- スーパー等の販売データや、既婚女性の調理記録、生活者へのアンケート結果等、様々なデータの収集〜集計〜分析を行っている株式会社インテージ。今回は、牧野 司さんが、食のトレンドを解説します。
はじめまして。インテージの牧野です。ラグビーワールドカップに世界陸上、バレーボール、と世間はスポーツの秋で賑わっていますが、秋といえば味覚の秋。いよいよ秋も深まり、肌寒さを感じると、鍋が恋しい季節になってきたのではないでしょうか。
実は、気温の絶対値よりも、前日との気温差で売れる商品が変わると言われています。みなさんも昨日より寒いなと感じた日には自然とスーパーの鍋コーナーに足を運んでいたという経験があるかもしれません。今回は鍋の食卓事情を探ります。
そもそも鍋って食べられているの?
まずは、日本で夕食時に鍋がどの程度家庭で食べられているかを、インテージのデータの1つである1260世帯の食卓事情を調査している「キッチンダイアリー」で確認してみました。
▼キッチンダイアリー 「鍋」のTI値変化
(京浜+東海+京阪神、20代〜70代 2人以上家族の主家事担当者、夕食、2015年〜2018年 各年11月~1月)
※TI値:1000食卓あたりの出現回数
これを見ると、単身者の増加による個食・孤食化の流れもあってか、鍋は年々家庭の食卓に並ぶ頻度が少なくなっていることが分かります。ただ昨年の冬は下げ止まりを見せ、復調の兆しはありそうです。
伸びている鍋の種類は?
このところダウントレンドにある鍋ですが、伸びている鍋のメニューから鍋需要の兆しを見てみましょう。再び「キッチンダイアリー」で鍋メニューの出現回数を確認します。
▼キッチンダイアリー 夕食TI値(TI値1.5以上)
(京浜+東海+京阪神、20代〜70代 2人以上家族の主家事担当者、夕食、2015年&2018年 各年11月~1月)
※TI値:1000食卓あたりの出現回数
ここ3年で伸びている鍋メニューを見ると、最も食卓に並ぶ「寄せ鍋」のみが伸長していることが確認できます。「蒸し鍋」「トマト鍋」などの変わり種鍋の流行も一時的なもので、結局は定番・王道の鍋に回帰していることが伺えます。
寄せ鍋に入れる具材は?
寄せ鍋といえば、汁を入れた鍋に野菜や魚介類、肉類などの様々な材料を入れて煮込むものであり、地方によっても多様な種類が存在します。そのため中に入れる出汁や具材はほとんど何でもアリといって良いのですが、その出汁や具材に変化があったのか掘り下げてみましょう。
▼キッチンダイアリー 「寄せ鍋」に使われる「出汁」「具材」のTI値 ※TI値10以上
(京浜+東海+京阪神、20代〜70代 2人以上家族の主家事担当者、夕食、2015年&2018年 各年11月~1月)
※TI値:1000食卓あたりの出現回数
出汁の特徴を見てみると、「鍋料理の素」の伸長が著しくなっており、出汁の味付けを調整する必要がないことから、簡便ニーズの高まりが背景にあると伺えます。
使用される具材を見てみると、きのこ類、こんにゃく、たら、豚ロース等の使用が低下している一方で、ビタミン豊富な彩りのある野菜類、低脂肪でタンパク質豊富な鶏もも肉が伸長しています。
寄せ鍋が選ばれる背景は?
ダウントレンドの鍋の中にも兆しを見せた鍋の王道、寄せ鍋。そしてその寄せ鍋に使われる具材や出汁のトレンドが見えてきました。最後に、寄せ鍋がメニューに選ばれる背景を、「キッチンダイアリー」のモニターが書き込んだメニューのこだわり理由のコメントから探ります。
▼キッチンダイアリー 「寄せ鍋」のこだわり理由 一部抜粋・編集
(京浜+東海+京阪神、20代〜70代 2人以上家族の主家事担当者、夕食、2018年 各年11月~2019年1月)
※TI値:1000食卓あたりの出現回数
【モニターのコメント】
「遅い時間だったので、簡単に、野菜を取れるように鍋にした。」
「買ってきたお野菜と、あるものをあるだけ入れたお鍋です。辛味噌ラーメンスープがいっぱいあり、それをベースにして、野菜や豆腐、肉団子などを入れ、主食用として茹でたはるさめをそえて、つけて食べるような感じにしました。」
「野菜をいっぱい食べたくてお鍋にしました。今朝、魚と一緒に新鮮な野菜が届いたことで、鍋が食べたくなり、急遽お鍋を堪能しました。」
「この冬初の鍋。野菜をしっかりとれるようにした。」
「頂き物の福岡名物”鶏鍋”のセットのスープに味をつけて、野菜をたくさん入れて寄せ鍋にした。」
「冷蔵庫の残り野菜をふんだんに使った。」
以上のように、野菜をたくさん、簡単に、ありもので取れることが寄せ鍋が食卓に選ばれる背景となっていることが、コメントからも伺えました。“健康”、“時短”のトレンドは、鍋の食卓事情にも起きているのですね。
今回は鍋に焦点をあててみましたが、いかがでしたでしょうか。一昔前の「寄せ鍋」というと、地域の食材を使った、家庭に根ざした伝統のある味付けのイメージがありますが、現在は手早く、ありもので、野菜をたくさん取る目的に鍋があり、なんでもアリの寄せ鍋がそうした需要にマッチしているようでした。
そろそろスーパーの鍋コーナーが賑わいを見せる頃でしょうか。みなさんも寄せ鍋で野菜を取って体を暖かくして、健康的にこの冬を乗り切りましょう。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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