コロナ禍後の地域分散型エネルギーと農業について
大都市への人口、産業の集中は、効率的なエネルギー利用を考えれば当然の帰結であり、都市部での極端な貧富の格差が起こると同時に、地方での人口減少と産業の衰退を引き起こしています。このような傾向は世界的に起こっており、小さな国でも認められます。
一方、今回の新型コロナウイルスによるパンデミックは、急速にテレワークを促進しており、地方の役割が大きくなっています。
今までの化石資源エネルギーは中東などから都市部に運ばれていたのに対し、再生可能エネルギーは国内の各地方で分散的に生産されます。
今まで、地方ではエネルギー利用効率が悪く、農業以外の産業が育ちにくい状況でした。しかし、農業による食の供給に加えて、エネルギー生産、テレワークによる人材の確保ができれば、新たな地域モデルや産業構造への変換が可能になると考えられます。
国土面積が小さな日本においては生活圏での太陽光発電設備や風力発電施設の設置には限界があり、再生可能エネルギーを導入するためには、農地や森林の利用が重要な役割を果たします。
単に、地方で生産した再生可能エネルギーを都市部に供給するだけでは、化石資源エネルギーが再生可能エネルギーに変わっただけで、従来と同じ構造になってしまいます。地産地消としての再生可能エネルギー生産を行うことがポイントになるということです。
地産地消の再生可能エネルギー生産では、農業の多面的役割や複雑な状況を考える必要があります。
農業は単に食料生産を担うだけではなく、環境・景観保全に貢献しており、農業従事者は地域の担い手です。日本では、農家の8割ぐらいが2ヘクタール未満の農地を耕作している「家族農業」です。営農型太陽光発電は家族農業を支え、地方コミュニティーに再生可能エネルギーを供給する可能性を有しています。
環境に配慮した地産地消の営農型太陽光発電を進めるということは、すなわち耕運、除草、収穫、運搬、作物の冷蔵保存に至るまで、全ての動力エネルギーを化石資源エネルギーから再生可能エネルギー由来の電力に変えていくということです。そのためには、再生可能エネルギー駆動型の農業技術開発も必要となり、そのことが新たな産業にも繋がるでしょう。
おわりに
今回のコラムの連載では、世界的な気候変動に対する対応の一つとして、再生可能エネルギーを農業に導入することに関する話題を紹介しました。コラムの執筆中にコロナ禍が起こり、その結果、テレワークが広がり始めています。営農型太陽光発電とテレワークは地方での新たな生活様式を支えるキーポイントであると思っています。
本稿は、私が書いた総説論⽂「脱炭素社会のための持続可能な農業– 作物⽣産と再⽣可能エネルギー⽣産の両⽴ –」⽣存圏研究 第15号p.44-52 2019年をベースにしたものです。参考⽂献などの詳細は、この総説をご覧ください。
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