出雲を愛する農業人材の育成
〜地域資源の再発見 出農 地域創成プロジェクト〜
島根県立出雲農林高等学校 校長 三島一友
先生からのエール
「選んだ路を振り返らずに 胸を張って行け ONE TEAM 日本農業!」
1 はじめに
本校は、1933年に島根県立今市農業学校として創立され、創立80有余年の伝統ある農業高校です。この間、1万人を超える卒業生を送り出して参りました。
生命を育て、自らの魂を耕す「魂の教育」を旨としております。刻々と変わる社会情勢の中、変わらず大切なものは、「生命に対する畏敬の念」「自然に対する感謝の気持ち」であろうと思います。本校では、常に命と向き合い、豊かな心の育成に努めております。
2 出雲農林高等学校の現状と課題
本校は、島根県の農業教育を牽引するリーディングスクールとして、4学科8コースを設置する県内唯一の農業専科の高等学校です。これまでに、地域農業を支える人材・専門的職業人育成に関わる文部科学省指定事業に取組む中で、起業家精神を育み、地域資源を活かした農業関連産業の振興ができる各分野のスペシャリストの育成を図ってきました。
在校生の「地域」に対する興味・関心の高さを反映し、本校生徒の地元就職率は81.3%と高い数値を示しています(2018年度卒業生)。直近の進路希望調査においても、多くの生徒が地元就職を希望しており、地域に根ざした進路実現に向けた取り組みが行われています。
近年の進路の特徴としては、進学、就職ともに同比率で推移しています。就職者について、県内就職者の割合が上昇している一方、本校設置学科に関連する産業への就職割合は30〜40%台にとどまっているというのが現状であり、本校を卒業した地元の農家と在学生とのネットワーク強化が課題といえます。
●2016年度から2018年度における進学・就職割合

3 出雲市の農業の現状と課題
出雲市の農業における喫緊の課題として、農業就業者の減少・高齢化が挙げられます。農業就業者の減少・高齢化は、耕作放棄地の増加や、経営規模の縮小につながります。
また、若年層は経済力の高い製造業や大規模商業施設等、他産業への就業を希望する傾向にあり、若い農業従事者の確保は一層困難となっています。
●出雲市の現状についての分析(抜粋)
4 地域農業の課題解決に向けて
そこで、出雲市と学校の共通課題である「出雲農業の担い手・後継者の育成」に向けて、出雲市と学校との協働体制の構築および地域協働学習カリキュラムの開発を目的に、研究が始まっています。
これは、「出雲創生力(企画力・実践力・想像力)」を育成し、地域の第一線で農業を支える「出雲を愛する農業人」として活躍できる人材の育成を図る取り組みです。

次の3つを理念として掲げ、研究開発を地域とともに推進しています。
①持続可能な出雲農業の実現に向け、安全安心な農業学習及び地域資源の活用に関わる持続可能な農業を充実させる。
②スマート農業の実現に向け、ICT機器等を利用した情報活用技術に関わる学習を充実させる。
③地域農業の課題解決に向け他者と協働しながら取り組み、習得した知識技能を広く発信するグローカルな精神を持つ、地域農業の核となる人材育成につなげる。
●事業3か年における出雲農林高等学校の事業推進計画(概要)
5 特色のある学習内容
本校はこれまでに、年間来校者数が1万人を超える「ふれあい動物広場」における学習や、地元地域を中心として年間約20回開催される移動動物園による学習を展開する動物科学科をはじめ、「ここでしか学べない経験・体験学習」をこれまでに数多く展開してきました。
2018年度は、食品科学科で栽培しているブドウにおいて中国地方初となる「GLOBAL.G.A.P.認証」を取得し、植物科学科の水稲において島根県認証制度「美味しまね認証」を取得するなど、国際的に安全安心の評価を得ている農産物の生産管理を実践しています。
また、環境科学科は、2級土木施工管理技術検定試験23名合格や測量士補20名合格(ともに2018年度実績)と学科の特色を生かした資格取得に積極的に取り組んでいます。
さらに、2005年度より植物科学科による「環境保全(ハマボウフウ)」の研究や、2012年より動物科学科による「人と和牛づくり育種連携事業」、2016年より食品科学科による「デラウェア優良系統苗の開発」等、地域や関連産業と連携した共同研究を多く実践しています。
そのため、全県下のみならず県外からも生徒が入学しており、在校生の学びに向かう意欲は非常に高いです。
6 GLOBAL.G.A.P認証の普及に関わるプロジェクト活動
【GLOBAL.G.A.P.認証の普及に関わるプロジェクト活動の実践(欧州視察研修)】
この研究活動は、2018年度に食品科学科の課題研究テーマ「GAPの普及」に関わる取り組みの中で、世界基準である「GLOBAL.G.A.P.認証」をブドウで取得したことにより実現しました。今年度は、次のことを目的に、欧州視察研修を実施しました。
①海外(欧州)におけるシャインマスカットの評価をうける
②G.GAP本部へ表敬訪問し、G.GAP取得の経緯と今後の抱負を説明する
③海外における食と農に関する文化的な違いを体験し、グローバルな視点を持つこと
この研修は、JAしまね本店、JAしまね出雲地区本部、JAしまね斐川地区本部、農林水産省、本校卒業生会である「耕魂会」など、多くの方からのご支援の元、実現することが出来ました。

GLOBAL.G.A.P.認証の運営主体であるFoodPLUSドイツ本部への表敬訪問では、生徒が英語でプレゼンテーションを行いました。
発表した生徒は夏休み期間中、このスライドと原稿作りに多くの時間を費やし、学校の英語科の教員などに相談しながら作り上げ、FoodPLUSの方は流暢な発音と見やすいスライドに感動しておられました。
この視察研修を通して学んだことについて、生徒達は日本に帰国し様々な場面で報告・発表を行い、GAPの普及に関わる研究活動実績を重ねることができ、自身の将来に結び付けることができました。


7 地元企業と連携した協働学習の実践
環境科学科では、地元建設業者の方を講師に招き、学校敷地内で、ドローンを利用したレーザー測量実習を行いました。
実際にドローン飛行の見学や操縦体験を本校グラウンドで実施した際には、操作方法の説明を受け、生徒達が想像していた以上に測量作業が早く、操作が容易であることに驚いていました。最先端の技術や建設業の現状に触れ、今後に活かせる「気づき」を得ることができました。


当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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