(YUIME株式会社 取締役 江城 嘉一)
連載初回の今回は、弊社の成り立ちをご紹介させていただくなかで、農業の人材不足という課題解決および農業経営の成長に向けて、人材支援サービスを活用し、外部人材を受け入れることの意義について、紹介させていただきます。
いま手をひかれたら、島を守れなくなる
南大東島。沖縄本島から約400㎞東にぽつんと浮かぶ絶海の孤島です。ここでのサトウキビ製糖事業の人材紹介が、私たちの農業支援の原点でした。
(沖縄本島から約400km東に浮かぶ南大東島の製糖工場)
「沖縄の離島ライフを満喫しながら働いてみませんか?」――そんな呼びかけで2013年から始めたのですが、最初は10名程度の募集人数。採算が取れる規模ではありません。
IT人材の育成事業を手がけるため、沖縄オフィスに入社したばかりの私は、状況を確認しに南大東島へ赴き、クライアントの「大東糖業」さまを訪ねました。それまで、ITに関する知識には自信がありましたが、農業についてはまったくの素人でしたから、当初は撤退も視野にいれた訪問だったのです。
そんな私に対して、大東糖業さんは人材支援を続けるよう必死に訴えました。「沖縄じゅうの派遣会社にあたったが、どこも引き受けてくれなかった。いま、あなたの会社に手をひかれたら南大東島の基幹産業である製糖事業が立ち行かず、過疎化が止まらなくなる」と懇願するのです。
製糖工場の煙突には〈さとうきびは島を守り島は国土を守る〉と大きく書かれています。国産の砂糖の原料であるサトウキビは、沖縄の経済を支える重要な農産物であると同時に、南大東島から人がいなくなれば、日本の領土・領海の一部が存続の危機に瀕します。自分が携わっている農業が、どんな意味を持っているか、どんなに大きな役割を担っているのかが理解できました。私の価値観が180度変わった瞬間でした。
……どうするか悩みました。サトウキビは南大東島以外の沖縄の離島でも栽培しています。ならば全島制覇しようと、離島の製糖会社を管理・運営するJAおきなわさまに商談をもちかけました。
なかなか話がまとまらなかったのですが、何度かやりとりするなかで、粟国(あぐに)島でも深刻な人材不足に陥っていることを知り、支援が始まりました。
(南大東島のサトウキビ畑)
スタッフを分け隔てなく労務管理
サトウキビ製糖の労働期間は12〜3月。日中は、収穫から計量、糖度の計測、鎌で割く作業などが中心で、その後は工場を24時間フル稼働させて、絞った糖汁を煮沸してから、蒸発させて、原料となる糖をつくります。
そのため勤務は12時間交代制と、心身ともにハードです。ストレスのせいか、夜勤中のスタッフが深夜3時にいきなり太鼓を叩いて踊り出すこともありました。
仕事場には、クライアントが現地で直接雇用した従業員と、弊社から派遣しているスタッフが一緒に働いていますが、雇用形態で分け隔てることなく、どちらも弊社の担当者がケアしています。
担当者の仕事は、時々起きるトラブルの解決や、スタッフの生活面のサポートまでこまめに対応します。右から左へ人を手配したら終わりではありません。サトウキビの収穫が始まると、クライアントは業務に手一杯で細かな労務管理まで神経が行き届かないことが多いため、非常に感謝されました。
南大東島や粟国島で実績を積み重ねるうちに、次第に弊社の評判が近隣の島々にも知られるようになりました。その過程で、与那国(よなぐに)島、伊江(いえ)島など、JAおきなわさまが運営する大半の離島や、民間企業が運営する西表(いりおもて)島などの製糖事業の派遣を受託することになったのです。2018〜19年にかけて9島10か所で合計160名の人材を派遣しました。
沖縄と北海道を結ぶ「産地間連携」の取り組み
サトウキビ製糖の仕事は短期です。今年のスタッフが来年も必ず来てくれるとは限りません。しかし、なかには、ずっと弊社で農業に従事したい人たちが出てきました。とはいえ沖縄にはサトウキビ以外、主力の作物がありません。
考えあぐねていたところに、大阪に本社がある商社の稲畑産業さまから依頼を受けました。カナダの栽培業者と合弁で、北海道の余市にブルーベリー農場を作りたいので、人材を派遣して欲しいというのです。
担当者の方は、沖縄の離島でのYUIMEの実績を知っていて、「スタッフが年間を通じて働けるよう、北海道と沖縄で行き来できるようにしてみては?」というアイディアを提供してくれました。まさに「渡りに船」というか、「我が意を得たり」の提案でした。
期待に胸を膨らませて、北海道進出に挑みました。ところが実際に派遣の依頼をいただいた人数は5人。そこで派遣先を増やそうと、北海道内の農家さんに片っぱしから電話をかけました。営業先には、サトウキビの資料を手に、農業に対する思いの丈をぶつけたものです。
(派遣先の北海道の選果場で働くスタッフたち)
その結果、十勝平野の豊頃町を中心に大根農場を運営・出荷販売している「北海道グリーンパートナー」さまと、帯広市の「和田農園」さまとの間で、「産地間連携」が実現しました。
産地間連携は、たとえば12〜3月にかけて沖縄でサトウキビの製糖に携わった後は、北海道に移って5月から大根畑を耕し始め、8〜9月に収穫のピークを迎えるという具合で、年間を通じてスタッフを稼働させることができる仕組みです。
この仕組みができたことで、私も完全にIT事業から離れて、農業人材の支援サービスに特化して働くようになりました。
外国籍人材を受け入れる「特定機関」へ
産地間連携を始めて2年ほど経った2018年、沖縄県が外国人の農業就労を認める「特別区認定」を受けました。これは、人権に配慮した適切な管理体制のもとで、一定水準の技能を要する外国籍人材の入国・在留を可能とする「国家戦略特別区農業支援外国人受入事業」です。
特区になると、その区域内にある農場で働く外国籍人材は、厚生労働省が許可した「特定機関(人材派遣会社)」と雇用契約を結んだうえ、人材派遣会社が外国人を自社の派遣社員として、派遣することになります。
(南大東島のサトウキビ畑では日本人と外国籍人材が協力して働いている)
弊社はサトウキビ製糖での派遣実績が評価されて沖縄県などから推薦を受けたことと、さらに、IT人材の育成事業でミャンマーやベトナムでの雇用実績も認められて、特定機関として認定されたのです。
くわえて、2019年には、技能・知識・経験を活かして特定の産業分野で働く外国人を対象とした新たな在留資格「特定技能」が創設されました。特定技能には2種類の在留資格がありますが、農業は「特定技能1号」にあたります。繁忙期と閑散期の差があるため、派遣勤務が認められています。
YUIMEでは2021年2月現在、125名の特定技能1号外国籍人材を雇用しています。このほか、過去に何度か派遣した経験がある日本人スタッフも、リーダー役として成長していて、沖縄と北海道をはじめ、栃木、愛媛、奈良、熊本、鹿児島など日本全国の農場で頼りにされています。
派遣先にとって、外国籍人材は単なる戦力アップにとどまりません。リーダー役を中心に長期的な支援が可能になり、新たな働き手が加入するたびに、仕事のやり方を手取り足取り教える手間が省けますので、作業効率が格段に良くなります。これらの作業をYUIMEに任せることで、クライアントは農地拡大や経営基盤の強化などに注力できるようになるのです。
人材不足という農業の課題解決を通じて、働き手もクライアントである農家も共に成長し、第一次産業の未来を創り出したい————これが私たちYUIMEの農業に対する思いです。
次回は、これからの日本の農業に欠かせない外国籍人材の活用についてお話しましょう。(聞き書き:佐々木聖)
シリーズ『「人材支援」が結ぶ 経営と就農の新しい道』のコラムはこちら
YUIME(ゆいめ)は、農業の人材派遣・農作業受託を中心に第一次産業をサポートする企業で、産地間連携を基軸に作られた農業人材支援体制、サービスを提供しています。私たちは、全国の農家・事業者の必要な時に、必要なだけの労働力を支援します。また、登録支援機関として外国籍人材を受入れる企業が行うべき義務的支援を受入企業に代わり行うことも可能です。労働力不足でお困りの方は、コチラよりお気軽にお問い合わせください。
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