(株式会社マイナビ 執行役員 農業活性事業部事業部長 池本博則)
過疎・高齢化や他業種との競合等により、歯止めがかからない農業の担い手不足。
高齢農家の引退に伴う大量離農や後継者不足、退職年齢の引き上げによる農業界への人材流入減など、近い将来起こりうる危機は枚挙にいとまがありません。
シリーズ『人材のプロが見る、農業の課題と光明』では、主に人材ビジネスを手掛ける株式会社マイナビが、約4年間の農業活性事業を通して培った知見を踏まえ、地域農業の生き残りを左右する、人材の「確保」と「定着」のヒントをお伝えします。
なぜ人材広告サービス会社が農業界に足を踏み入れたのか
こんにちは。株式会社マイナビの池本です。現在、農業総合情報サイト『マイナビ農業』等の運営を行う農業活性事業の責任者をしています。
なぜ人材サービスを主とする弊社が農業に進出したのか、私の経歴を振り返りながらお話しさせてください。
私はマイナビに入社して以来、営業職として10年以上にわたって大手企業の新卒採用を支援してきました。
2017年、執行役員を拝命した際に「未来ある新しい事業を創出する」というミッションを与えられた私は、民間企業が上手く参入できていない、社会的課題の大きな領域を事業の柱にしたいと考えました。
さまざまな事業を検討する中で「農業」に関心を持ち、調査を進めるにつれて農業界が抱える課題を解決するビジネスに挑戦したくなりました。その最たる課題が、マイナビの専門領域でもある「人材」です。
人手不足が叫ばれて久しい農業ですが、全国を訪ねてリサーチをすると、業界の「人材」に対する観念は、他の産業と比べて大きな違いがあることが浮彫りになりました。日本の農業は元々、ほとんどが家族経営で会社組織とはかけ離れた事業形態でした。国の政策などで守られてきた歴史もあり、ビジネスとして経営する動きが育っていかなかったようです。
それゆえ、農業には人材採用に予算をかける感覚がありませんでした。これまで必要な人手は、地域の横のつながりでまかなえていたことも理由の一つです。近年は、こうした地域コミュニティが希薄になりつつあるところへ「農業従事者の減少」「高齢化」「後継者不足」等の問題が重くのしかかっています。
人材採用は経営戦略の柱です。農業をビジネスとして成立させていくためには経営戦略が必要で、それを実行するために人材は不可欠な存在。プロ野球チームが優れた選手を獲得するために移籍金を投じることと同じように、採用には投資が必要です。
しかし、当時の農業マーケットでは前述の通り、我々が得意とする人材ビジネスは成り立ちにくい状況でした。農業の未来を考えたときに、まず農業者が自分たちの意思で農業経営をしていく、つまり農業をビジネスに変革していくことが必要だと感じました。
人材のプロとして、根深い農業課題と向き合う
2017年、農業総合情報サイト『マイナビ農業』を立ち上げ、農業を収益性のあるビジネスに変革していく優れた事例を世の中に配信するとともに、人材のプロとして農業課題を解決するため、これまでにいくつかのサービスを手がけてきました。
その一つが『マイナビ就農FEST』です。就農希望者とのマッチングイベント、いわば合同説明会で、実はこれが農業界で最も求められているものでした。
人材募集にあたり地域や農業経営者には、求職者とのファーストコンタクトをどう取るかという課題がありました。ニーズがあるならとにかく各地で実施しようと、事業立ち上げ初年度はメンバー総出で数多くの合同説明会を開催したことを覚えています。このサービスを通して、マイナビ農業が農業の人材領域で貢献できるという感触が得られました。
また、農業界では人材が定着してないことも根深い問題の一つでした。「せっかく採用した人材が3日でいなくなった」「半年で辞めてしまった」等のケースもしばしば。原因を探ると、これまで農業経営者が人材採用のノウハウを得る機会がなかったことが見えてきました。
しかし、そこはマイナビが得意とするところ。全国の自治体や農業振興団体、公社からご依頼をいただき、農業経営者向けに人材採用・育成・定着の研修・セミナーを行う『ノウラボ』を手掛けており、参加いただいた農業経営者からは、徐々に人が採用できるようになった、インターンシップに来てくれたと喜びの声をいただいています。
事業開始当初から感じていたことですが、全国各地、それぞれの地域に存在する農業のコミュニティがとても閉鎖的であったことも農業特有のことだと思います。
エリアごとに自治体、農業振興団体、JAなど、それぞれ立ち位置があるゆえに、時として目指す方向が異なる場面もあります。
そこにマイナビが介在することで、三者がベクトルを合わせる局面を作ることもできたと自負しています。現在は日本全国で380以上の自治体とお付き合いをさせていただいており、人材のご相談をいただく機会も増えています。
次なる一手。求人情報サイト『マイナビ農林水産ジョブアス』スタート
数々の農業課題にソリューションを提供してきたノウハウを結集して、一次産業のための求人サイト『マイナビ農林水産ジョブアス』を10月20日にオープンします。農業経営者や地域が必要とする人材の募集をかけて、マッチングするサービスです。
農業はこれまで、定年後のセカンドキャリアという位置づけが主でした。しかし、若い人にとってもビジネスチャンスにあふれる魅力的な業界です。
現に、農業人口は減り続ける中でも、農業生産法人は増え、若手の経営者が数多く活躍しています。仕事内容も農作業のみにとどまらず、スマート農業を推進するためにIT担当者を雇用したり、SNSでの広報活動専任者を採用したりと、多様性が見えてきました。
人材業界ですべての産業をカバーしてきたマイナビだからこそ、他産業からごく自然に定着して働ける世界観をつくり、一次産業への人材の流れをどんどん作っていきたいと思います。
その上で、農業経営者の皆さまには、人材を単なる労働力としてではなく、その人が会社や業界へもたらす価値を考え、今後の農業を支える貴重な戦力として捉えてもらいたいと思います。
繰り返しになりますが、採用は重要な経営戦略。目の前の収穫のためではなく、5年後、10年後の事業を考えたときにどうなっていたいのか、自分の会社を一歩引いて見ることが大切です。人を採用することは、自分たちの事業を見直すことでもあるのです。
一次産業で働くことは決して特殊なことではありません。誰しもが夢や志を持って挑戦できる産業の実現に向けて、これからも業界を支えるインフラであることを目指します。
次回、シリーズ『人材のプロが見る、農業の課題と光明』Vol.2では、マイナビ農業の佐々木営業部長が、約4年間の農業活性事業の中で見えてきた「人が集まる経営者の資質」をお伝えさせていただきます。
農業総合情報サイト『マイナビ農業』 https://agri.mynavi.jp/
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