はじめに
近年、企業の農業参入が進んでいます。農林水産省経営局調べによると、農地を利用して農業経営を行うリース法人は令和元年12月末現在で3,669法人。平成21年の農地改正法によりリース方式による参入を全面解禁し、1年あたりの平均参入数は改正前の約5倍のペースで増加しています。
私たち、ナカバヤシ株式会社は、図書館製本に始まり、現在はアルバムやノート、手帳、シュレッダなどの製品、商業印刷やBPO事業などのソリューションを取り扱う企業ですが、2015年より兵庫県の北西部にある養父(やぶ)市にて農業に参入しました。
ナカバヤシの農業参入史
2015年、養父市・企業・地域が連携して、養父市をにんにくの新たな名産地にする「兵庫県養父市・にんにく産地化プロジェクト」が始まり、同市で製本・資料保存工場として稼働していたナカバヤシ株式会社 兵庫工場は農業事業に参入し、にんにくの栽培を始めました。
2016年には、改正国家戦略特区法の養父市での施行を受け、企業初の農地を購入。2017年には、夏梅にんにくセンター(貯蔵・乾燥施設)、 大屋にんにくセンター(加工・出荷施設)を設置しました。この施設を拠点に、地元農家の参入を支援し、にんにくを通年出荷できる体制を整えました。
2018年、養父市の特区事業者で初めてとなる、食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる「JGAP」認証を取得。
2020年には、ナカバヤシのにんにくが「ひょうご推奨ブランド」に認定されました。また同地域のふるさと納税返礼品に認定されるなど認知度は徐々に向上しております。さらに養父市がにんにくの産地として認知されるよう邁進しています。
製本業と農業の両立
現在、ナカバヤシ株式会社 兵庫工場では、日本でも数少ない技術・設備を有する「製本業」と、にんにく生産の「農業」、文字通り“畑違い”の事業を両立しています。
兵庫県北部・但馬地方に属する養父市は、 中国山地に連なる氷ノ山や鮎釣りが盛んな清流大屋川などを有する自然豊かな中山間地です。冬に積雪の多い気候と高低差のある地形を活かし、寒地系と暖地系の2種類のにんにくを生産することに成功しました。
金郷純白「やぶひこ」、ホワイト六片「やぶひめ」の生産をはじめ、黒にんにくや、にんにく加工品も展開しています。
企業の農業参入の強み
企業が農業に参入する上での強みは、一般的に以下の2点が挙げられます。
(1) 企業ならではの機動力を活かして大規模な設備・土地の運営・投資ができる
(2) 企業がもともと本業で培ってきた、業務オペレーション、技術、リソースを農業に適用することができる
とくに、弊社の事例のなかで、体感したことを具体的にご紹介します。以下のとおり、弊社の別事業セグメントのリソースを農業にも適用させてきました。
【企業本体のスケールメリット】×【兵庫工場の地域性】×【オーダーメイド品を扱う職人工場】、弊社が有するこの3要素の乗算が大きな解を出しているのではと手前味噌ながら分析しています。
大規模設備投資
にんにく加工場や保管施設、マイナス2度で貯蔵できる巨大冷蔵庫や乾燥装置、トラクター類などの設備投資を行いました。
近隣農家の方のにんにくも受け入れており、地域の方にお役に立てるような運用を行っています。近隣農家の支援にも繋がりました。
各マネジメントシステム導入の経験を活用
生産性や品質管理の面では、本業でISOを認証するなどの経験が役立ちました。スムーズな営農管理は、工場の生産管理の手法を取り入れることで、効率的で安定した品質を追求できています。
現在ではJGAPを取得し安心安全な製品づくりを心掛けています。
工場オペレーションの適用
農業の管理者・作業員は、これまで工場で製本業に従事しており、工場オペレーションに精通した熟練した社員です。そのため、各バリューチェーンにおいて、業務プロセスの最適化を行うことには慣れていました。
加えて、もともとオーダーメイド品を扱う手作業が多い業務であったこともあり、農作業に必要なまめやかな配慮、丁寧な作業にスムーズに対応できました。
在庫管理システムの自社開発
収穫圃場から出荷先まで管理できるシステムも、自社内の商品在庫システムを管理している部門で開発し、トレーサビリティを確保しています。
販路獲得は営業担当で
販路を広げるための営業担当は、他部門の営業ノウハウを持った担当者が、そのネットワークを活かして行っています。
「Project-G」と名付けられたにんにく営業チームが、主に印刷事業部門の営業職で入社したメンバーで、部署を横断されて結成されました。
ラベル印刷も自社内で
弊社には印刷事業部門があり、農業を行っている兵庫工場でも、いくつかの印刷機を保有しています。この印刷機を使ってラベル類の印刷を行っています。
経費を抑え、円滑に資材を準備することができています。
農業参入の社会的意義とポテンシャル
製品やサービスは、流行や技術革新、競争淘汰などにより、販売が長期的に継続するのか不透明な状況に置かれています。もちろん、私たちも時代にあった製品やサービスを展開し、時代を超えて長く必要とされるべく努力しています。
しかし新型コロナウィルス感染症の猛威によって急速に変化した世界を眼前にして、新たな観点でニューノーマルな未来像を把握することは非常に困難な状況です。
一方、1次産業である農業は私たちの生活から決して切り離せません。とりわけ食は、生命維持に必要不可欠なものであります。
ナカバヤシ株式会社が社会にできること、WELL-beingな未来社会を築くための基本的欲求である商材(=食料)を提供できることが、企業の存在意義であり事業存続のためのリスクヘッジにもなっているとも言えます。
日本において、農業はこれまで個人経営中心で行われてきて、将来も農業就業人口が減少することが予測されています。このような状況のなか、企業ならではの機動力をもって、別事業で培ってきたリソース・ノウハウを活かして農業に参入することには、大きなポテンシャルがあり、また社会的意義も大きいと考えています。
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