(公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部 平澤 允)
コラムVol.7〜11では、カイゼンの考え方を紹介し、その効果と具体的な酪農現場における適用事例を紹介してまいりました。
本コラム並びに次回のコラムでは、他の産業での適用事例について紹介します。この紹介を通じてカイゼンの考えがなぜ重要なのか、第一次産業と共通する考え方としてどのようなことがあるのかをご理解いただけますと幸いです。
サービス業界でのカイゼンの考え方
今回のコラムで取り上げる他産業は私自身も身を置くサービス業についてです。私の普段の業務はコンサルティングや社内人材育成の研修講師など、いわゆる無形サービスと呼ばれる形のないコトを扱う仕事をしております。
サービス業には、次の4つの特性があります。
①無形性(カタチも在庫も無い)
②同時性(生産と消費が同時に行われる)
③変動性(タイミングや提供する人や受ける人で価値が変わる)
④消滅性(残すことが出来ない)
これらを踏まえて、サービス業では在庫や取り置きをできない前提で「“価値を生み出す仕事”の時間を最大化する」ことと「価値が最大になる体制で提供する」ことが重要になります。
“価値を生み出す仕事”の時間を最大化する為には、価値創出に繋がらない時間を最小限に抑える必要があります。
ですが、とある10年ほど前の調査で「事務職員が1年間に資料を探すために、どれくらいの時間を費やしているか?」という調査があります。非製造業の標準的な年間労働時間は約2,000時間(経団連19年調査より)、そのうちどの程度、価値を生み出すことの無い“資料探し”の時間に費やしているのか考えてみてください。
答えは本コラムの最後に紹介させていただきます。
サービス業界でのカイゼン事例 ①整理整頓
上記に挙げた”資料探し”については、これまでのコラムで紹介してきた5Sの整理・整頓をしっかり行っていれば最小限に抑えられる無駄な作業と言えます。
以下の写真1は約5年前の月1回の大掃除後の私のごみ箱です。これでも廃棄する紙資料の一部で、1か月間で不要な資料がどれだけ手元にあるかイメージを持って頂けるかと思います。
(写真1 大掃除後のごみ箱)
紙の印刷をなるべく抑えるようになった今ではパソコンに資料を保存するようになりましたが、忙しい日が続くとデスクトップ画面(パソコンを起動して最初に表示される画面)は写真2のようになり、資料を探すのが大変になってしまいます。
特に、デジタルの環境下では物理的に紙が積み重なることは無い為、散らかっていることに気づきにくいのかもしれません。
(写真2 パソコンのデスクトップ画面)
サービス業界でのカイゼン事例 ②ムダ取り
生産性を高めるためのムダ取りについて、サービス業のムダは見えにくい場合があります。
事務仕事では”資料の作成”を行う機会が多々ありますが、製造業と違い有形のモノではない為、出来上がったものが不良かどうか(不良を作るムダ)の判断がしにくくなってしまいます。
また、求められていない情報を集める・過度の装飾をするなどの不必要な作業(加工そのもののムダ)も発生しがちです。価値に繋がるかどうかという観点で出来上がりの基準を予め明確にしておき、やらなくていい(=ムダな)作業を避けることが重要となります。
サービス業界でのカイゼン事例 ③組織での取組み
最後に紹介するのは、カイゼン活動の習慣化についてです。カイゼン活動はリーダーが率先して取組み、各々が自分ごととして捉えて習慣化することが重要だということについては、これまでのコラムでも紹介してまいりました。一方で、人には集団の中に紛れると100%の力を発揮しなくなるという行動特性があります。
この特性をなるべく防ぎ、自分ごととして習慣化する手段として「少数精鋭」での取組みがあります。ヤマト運輸では拠点数を多くし、1拠点当たりの人員を少なくすることで、個人の力がチームの成果に与える影響を大きくする環境をつくっています。
また、職場の目標も拠点ごとに設定し、個人の努力が成果として見えるようにすることで、一人一人が手を抜くことなく日々生産性向上に取り組む組織作りをおこなっています。
まとめ
サービス業においても働き方改革の推進と生産性向上を両立する為には徹底的な業務効率化、すなわち付加価値を生まない無駄を徹底的に排除することが重要です。
大きな違いとしては、形のないコトを扱う為、価値が見えにくいということだと考えられます。ですが、自分たちが提供する価値が何なのか、自分の仕事は価値に繋がるのかという観点を見失ってしまうとムダが発生しやすくなるという点は業界に限らず共通することではないでしょうか。
※「事務職員が1年間に資料を探すために、どれくらいの時間を費やしているか?」
正解は年間150時間です。年間2000時間のうち7.5%の時間を占めることを考えると、カイゼンの余地は大いにあると言えます。
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当該コンテンツは、公益財団法人日本生産性本部の分析・調査に基づき作成されています。
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