はじめまして。株式会社雨風太陽代表の高橋です。当社は、「都市と地方をかきまぜる」をミッションに掲げ、産直アプリである「ポケットマルシェ」をはじめ都市と地方、消費者と生産者を繋ぐ様々なサービスを提供しています。当社の理念やビジネスのご紹介を通じて、農村の魅力・農業の魅力を、再認識してもらえれば幸いです。第1回では、都市と地方の関係性についての私の考えと、当社が地方創生のために行っているビジネスについてご紹介します。
都市と地方の関係性の変化
岸田政権が打ち出した「デジタル田園都市国家構想」は、私がこれまでビジョンに掲げてきた「都市と地方をかきまぜる」に通底するものがあります。牧島かれん新デジタル担当大臣(2022年7月当時)は、経団連の月刊誌に『コロナ時代の田園都市国家構想』と題して、次のように書いています。
『大平正芳元首相は、「都市の持つ高い生産性、良質な情報と、田園が持つ豊かな自然、潤いのある人間関係を結合させ、健康でゆとりのある田園都市づくりの構想を進める」と述べた。デジタル社会推進のなかでもう一度この言葉を見直し、現代に置き換えると、デジタル技術によって働き方が柔軟になり、どこにいても国民の生活の質は高く維持される「デジタル田園都市国家」が今後の目指すべき国家像となるのではないだろうか』。
日ごろから都市と地方を行き来しながら同時並行で生きる二拠点居住(複線的人生)は、テレワークや週休三日制が一般的になれば、もはや絵空事ではなくなりました。例えば、平日は東京の会社で働き、休日や長期休暇は、地方の拠点に移動し、森林保全活動に参加したり、海外の清掃ボランティアに汗を流したり、耕作放棄地を開墾しながら、充足して楽しく暮らすということが可能になりました。都市住民が定期的に全国各地の農山漁村を訪れる遊動生活を行うことで、都市と地方は混然一体となり、過密も過疎も融解していっているように感じます。
二拠点居住は、地方の担い手確保に資するだけでなく、都市の生活者のQOLの向上にもつながるのです。
これからの地方創生
これまでの地方創生は、豊かな都市が衰退する地方を経済的に支えるという文脈で語れることが多かったのですが、これでは上下関係になってしまいます。結果、地方は思考停止に陥りますし、誇りも喪失してしまいます。「都市と地方をかきまぜる」という考え方の新しくて太いところは、都市のいいところと地方のいいところをフラットに見て再配列し、互いの課題を解決しながらこれまでにない価値を一緒に生み出すところにあります。こうなれば都市と地方は対等の関係になれます。
都市と地方の関係性変化の事例
デジタル田園都市国家構想を先取りしたような試みがすでに秋田県八峰町で始まっています。都会の人が自分の仕事を農漁村へ持ち込みながらリモートワークし、農漁業でも副収入を得られる仕組みで、農林水産省から秋田県に出向中の佐藤大祐さんが秋田県農山村振興課と考えたものです。受け入れ先として、同町の野菜農家、底引き網漁師などが参加しています。この取り組みを取材し、記事を書いた産経新聞編集委員の徳光一輝氏はこの取り組みの可能性について次のように解説しています。
『DXの進展によってオフィスワーカーがどこでもテレワークできるようになり、都市部の人々が代わる代わる全国の農山漁村へ出かけて、自分たちの「食」を支える場の手伝いをするようになれば、人口減少で深刻化する農山漁村の人手不足も無理なく解消できるとの期待が広がる』。
都市と農村の歴史
明治維新以降、日本は近代化を推し進める上で、生産性向上に特化した農業政策を展開してきました。もともと農村にあった手工業や加工業を都市に移し、農村をたんに原料のみを生産する場としてきました。それにより、農業生産力は大いに増大したが、農村は寂れ、衰退しました。民俗学者の柳田国男は「農業を保護してそれで農村が栄えるならば、現代の保護はかなり完備している。(中略)つまりこの方法ばかりでは農村衰退の問題が解決し得ぬことを、ようやくこのごろになって我々が経験したのである(「都市と農村」)」と指摘しています。
「農業」と「農村」を一体に考える思考が欠落した農業政策は戦後、加速していくことになりますが、その帰結が、現在の農山漁村の惨状ではないでしょうか。柳田は協同組合を農業ではなく、加工業、手工業、流通、金融など、農村に関わる様々な人々で形成するネットワークとして考え、農村と都市の分断を乗り越えることを目指しました。これこそ、「デジタル田園都市国家構想」の主旋律にしなければならない考え方ではないでしょうか。
都市住民が入れ替わり立ち代わり農村に出入りし、農作業の手伝いのみならず、マーケティング、ブランディング、商品開発など自らのスキルやノウハウを発揮し、地域課題に貢献するようになれば、それは都市生活で得難い生きがいとなり、農村は「賑やかな過疎」として活力を取り戻すことになるでしょう。
当社の使命
当社の使命は、都市と地方、消費者と生産者の接触面積を広げ、都市と地方の間の「関係人口」を生み出すことです。そのために2016年より産直アプリ「ポケットマルシェ」の運営を行っており、足元では地方留学事業や電力小売り事業も開始しました。
ポケットマルシェは、単なる農産物を取引する直販アプリではありません。アプリ上で消費者と生産者とのつながりを作り、新しい関係を構築する仕組みがあります。次回はポケットマルシェで生まれた消費者と生産者のリレーション構築の事例について紹介します。
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