新シリーズ『気象情報を活かした強い農業経営』。「気象」の専門家であり、気象データの農業への高度利用を推進されている元ハレックス社長の越智さんが、地球温暖化や自然災害の多発といった大きな変化を前に、気象データを農業経営に活用する意義や今後の展望について解説します。
1.地形と気象は社会全体を支えるインフラ
私は、15年間、気象情報会社の経営に携わらせていただいた経験から、社会の最底辺のインフラは「気象」と「地形」であると思っています。
インフラ(社会的経済基盤)とは一般的には国民全体の福祉の向上と経済の発展に必要な学校、病院、道路、港湾、橋梁、鉄道路線、バス路線、上水道、下水道、電気、ガス、電話、工業用地、公営住宅などのことを指しますが、それらもすべてはその場所その場所の自然環境、すなわち「気象」と「地形」の上に成り立っているものです。
つまり、この「気象」と「地形」がその土地に住む人達の全ての営みに大きな影響を与え、経済や社会、さらには文化や歴史さえも、この地形と気象をベースとして成り立っているということです。
また、風土という言葉があります。これは風と土、まさに「気象」と「地形」そのものです。したがって、その土地の風土を知るためには、その土地の「気象」と「地形」を正しく理解することが必要です。
このように、「気象」と「地形」に関する情報は、人々の日々の生活にとって非常に重要な「絶対インフラ」とも言える情報、すなわち、最底辺で社会全体を支えるような情報であると言えます。
2.気象データを活用する意義
この2つのうち「地形」は簡単に変わるようなものではありませんが、山を切り開いたり、海を干拓したり、河川の流れを変えてみたり、トンネルを掘ったり、橋梁を架けたりと、膨大なお金と労力、さらには時間がかかるものの、人の手で少しは変えることができます。
一方、「気象」は日々ダイナミックに変わるものです。残念ながら、人の手でどうにかなるものではありません。
そのため、「気象」と「地形」がもたらす「自然の脅威」から人々の生命と財産を守り、「気象」と「地形」がもたらす 「豊かな恵み」を享受するために、「気象」の面で人間ができることは、ダイナミックな変化をより高い精度で把握し、予測を行い、そのデータを最大限に活用することなのです。
とくに「地形」および「気象」の変化の影響を受けやすい農業経営においては、そういったデータの活用が、収益の最大化につながると言えるでしょう。
私は、我が国における産業の創出・活性化を目指すことを目的として、気象庁が中心となって結成した産学官連携組織『気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)』におきまして、地方展開担当の副座長を務めさせていただいております。
この1年間ほど、北は北海道から南は九州・沖縄まで全国様々なところで「産業界における多様な気象データの高度利用」をテーマにしたセミナー講演を行わせていただきました。とくに地方では基幹産業が農業というところがほとんどなので、農業を具体的なテーマとして講演をしてほしいというご要望が数多く寄せられます。
農業は自然と直接向き合う産業なので、気象の変化による影響を受けやすく、地球温暖化や自然災害の多発など「取り巻く環境の大きな変化」を実感するとともに、農業経営における気象データの高度利用への注目度もあがっていると言えるでしょう。
3.農業は環境をコントロールする産業
そうした「農業における多様な気象データの高度利用」に関する講演で、まず私が最初に強調するのは「農業が植物を育てる産業だと思ってはいけない。農業は、環境をコントロールする産業なのだ!」ということです。
私が言うまでもないことですが、植物の約92%は炭素(C)と水素(H)と酸素(O)で成り立っています。いわゆる“炭水化物”です。
二酸化炭素(CO2)と水(H2O)が光と熱で化学反応(光合成)を起こして、植物は成長するというわけです。残り8%の成分は土中や大気中から摂取します。もちろんこの8%の成分も植物(作物)を様々に形成するうえで重要な成分ではあるのですが、単に成長させるということにおいては、二酸化炭素と水と光と熱は支配的とも言える4大要素です。
しかも、この4大要素はいずれも人類の力である程度管理(management)と制御(control)が可能なものばかりです。このうち光は日射量、熱は気温です。水も降水量ということもできようかと思います。このあたりに農業における気象データの高度利用の可能性を感じていただけるのではないでしょうか。
次回は、日本で生産されている作物の原産地と気象との関係について解説します。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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