地域資源を活用したキャリア教育の実践
〜地域とともに歩む農業高校の姿〜
石川県立翠星高等学校 校長 鷲澤 勝
先生からのエール
「いつも見慣れているありふれた地域の農産物が、改めてその可能性を見つめなおすことで、地域の農業、さらには日本の農業の宝となる」
1.本校の紹介
石川県立翠星高等学校は、石川県中央部の白山市にある、今年で創立144年目を迎える全国でも有数の長い歴史と伝統を誇る農業高校です。2000年に全国で初めての単位制農業専門高校に改編した際に、校名も松任農業から現在の翠星に変更しました。
本校は、総合グリーン科学科1学科で、1年次は、必履修科目を中心とする普通教科や原則履修科目等の共通科目を履修し、2年次より、生徒の進路希望や興味・関心に応じた3コース6分野の専門分野及び選択科目を履修する形態をとっています。
2.生徒の主体性を育むプロジェクト活動
本校では、学校で学んだ専門的な知識や技術を活用し、地域と協働したプロジェクト活動を通して、主体的、対話的で深い学びに繋げる実践を続けています。その活動は、2年次、3年次の課題研究の授業時間にとどまらず、学校設定科目「農業実践演習」、さらには、課外活動の研究会活動でも実施しています。
3.食品科学研究会の活動
食品科学研究会では、地域農業の6次産業化支援を通じた地域の活性化を目指し、2012年に、模擬株式会社「SUISEI-FACTORY」を起業し、地域農業関係者と商品開発や普及啓発イベントへの参加協力など、多彩な活動をプロジェクト活動と関連させて実践しています。
(1) 健康野菜「ヤーコン」特産化プロジェクト
野々市市では、2009年から休耕田を利用したヤーコンの栽培が行われていましたが、加工品の種類がほとんどなく、保存期間も短いため、地域のブランド野菜として知名度が向上していませんでした。
ヤーコン生産者からの依頼を受け、「SUISEI-FACTORY」の業務として、商品開発を進め、「ヤーコン寿司」の完成に結びつけ、「ののいち健康野菜 ヤーこんにちは寿司 翠星」の商標登録、ヤーコンジャム、ヤーコン酢漬けの製品化にも成功し、地域の活性化に貢献できました。
さらに、ヤーコンスイーツの開発にも取り組み、製菓材料として開発、製造したヤーコンコンポートは、野々市市内の小学校の給食にも取り入れられ、地域の子供たちの食育活動にも一役買うことになりました。
(2) 加賀丸いもプロジェクト
能美市の伝統作物「加賀丸いも」は、とろろや酢の物として馴染みのある年配の方に比べ、若者の認知度が低く、生産者は、加賀丸いもの将来に不安を抱いていました。
JA根上より、若者に支持される丸いも加工品の開発を依頼され、2012年から4年にわたり、パン、シフォンケーキ、マフィン、クッキー、パウンドケーキ、タルトを完成させ販売しました。5年目からは、加賀丸いもケーキミックスの開発・商品化と販売、「加賀丸いも応援団」の結成と加賀丸いもの普及を目指した情報発信、「加賀丸いもケーキミックス」を利用した食育・交流活動を実施し、丸いもスイーツをおいしそうに頬張る子供たちに加賀丸いもの明るい未来を感じることができました。
(3) 「金沢ゆず」廃棄果皮ゼロプロジェクト
「金沢ゆず」は肉厚な果皮と、強い香りが特徴で、ほとんどが果汁として利用され、搾汁後の果皮の約半分は食品加工業者が引き取り、残りの廃棄果皮の用途が課題となっていました。
JA金沢市金沢柚子部会から果皮の再利用について依頼があり、2011年から、ゆずマーマレード、製菓材料ゆずピール煮、シフォンケーキ、マフィン、クッキー、パンを開発し、販売を続けてきました。
さらに、金沢ゆずの6次産業化を支援するため、お菓子としての「ゆずピール煮」の商品化を生産者と協働して成功させました。外観の悪い果皮からは、アロマデザイナーや県内大学の協力を得て、アロマオイルの抽出に成功しました。
アロマオイルは、県外企業との共同開発により、金沢ゆずキャンドル、金沢ゆず石鹸として商品化され、アロマオイル抽出は、障害者就労施設への委託が検討され、農福連携への可能性も広がっています。
アロマオイル抽出後の廃棄果皮残渣は、県内企業に炭化を委託し、最終的にゆず農園に散布することで循環型農業と6次産業化を実践することができました。現在は、この「廃棄果皮0システム」をかんきつ生産者に導入してもらう普及活動を全国展開しているところです。
4.地元白山市からの期待
白山市地産地消課では、安全・安心な地元産農林水産物の生産体制の充実や食育活動推進の事業を積極的に行っています。2018年度より、本校との地産地消推進事業が始まり、地元のブランド農作物の知名度向上に向けた商品開発が進行しています。
伝統野菜「剣崎なんば」、松任特産の「松任梨」が、生徒の視点を取り入れた発酵食品やパン、スイーツとして商品化され、地元の道の駅や地産地消イベントで販売されることで、地元白山市の本校への期待はさらなる高まりを見せています。
5.グローバルGAPの認証取得
2017年度より生物資源コース農学分野において、石川の主力作物のコメのグローバルGAPの認証取得に取り組み、地元の農業法人、県農林水産部の指導助言を受け、2018年9月に公開審査会を開催、翌10月にはグローバルGAPの認証を取得しました。
認証取得後には、地域の農業関係者を招きGAP研修会を開催し、生徒が農家の先生として、グローバルGAPについての講義を行いました。
6.おわりに
本校のこれまでの農業教育・プロジェクト活動の実践は、外部からも高く評価され、日本学校農業クラブ全国大会において、2015年から4年連続入賞を果たし、2017年には、最優秀賞・文部科学大臣賞を受賞、さらに、2018年には、キャリア教育優良教育委員会・学校等文部科学大臣表彰を受けました。
加えて、2019年には、日本学校農業クラブ全国大会において、再び、最優秀賞・文部科学大臣賞を受賞しました。また、第7回食品産業もったいない大賞で、高校生初となる農林水産大臣賞も受賞しました。
地域資源である地域の農産物、地域の人々を農業教育に取り込んでいくことで、農業高校生の生きる力を育むことができます。常にその精神を持ちながら、今後も地域に貢献できる資質・能力を身につけた人間を育てていきたいと考えています。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日