日本農業経営大学校は農林中央金庫が中心となり、JA全中、JA全農、JA共済連をはじめとする農業界や産業界のリーディングカンパニーの団体・企業の支援で2013年に開校した次世代を担う農業経営者と、地域農業のリーダーを育成する教育機関です。
本連載では全国各地で活躍する若き農業経営者である本校の卒業生をご紹介します。
福岡県久留米市に今、若手農家で注目される女性経営者がいます。中村美紗さん、プロキックボクサーから経営者になった彼女の原点ともいうべき日本農業経営大学校での学びと、彼女の現在を紐解きます。
【本編の最後にインタビューに関するYoutube動画へのリンクがあります】
<プロフィール>
氏名:中村美紗さん(日本農業経営大学校第3期生)
就農地:福岡県久留米市
経営内容:100年以上続く梨農園である自家を継ぎ、新たにぶどう・いちごの栽培を開始し、フルーツの直売所や観光農園、カフェを展開する「フルトリエ 中村果樹園-fruitelier-」を経営。2021年2月からオンラインショップもオープン。
農家を継ぐ決意のきっかけ
自家は100年以上続く梨農園、小さな頃から農業が身近な環境で育ち、祖父、父が生産する農産物が好きでしたが、農業を「継ぐ」ことは考えたことがなく、高校卒業後に愛知県の自動車部品メーカーに勤務しておりました。
充実した毎日の中で、「何か運動でもしてみよう」と始めた、「本場タイ人が指導」するキックボクシング。何にでものめり込むタイプで、過酷な練習にも耐え抜いた結果が、自分でも想像だにしていなかったキックボクサーとしてのプロデビューでした。
しかし、これからという時に大きなケガを負ってしまい惜しまれつつ引退、周囲の勧めでトレーナーとなり、裏方として格闘技を支えていた時に転機が訪れました。
転機となったのは祖父の病気でした。これまで家族で支えてきた自家の農園も、いつしか無くなってしまうかもしれないという虚無感に襲われ、それならば私が農業を継ぐと決意しました。
就農を決めてからは、自分自身が何をすべきか考え、農業をはじめる準備のつもりで日本農業経営大学校に入学しました。
日本農業経営大学校での学び
一番の学びは、2年間かけて経営計画を徹底的に練り上げたことでした。経営のゼミに所属し、経営計画のもとになるマーケティングや市場調査を綿密に行ったほか、起業家やコンサルの方から指導も仰ぎ、就農してからの道しるべができました。
地元から離れ客観的に生まれ育った故郷を見て、初めて気付かされた“強み”を知り、地元を理解できたからこそ、驚異的なスピードで事業を進めることが可能となり、また、その急激な変化に対して地域の理解を得られたからこそ現在のフルトリエがあります。
学校の勉強以外では、同期をはじめ先輩後輩、講師の方や実習先の方との多様なネットワークを構築出来たのも大きな財産となりました。例えば、営農する卒業生が全国にいるため、情報交換は日常的に行われています。
新型コロナウイルスの影響による打開策、消費トレンド、店舗のインフラ整備にかかるものまで、ありとあらゆる情報のやり取りをはじめ、様々な場面でその人脈が活かされています。
在学中はせっかく上京したのだからと、異業種交流会や様々な勉強会へ積極的に参加しました。
2年間の学びを長いと感じる人も多いかもしれませんが、学校で学ぶことが理想の農業を実現するための助けになることは間違いなく、まさしく「急がば回れ」だと中村さんは語ります。
徹底した差別化戦略でお客さんに選ばれる農園へ
在学中から就農の準備を行っていたものの、自家に戻ってからの2年間は、夜も朝もなく仕事をしました。朝早くからの農作業に加え、直売所オープンに向けた準備、さらに5年以内の計画としていたカフェのオープンも、前倒しで2年目にオープンすることに決め、準備を進めました。在学中の準備が活きました。
中村さんの農業経営のポイントになるのが、農業の価値観にとらわれずに、周りにないサービス・価値の提供。
例えば、高齢の方や車椅子の方のためのバリアフリーのトイレを設置したり、車椅子の方やベビーカーを押した方もフルーツ狩りを楽しめるようにハウス内の通路を広げ、段差をなくしたりしました。単位面積当たりの収入を上げるために通路を狭くし、なるべく多くの苗を植えるというこれまでの考え方とは大きく異なります。
収量は減ることになりますが、平日に需要のある障害者施設やデイサービスの方に向けてのサービスを提供したいという想いに迷いはありませんでした。ハンディキャップの有無で自身の農園を楽しめないことは、彼女のポリシーに反したに違いありません。
これからの展望
中村さんは自ら経営するフルトリエを成長させるとともに、2020年度は、日本農業経営大学校ビジネスコンテスト最優秀賞受賞、農山漁村女性活躍表彰優秀賞(経営局長賞)受賞と目覚ましい活躍を見せました。
今後は、自身の農園満足度のさらなる向上を目指すのはもちろんのこと、全国で観光農園等を始めたい人のサポートにも力を入れ、農業全体の底上げを行うための次の展開の準備を始めています。
【インタビューに関するYoutube動画へのリンクはこちら】
- 高度な農業経営者教育を提供する日本農業経営大学校-
次世代を担う農業経営者であり地域のリーダーとなる人材の育成を目指し、2年間・全寮制教育により少数精鋭の経営者教育を行います。
本校は、平成25年4月に開校し、定員20名を対象に全国から意欲のある学生を募集し、「経営力」、「農業力」、「社会力」、「人間力」の4つの力を、講義・演習(ゼミナール)や現地実習(農業、企業)、寮生活を含めた幅広い活動を通じてバランス良く育み、将来の事業計画を確立します。
アグリフューチャージャパン会員ネットワークを通じて、産業界・農業界・学界等多方面の講義・実習の展開や、卒業後のネットワークづくりなどをはかれることが、本校の大きな特徴です。
■ 詳しくは、本校のホームページをご覧ください。
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