一般社団法人 全国農業会議所
新規就農相談センター 事務局
本連載では、作物や就農地域の選択など、研修に入る段階までを説明してきました。今回は、研修を終えて独立する際の、農業経営の見通しの立て方についてお話します。
就農には、独立して自ら農業を始める「独立就農」と、農業法人等に就職して従業員として農業に携わる「雇用就農」の2つの道があります。
今回は「独立就農」において、どのように経営の見通しを立てていけばよいのかを掘り下げていきます。
営農計画を立てる
独立就農を希望する場合、まずは自身が行う農業経営の見通しを立てるため、「営農計画」を策定します。営農計画とは、おおよそ5年先までの生産計画、販売計画、資金計画を可視化したものです。
なお、独立就農の際には、市町村の農業委員会等に所定の様式による営農計画書を提出します。この営農計画を含む諸条件の審査を経て妥当と認められると、農地を取得することが可能になります。
<営農計画書 イメージ> ※市町村によって様式が異なります。
生産計画
生産計画はどの作目を、どのくらいの経営規模(面積、頭羽数)で、どのような栽培方法で生産するかを決めていく計画です。この際、経営開始時の農地はいつ、誰から、賃借または購入の目途がついているかも記載しましょう。
実際の農業経営は、苦労して作成した計画書通りにはいかないものです。収量については、地域での面積当たりの平均収量より少な目に、生産に関する経費は平均よりも多めに見積もりましょう。
販売計画
農産物の販路は、JA、直売所、スーパー、レストラン、直販(近隣地域への配達やネット販売)等と様々です。近年では、食べチョクやポケットマルシェなど、オンラインで生産者から農作物を購入できるサービスの利用者が増えています。
どのような販路を開拓していくかによって経営は大きく変わります。
JAの組合員となりJAに出荷する場合は、指定された作目に一定の品質が求められるものの、生産に注力できるという大きな利点があります。その他に自身で直販を行う場合は、積極的に消費者にPRできるなど、営業活動次第で売上を伸ばすこともできます。
販売単価については、地域での取引価格を参考にするとよいでしょう。
資金計画
営農計画では、自己資金、借入金、生活費、施設・機械への投資など、おおよそ5年先までの資金繰り計画を記入します。
独立就農の場合、農地、機械、施設、種苗、肥料、灌漑設備など、様々な出費が発生します。さらに、農業は収入を得るまでに一定の期間を要するので、その間の生活費の確保が必要となります。
実際に営農を始めると、思いがけない出費も多く、自己資金を中心に余裕のある資金計画を十分に練る必要があります。
自己資金+公的資金の活用
新規就農者の資金繰りの現状
2016年度に全国新規就農相談センターが実施した調査によると、新規就農者が用意した自己資金の平均額は営農面で232万円、生活面では159万円となっています(下図参照)。
ところが、就農1年目で実際に営農にかかった金額は569万円と、自己資金を337万円上回っています。
できる限り自己資金を活用することが望ましいですが、公的な融資制度や民間の融資を活用するのも有効な方法です。実際に新規就農者の4割が資金の借り入れを行っています。
新規就農者向けの公的融資「青年等就農資金」
下図のとおり、就農時の資金借り入れでもっとも多く活用されている「青年等就農資金」について紹介します。
「青年等就農資金」は新規就農者を対象に、国が無利子で資金を融資する制度です。資金の使いみちは農業関係に限られますが、就農準備に幅広く活用できます。同制度を活用するためには、市町村に青年等就農計画を提出し、審査を経た後、認定新規就農者として認定されることが要件となります。
認定新規就農者となった場合には、最大3,700万円を実質無利子、無担保、無保証人で借りることができます。担保のない新規就農者にとって使いやすい融資となっていますが、返済計画をしっかりと立てることが重要です。
そのほか、認定新規就農者を対象とした「農業近代化資金(融資限度額:個人・1800万円)」、「経営体育成強化資金(同1億5000万円)」など、好条件の融資制度もあるので、これらをうまく活用することで就農をスムーズにスタートさせることができるでしょう。
独立就農とは、「農業経営者になる」「起業する」ことと同義です。経営の見通しを立てる際には、農業委員会、行政機関の農業関係部署、研修先の先輩農家、JA関係者など、地域の様々な方からのアドバイスを参考にしつつ営農計画を緻密に練り、実行に移して行きましょう。
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