(気象予報士 寺本卓也)
こんにちは。農てんき予報士の寺本です。朝晩はだいぶ涼しく感じられる日が多くなりましたね。また、日本の南では台風11号が発生しました(8月28日現在)。いよいよ秋の台風シーズンに突入したのだなと感じます。そして、今年は少し心配な予想が出ています。どうやら今月は台風が発生しやすい危険な状況が長続きしそうなんです。今回も、農業と天気に特化した「農てんき」な情報が盛り沢山となっています。ぜひ最後までお付き合い下さい。
9月は台風シーズン
皆さんは、一年で一番台風が接近・上陸しやすい月をご存知ですか?実は9月のまさにこの時期なんです。しかも夏より、とても大きな台風に発達しやすいからさらに危険と言われています。なぜそんな事が起きるのでしょうか。
9月は日本に近い所で台風が発生
台風の源は暖かく湿った空気、いわゆる水蒸気です。水温が高いと、雲の原料となる水蒸気がよりできやすくなります。では、7月と9月の海面水温を比べてみます。すると、9月の海面水温27℃線が関東沖まで盛り上がっているのが分かるでしょうか。実は9月は7月に比べ海面水温が高い事から台風の発生数が多く、さらに日本に上陸しやすい事が統計から分かっています。
海の温度は9月が一番あたたかい?
夏の海をイメージして下さい。強い日差しで照り付けられた砂場はめちゃくちゃ熱くて、裸足で歩けません。でも、海に入ると冷たく気持ち良いですよね。それは海には、「暖まりにくく、冷めにくい」性質があるからです。海は暖まるまで時間がかかります。地上の暑さのピークが過ぎた8月後半〜9月前半が、一年で一番海が暖かいのです。
9月の台風はパワーアップしながら接近
また、9月の台風の怖い所は、パワーアップしながら日本にやってくることです。台風は、海面水温26℃以上で発生し、暖かい海を通って北上してくると発達していきます。秋に北上する台風が大型にまで発達しやすくなるのは、日本付近まで海面水温が非常に高いからです。
台風発生しやすい状況しばらく続く?
それでは海面水温の予想をみてみましょう。気象庁は今月20日頃にかけて、日本の南の海面水温が平年よりかなり高いか、高い状況が続きそうだと予想しています。今月は台風の発生しやすい危険な状況がしばらく続きそうです。
1か月予報 全国的な大雨も?
では最新の1カ月予報(降水量)はどうなっているでしょうか。全国的に雨量は平年並みか多い予想となっています。今月後半にかけて秋雨前線や台風が影響し、晴れる日が少なく、曇りやすい日がどうやら多くなりそうです。
1か月予報 曇っていても気温は高く
続いて、1カ月予報(平均気温)を見ていきます。すると、今度は北・東日本は平年並みか高い予想で、西日本や奄美・沖縄は、平年より高い予想です。曇天が多くても、台風や前線からの暖かく湿った空気が流れ込み、蒸し暑さが続くのかもしれません。雨が多く気温が高いとなると病虫害の多発にも気を付ける必要がありそうです。
台風離れていても危険?
台風だけでなく秋雨前線の動きにも注意が必要です。先月前半に発生した東北・北陸の豪雨の原因は、遠くに離れた台風と前線によるものでした。元・台風6 号からの暖 かく湿った空気が前線に流れ込んだ事で、翌日3日夜には新潟県と山形県で線状降水帯が発生し、気象庁は大雨特別警報を発表。4日にかけて、青森県、山形県、福島県、新潟県、石川県、福井県で1日の雨の量が観測史上1位を更新するなど、台風から離れた東北や北陸で記録的な大雨となったのです。
台風&秋雨前線に注意
この現象と同じような事が今月は起きやすいと言えそうです。日本付近には秋雨前線が停滞しやすい状況が続いています。台風からの湿った空気が前線に流れ込む事で、雨雲がパワーアップし大雨となるおそれがあるのです。台風が日本から離れていても油断せず、最新の気象情報をこまめに確認する事が大切です。
台風は「右」と「左」で危険度が違う
ここで覚えておくと得する、台風に関する豆知識です。実は台風は、右と左で危険度が異なります。一般的に進行方向に対して「右側」が特に危険です。
台風の「右側」が特に危険
その理由は、右側は台風本体の風と、進む方向が同じため風速が増します。一方、左側は台風本体の風と進む方向が逆となり風速が下がります。今後は、お住まいの家や畑が台風中心の右か左のどちらを進みそうか確認してみましょう。右側の場合は、雨風が強まり被害が大きくなるおそれがあります。
昨年は遅霜被害、ことしは?
私が住んでいるフルーツ王国福島県は、今まさに出荷の最盛期を迎えています。昨年は遅霜被害の影響が大きかったですが、今年も大変な事態になっていました。私は、8月28日に曲屋果樹園さんを取材し、深刻な「ひょう被害」の現状を目の当たりにしました。
「ひょう」の破壊力強く 治らなかった傷
モモやナシは大きくなり食べ頃を迎えているものの、5月下旬〜6月上旬に発生したひょうによる傷は治らないままでした。店頭では、被害のあった果物がB級品として大量に箱詰めされ通常より安く販売されていました。
さらに深刻 りんごは8割ダメ
また、秋から冬に旬を迎える「りんご」はさらに悲惨な状況でした。順調に大きく育っているように見えますが、近づいてみるとほぼ全てに無数の傷がついていました。お話を聞くと、この状況では8割は出荷できないとの事です。この先、台風や秋雨前線の動きによってはさらに収穫量が減ってしまうおそれもあります。取材後、ひょう被害にあったモモを自分用に購入しました。芳醇な香り、とろける甘さに変わりはありませんでした。
これぞSDGs ひょう被害のモモがパフェに
また、ひょう被害にあった桃を積極的に使っているお店があります。道の駅ふくしまの中にある、「FRUIT FACTORY yukiusagi(ゆきうさぎ)」さんです。こちらでは見た目に傷がつき市場に出せなかったモモを活用して、新たなパフェを開発しました。モモの甘さは濃厚で深みがあり、とても美味しかったです。廃棄するのではなく、地域ぐるみで無駄をなくす取り組みは、まさにSDGsですね。台風や前線による大雨被害を完全に防ぐ事は難しい事です。ただ、被害が発生した後、われわれ一人一人ができる事を模索していく事が大切なのだなと思います。
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