持続可能な社会を担う地域のリーダーの育成
東京都立園芸高等学校 校長 並川直人
(日本学校農業クラブ連盟 代表)
先生からのエール
「創造力とイノベーションで新しい農業のカタチを創る」
東京都立園芸高等学校の紹介
1908年創立 日本初の園芸学校
東京都立園芸高等学校は明治41(1908)年創立で、日本で最初にできた園芸学校です。令和2年で112年目となる伝統校です。正門を入ると樹齢100年を越える28本のいちょう並木が続きます。多くの方はこのいちょう並木を歩いている間に、園芸高校が特別な空間であることを感じます。
東京都世田谷区深沢の地に、東京ドーム2.3個分(10ha)の校地が広がります。校内には歴史的教育財産が多くあります。本校が開校する際に、当時の東京府が、徳川三代将軍家光公が愛したと言われる五葉松を2鉢本校に託しました。現在では樹齢500年を超え、代々生徒と教員により大切に管理されています。本校への期待がいかに大きかったかを象徴しています。
昭和の初期に梨の新品種「菊水」と「八雲」が園芸高校で作出されました。現在の主要品種である「幸水」と「豊水」の交配親になった往年の名品種です。校内に新品種作出の碑があります。
さらに、1912年に東京市からアメリカ合衆国ワシントンD.C.に3,000本のサクラが送られ、その返礼として、ウイリアム・タフト大統領から40本のハナミズキが日本に送られました。一般的にハナミズキの寿命は80年程度と言われる中、日本で現存するのは本校にある1本となり、既に100年を超えています。現在は貴重なハナミズキを継承するため、原木から接ぎ木したDNA100%のハナミズキの苗木を、校内を含め各地に提供し植樹していただいています。
もう1つご紹介します。本校卒業生でバラの育種家として活躍された故鈴木省三氏から原種のバラや作出されたバラの寄付を受け、バラ園が整備されました。系統的にバラを学ぶことができるバラ園として貴重な存在と言われています。年2回、春と秋のバラの開花に合わせて一般公開を行い、生徒がボランティアでバラ園の案内をしています。
リーダーの育成(GAP認証取得等)
学校紹介が長くなりましたが、現在は全日制課程に園芸科、食品科、動物科、定時制課程に園芸科が設置され470名の生徒が学んでいます。
農業教育の今日的課題である、GAP(農業生産工程管理)については、東京都GAPの認証取得を受けるとともに、JGAPについては令和2年2月に認証審査を受ける予定で準備を進めています。
また、HACCP(危害分析重要管理点)については、食品科の実習において「工程の見える化」「最適化」を通して、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の学習に取り組んでいます。
学校全体では、SDGsの精神を大切にし、持続可能な社会を担うリーダーの育成に取り組んでいます。
日本学校農業クラブ連盟の活動
Future Farmers of Japan(FFJ)
話は変わりまして、このコラムをご覧になられている皆さまの中には農業系高校をご卒業された方もいらっしゃると思います。令和元年4月からNHK連続テレビ小説・朝ドラ「なつぞら」でヒロイン役の奥原なつを演じた広瀬すずさんや番長役の板橋駿谷さんらが歌った、「FFJの歌」が大きな話題となりました。
FFJとは、Future Farmers of Japanの略で、日本学校農業クラブ連盟という全国組織のことを言います。全国の農業系高校生84,000人が農業クラブ員として活動しています。FFJは農業クラブとも言われますが、これはアメリカから入ってきた教育システムで、School Agricultural Clubを直訳して「農業クラブ」としたので部活動と勘違いされることがあります。
学校農業クラブの目的
学校農業クラブは文部科学省が定める学習指導要領において、教科内の学習に位置付けられ、さらに生徒が学んでいる農業の各分野を基に、学校農業クラブ活動における自主的な研究活動を通して、技術及び経営と管理を体験的に理解し、農業の各分野における実践的な態度と能力を育てることにあります。
そして、学校農業クラブ活動を通して、「科学性」「社会性」「指導性」を身に付けます。
学校農業クラブの活動内容
活動の中核となるのが、プロジェクト学習であり、問題解決の能力、自発的、創造的な学習態度の育成を目指しています。生徒は地域の課題や地域資源の活用などに目を向け、課題を設定し、仮説を立て、いわゆるPDCAを回しながら地域や大学等の関係機関と協働してプロジェクト研究に取り組んでいます。
活動の成果を発表する場が農業クラブ活動にはあります。プロジェクト発表会、意見発表会などは校内での発表にはじまり、都道府県連盟大会、ブロック連盟大会、そして全国大会へと出場することができます。全国大会で最優秀になると全国大会の式典に参加している3000人ほどの農業クラブ員や来賓の前で発表します。
毎年、初めてプロジェクト発表会、意見発表会の生徒の発表をご覧になると、農業系高校生が素晴らしい研究活動や発表をしている、将来に向けて具体的な展望が描けているなどの声をいただきます。とにかく地域密着型の研究や活動発表が多いのが特徴です。
是非機会がございましたら、各都道府県連盟の大会やブロック大会、全国大会をご覧いただければ幸いです。今後の全国大会開催地は、令和2年度が静岡県、以降は、兵庫県、石川県・富山県・福井県(3県共同開催)、熊本県、岩手県の順で開催が予定されています。詳細は日本学校農業クラブ連盟のホームページをご覧ください。
農業系高校が地域課題の解決に向けて取組んでいる様子がよくわかります。社会が不透明な時代に、農業系高校で学んだ生徒は「課題解決型学習」を体得しており、社会課題の解決に果たす役割がますます大きくなると確信しています。そして地域を守り地域を支える人材として一層注目されると思います。
女子生徒の割合も50%を超えました。農業に関する分野はすそ野が広いのも特徴です。農業に関する学習をした生徒たちが広く産業社会や地域社会で活躍する姿をご期待ください。
令和元年8月には「農業高校へ行こう」という本が出版されました。全国の農業系高校の多様性がぎっしりと詰まった本です。一度手に取っていただければ幸いです。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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