(公益財団法人日本生産性本部 統括本部国際協力部 高柳 敦彦)
前回のコラムでは、調査にご協力頂きました牧場の5S+Sに関するカイゼン提案についてご紹介致しました。今回は、ムダ取りカイゼン提案事例についてご紹介したいと思います。
5S+S同様に、管理が非常に行き届いており、カイゼン箇所を見つけるのは容易ではありませんでした。そこで「7つのムダ」の中の4つに該当する事例に注目しました。
「運搬のムダ」として、餌づくりにおける空運搬、清掃時の空運搬の2点。
「動作のムダ」として、搾乳時のムダが1点。
「加工のムダ」として、餌づくり時のムダが1点。
「手待ちのムダ」として、搾乳におけるムダ、残餌回収におけるムダの2点。
計6つを提案しました。今回は、この中から、酪農現場で大きな業務割合を占める搾乳と牛舎管理・残餌回収に関する2つの事例のムダについて紹介致します。
搾乳における動作のムダ
着目した問題点
こちらの牧場ではパラレルパーラーを採用しており、48頭(片側24頭×2系列)を同時に搾乳できます。牛は、一列で一頭ずつ入場しますが、退場は全ての牛の搾乳が完了したところで一斉に退場します。
調査の結果、一列に並んだ24頭の先頭の牛の入場完了から、最後の牛の搾乳作業が完了して一斉に退場するまでの一連の作業時間(サイクルタイム)は、平均約12分でした。
一方、実際の搾乳自体の時間(ミルカー装着から離脱までの時間:付加価値時間)は1頭当たり約4分です。
これは、搾乳自体以外の時間(牛の入場、前作業、後作業、待ち時間:非付加価値時間)が約8分発生しているということです。
ちなみに、サイクルタイム12分の内、最初に入場した先頭の牛については、入場してから搾乳開始までの時間は2〜3分、搾乳自体の時間は4分、搾乳完了から退場までの時間は5〜6分でした。
つまり、先頭の牛は、搾乳が完了してから退場(他の牛の搾乳完了)まで、5〜6分パーラー内で待っているということがわかりました。
カイゼン案
この場合、搾乳自体以外の時間(すなわち牛の待ち時間)を短縮することで、搾乳自体の時間とサイクルタイムの乖離を減らし、全体の作業時間や牛の待ち時間短縮につなげることができます。そのためにはどうしたらよいか、牧場側との議論により、以下のようなカイゼン案が挙げられました。
① 各作業者の作業の習得度に応じて配置を考え、それぞれの作業分担を明確にする
② 各作業者の配置ごとの作業の優先順位を決める(手が空いた時のヘルプ作業についても優先順位を決める)
③ 各作業者の最も効率的な(ひとつの作業内の)動きや動線を決める
これにより、余分な動き(動作のムダ)や移動(動線のムダ)のみならず、作業者間の作業の重複も避けることができ、搾乳作業全体が効率的になります。そして、いち早く牛を退場させることができ、作業時間の短縮につながるのです。
搾乳作業は、全労働時間の多くを占める作業であり、かつ酪農家にとって根幹となる重要な作業です。一つのカイゼンによる短縮時間は僅かかもしれませんが、毎日必ず発生する搾乳作業を効率化することによって、短縮時間が蓄積され、労働生産性向上に貢献する大きな可能性を秘めています。
残餌回収における手待ちのムダ
着目した問題点
こちらの牧場では、毎朝第1回目のTMR給餌作業の前に、牛舎内の残餌を回収しています。
この作業では、まず一名(作業者①)が牛舎内でフォークリフトを利用して残餌を一ヶ所に集めます。
集められた残餌は、別の一名(作業者②)が逆側からフォークリフトで回収しトラックに装入します。
この際、作業者①が残餌を集めた後、作業者②が残餌を回収するまで手待ち時間(10〜20分程度)が発生していました。これは本作業の前に二人の作業者が別々の離れた場所で作業しているため、残餌収集(作業者①)と回収(作業者②)のタイミングを合わせる難しさから発生する手待ちのムダと言えます(下図)。
カイゼン案
二人の作業者の作業のタイミングを合わせることにより、待ち時間を低減することができます。
一つの方法は、あらかじめタイムスケジュールを組むことです。例えば、回収作業が終了するタイミングで、もう一人の作業者が餌を回収できるように、「8時30分までに作業者①が残餌の収集作業を終える」、同じく「8時30分に作業者②が、(作業者①が集めた)残餌を回収する」など、時間と人の役割分担を明確にして作業マニュアルに反映させ、実行します。これにより、手待ちのムダを防げます。
もし時間で管理できない場合(日によって作業時間が変わってしまう性質の作業の場合)、二人の作業者同士でタイミングを合わせるための合図や連絡方法をあらかじめ決めておくことも有効です。
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当該コンテンツは、公益財団法人日本生産性本部の分析・調査に基づき作成されています。
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