「カイゼンによる働き方改革と生産性向上」と題しました本シリーズを2021年1月より続けて参りましたが、今回が最終回となります。
日本生産性本部のこれまでの主な対象セクターは製造業や物流業でした。しかし、2019年に日本中央競馬会畜産振興事業による「酪農家の働き方改革実証調査」を実施致しましたことをきっかけに、これまでに培った様々な業界のカイゼンのノウハウも活用し、第一次産業におけるカイゼンの取組みを進めて参りました。
今回、私共が考えます「カイゼン」の重要性と考え方についてお伝えする場をご提供頂きました農林中央金庫 アグリウェブ様、拙い文章にお付き合い頂きました読者の皆様方に、この場をお借り致しまして厚く御礼申し上げます。
コラム最終回の締めくくりとして、本シリーズを担当致しました3名で「畜産・農業界へのカイゼン導入の可能性」についてご紹介させて頂きます。
<平澤>価値をどこで・どのように創出しているかに着目
これまでのコラムで紹介した通り、私ども日本生産性本部は製造業現場でのカイゼン活動に関しては多くの実績がありましたが、私どもが酪農家の働き方改革支援に着手したのは2019年初頭でした。
製造現場と酪農現場では共通する考えが多いのではと考え、その取り組みを適用しようと試みました。
その為、酪農家の方や研究職の方など、様々な方にお知恵をお借りしたのですが、「相手が生き物なので思い通りにはならない」というお叱りに近いご指摘を何度も頂きました。
(このご指摘に関してはおっしゃる通りだと思います。)
重要なのは、価値をどこで・どのように創出しているかという点に着目することです。カイゼン活動によって、作用時間の短縮という成果を得られますが、それで仕事の質を落としてしまっては生産性向上には繋がりません。
生産性を高めるカイゼンへの取組みをするために、価値をどうやって生み出しているか、また、今やっている作業は価値を創出しているのかということを考えてみてください。そうすることで、「もっとできること」や「やらなくてもよいこと」が見えてくるかと思います。
<越後>小さなカイゼンから始め、成果を「見える化」
これまでのコラムでお話してきましたように、カイゼン(5S+1S、ムダ取り)は、酪農分野に限らず他の一次産業である畜産、農業、漁業への導入も可能です。
何も難しいことはありません。事務所や倉庫の整理をするのも5Sの1歩です。作業場の排水路カバーがなく危険な箇所に黄色のテープを貼るのも1Sの1歩です。最終回では、これからカイゼンに取り組もうと考えていらっしゃる畜産家や農家の皆さんにカイゼンの小さなヒントをお伝えしたいと思います。
カイゼンへの取組みが決定したら、全従業員を集めてキックオフミーティング(決起集会)を行いましょう。先ずはカイゼン活動をイベントとして捉え、社内全体の取組みとして従業員に認識してもらいます。
ここで重要なのは、いきなり大きなカイゼンに取り組むのではなく、直ぐに実行できて、直ぐに成果が見える「小さなカイゼン」から始めることです。そしてその成果を「見える化」して全員で共有することです。
皆さんのアイデア、気づいたこと、思いついたことを共有できるアイデア箱を設置するのも一案です。管理職はこれらのアイデア等に必ず返信してください。そうすることで従業員のモチベーションも上がり、やる気が出ます。また、小さなカイゼンを習慣づけることもできます。
カイゼンを実施するのは少人数のグループで構いません。重要なのは「カイゼン取組みの見える化」です。
<高柳>見過ごしている「こと」や「もの」の必要性を定期的に判断
私がJRAの調査業務で感じましたこととして、私個人のしごとや生活の中でも言えることではありますが、日々の業務や生活の積み重ねでついつい見過ごしてしまっている「こと」や「もの」が堆積している状況です。
何かの都合で一時的に置かれた「もの」をそのままにしていませんか?または、一緒にしごとをする仲間や家族が置いている「もの」が、何でそこにあるのか疑問に思ったことはありませんか?
長く置かれた「もの」が背景となってしまい、存在自体について考えずに日々を過ごしてしまいがちです。私も屋根裏に放置しているものが山積みになり、そこに保管すべきものが生活空間にまで溢れています。私が調査でお邪魔した牧場では、「会長のものをここに押し込んでいます」という倉庫一つ分の未整理品がありました。
「必要」「不必要」の判断をすることは、定期的に行うべき5Sの活動です。放置してしまっている「こと」や「もの」が風通しを悪くし、認識や情報の共有が滞る状況をつくります。ちょうど年の瀬も迫っておりますので、是非全員で大掃除を実施しして下さい。もしかしたら、思わぬ「お宝」を発見できるかもしれません。
一年間、本当に有難うございました。
(日本生産性本部 平澤、越後、高柳)
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当該コンテンツは、公益財団法人日本生産性本部の分析・調査に基づき作成されています。
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