広島県立西条農業高等学校 校長 澄川 利之
先生からのエール
「農業の未来は明るい!」
1次産業の1つである農業は、「食」につながる産業です。「食」は人を育て、人類を創造し、社会を構築していく上で重要な営みであり、何を置いても、豊かな「食」は私たちを幸せにしてくれます。その「農業の未来」が明るい未来であることは、疑う余地のないことと思います。
しかし、そのためには、農業の現状、農業を取り巻く環境を踏まえ、私たちの覚悟が求められるとともに、私たちの行動が左右することは言うまでもありません。今の農業を楽観することなく、これからの農業を創ることが不可欠と考えます。
これからの農業を創る上で、人財育成はとても重要なポイントの1つと捉えており、農業高校に勤務できることを光栄に思い、日々、ワクワクしながら生徒たちと活動しています。
1.本校の紹介
さて、本校では、令和2年度、創立110周年を迎えました。農業高校として、生命尊厳の学びを基盤とした伝統ある本校の強みを生かしながら、農業高校の新たな教育モデル開発に向け、平成24年度(第1期)から「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)支援事業」に取り組んでいます。
平成29年度(第2期)からは、「農業・食料問題を科学技術の力で解決するグローバル人材育成プログラムの開発」を研究開発課題として、農業と理科等の融合による探究活動の深化と発信力の強化に取り組んでいます。主な取組としては、次に示すような内容です。
科学リテラシーの育成
農業・食料問題を科学技術の力で解決していく上で、生徒が構想力を持ち、様々な学問や技術を総動員して、実現可能な解決策を見出していくためには、科学技術リテラシーの育成は欠かせない最大のポイントと捉えました。
そこで、科学技術リテラシーを9つの能力と整理・定義し、評価基準を定め探究活動だけでなく、全ての教科・科目で育成するようカリキュラムマネジメントを進めています。
さらに、グリット(目的をたち成するために粘り強く努力し、物事を最後までやり遂げる力)が、9つの能力をより効果的に発揮するために不可欠なものと捉え、評価の研究を進めています。
探究的な学びの深化
探究的な学びの深化に向けて、第1期で開設した学校設定科目「アグリサイエンス」を改善し、農業と理科の教員が綿密に連携し、探究の過程を高度化させながら6つの学習分野をそれぞれ2周体験させ、探究活動の基礎を学ばせることとしました。
その後、SS課題研究Ⅰ(2年生)、SS課題研究Ⅱ(3年生)へと発展させ研究内容・探究活動の深化、課題解決能力の育成を進めています。
海外姉妹校との共同研究
本校では、アメリカ、イタリア、フィリピンに姉妹校を有しています。これらの姉妹校と共同研究をスタートさせ、今年度開催予定の「高校生科学技術グローバルサミット」において、研究成果を発表するなど、グローバル人材の育成の観点から、発信力の強化にも努めています。
ビジョン思考を取り入れた研究「宇宙農業」
課題設定能力を高め、自分ごととして研究を捉えることができるよう「ビジョン思考(斬新なビジョンを駆動力にして創造する思考法)」を取り入れた研究手法の開発もスタートしました。
そのためのムーショット(未来から逆算した斬新なビジョン)題材として、7つの学科がそれぞれの特徴を活かして探究できるよう「宇宙農業」をテーマとして取り上げ、課題研究を展開しています。
「細菌を用いた食糧生産、廃棄物処理の循環」「宇宙空間での食事における幸福感」をテーマとした研究は、第28回衛星設計コンテストで、また、宇宙食として昆虫に着目した「微小重力環境がチャイロコメノゴミムシダマシに与える影響」は、広島県科学賞で、それぞれ高い評価もいただきました。
宇宙農業をテーマとした研究は、持続可能で創造的な農業の課題解決にも繋がるものとして進めています。
これらの取組は、これまでの農業教育をベースとして培ってきた、農場等での実習、観察・実験の上に成り立っており、生命の尊厳を基盤とした農業高校での学びを更に発展充実させていくものと考えています。
また、部活動においても、陸上競技部の全国高校駅伝優勝や、野球部の3度の甲子園出場、近年では、空手道部や馬術部、合気道部、弓道部の全国大会出場、自然科学部(全国高等学校総合文化祭2位)など、運動部・文化部を問わず積極的に活動し、人間力の向上にも努めています。
2.農業を学ぶ全国の生徒たちの活動
これらは、本校の取組の一部ではありますが、全国の農業高校、農業の科目を有する学校等で学ぶ生徒たちは、これ以上の様々な教育活動に取り組んでいます。
農業高校には、学校農業クラブ連盟があり、生徒の科学性・社会性・指導性を高めることを目標に、生徒の自主的・主体的な活動を展開しています。毎年、全国の農業高校生が集い、プロジェクト型学習などの研究成果、身に付けたスキルなど活動の成果を競い合ったり、披露し合ったりします。
残念ながら、新型コロナウィルス感染症の影響で、昨年度の全国大会は開催できませんでした。例年のこの大会では、農業高校生の互いに高めていく姿は、とても美しく、これからの明るい農業を物語っています。
こういった全ての学びをとおして、農業高校生たちは、安定的な食料生産と環境保全及び資源活用等の現状を踏まえ、持続可能で創造的な農業や地域振興の観点から、これからの農業の姿を描き、地域や社会の健全で持続可能な発展を担う職業人として、逞しく育ってくれるものと考えます。
したがって、「農業の未来」は間違いなく明るい!と考えています。もちろん、生徒たちに任せるだけでなく、私たち一人一人が現状をしっかりと正しく捉え、見つめ、グローバルな視点で、地球サイズでこれからの社会を構築していくことも大切であると考えます。
今後も生徒たちの学びを止めることなく、「農業の未来」を見据えた教育活動に努めて参りたいと考えています。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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