他人資本の調達で代表的な銀行借り入れの場合、利息がコストにあたります。
では、自己資本の調達にあたるオーナー経営者が自己資金を出資する場合や株主を含む第三者からの増資を受けた場合、利益剰余金として内部留保で調達する場合のコストは何でしょうか?
社長の自己資金の投入であれば、役員報酬が原資と考えられ、相当分の所得税・住民税・社会保険料などがコストだとみなすことができます。
また、社長以外の株主や第三者による出資を受けた場合、配当金がコストとなります。また、利益剰余金は法人税を支払った後の利益であるため、相当分の法人税もコストになるでしょう。
視点③安定株主対策の必要性
株式はその種類により株主の権利は異なりますが、普通株の場合は主に次の3つです。
「株主総会の議決権」つまり会社経営の管理・運営に参加する権利、
「利益配当請求権」つまり会社の利益の分配を請求する権利、
「残余財産分配請求権」つまり会社が解散する場合に、精算後に残った財産の分配を請求する権利です。
社長(オーナー経営者)が100%株式を保有していれば、会社経営の意思決定は自由に行えますが、社長以外の株主にも上記のような権利が生じ相対的に社長の経営権が低下する恐れがあります。
そのため、経営者が実権を持ち安定した経営をするためには経営者に協力してくれる「安定株主」の存在が重要となり、持株比率(=株主構成)を考慮する必要が出てきます。
この時、農地所有適格法人の場合は農地法に基づき農業関係者が総議決権の1/2超を持つよう株主の属性を考慮する必要があります。
社長以外の安定株主としては、社長の親族や同族の会社のほか、会社の役員、取引先、従業員等が考えられます。
会社法に基づき、目安となる議決権比率は1/3、1/2、2/3で、例えばオーナー経営者の持株比率が全体の2/3以上であれば、単独で株主総会における特別決議で可決することができます。なお、持株比率の詳細は顧問の税理士等専門家にご相談ください。
資金調達を伴わない資本政策
資金調達を伴わない資本政策とは、「株式移動」によるものです。
株主構成を見直す場合などに行うことが主で、すでに発行済の株式を別の人が買い取ることで、株主の整理を行います。
この場合も、農地所有適格法人の場合は農業関係者が総議決権の1/2超を持つよう株主の属性にも考慮が必要です。
株式移動は先代から現経営者や後継者への株式の移譲を段階的に行う場合や、世代交代を重ねる中で経営に関与しない親族へ分散してしまった株式を現経営者や後継者に集中させていく場合に有効です。
シリーズ『成長を導く資本政策』/『成長する経営とは?』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日