アグリウェブの皆さん、はじめまして、NTTデータ(食農ビジネス担当)です。
私たちNTTデータは、農業経営に携わっている皆さんとの共同検討やディスカッションを通じ、農業経営の課題を明らかにし、デジタルで解決する仕組みづくりを提供しています。
皆さんは、ご自身の農業経営の現場でデジタル化やデータの活用はされていますか?
スマート農業や農業DXという言葉が聞かれるようになる中で、「デジタル化やデータ活用に取組んでみたいけれど、なにから考えていけばよいのか分からなくて。」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、今回は、デジタル化に着手したいけれど、初めの一歩を踏み出しかねている方に向けて、データを上手く活用し、所得向上と労働力の適正化を実現した事例を紹介いたします。
NTTデータの取引先であるJA島原雲仙では、ブロッコリーの出荷を予測することで所得向上と労働力の適正化を実現しました。
JA島原雲仙における取組をご紹介する中で、デジタル化の始め方のヒントやポイントを、今後数回のコラムにわたり、お話ししていきたいと思います。
1.JA島原雲仙における課題
まずは、JA島原雲仙における課題とその解決の結果についてご紹介します。
JA島原雲仙は、豊かな自然と温暖な気候に恵まれ、いちごや馬鈴薯の生産が盛んな長崎県を代表する畑作農業地帯です。
近年はブロッコリーの生産にも注力し、20年間右肩上がりの成長で年間売上高10億円にも上ります。
ブロッコリー部会は、2019年には農林水産祭で天皇杯も受賞しており、ブロッコリーの高品質・安定出荷に定評のある産地です。
しかし、最近は、
1.ブロッコリーが高値の為、他野菜からの転作が増えたことによる価格の低迷
2.単価の高い時期に生産が集中することによる生産者の人手不足が課題となっていました。
2.この課題を解決した方法とは?〜出荷予測システムを概要とJA島原雲仙での取組
この課題解決に取組まれたのが、長崎県農林技術開発センターとJA島原雲仙の営農担当部門です。
所得向上と労働力適正化に向けて
まず、出荷を予測することで、出荷時期の収穫や選果場での労働力見込をつける。将来的には予測に基づく定植時期の調整で労働力不足の解決を図ると共に、市場に出荷データを早めに連携することで契約販売等価格の安定化を図れるのではないか。
そうすることで、所得向上と労働力適正化【ビジョン】の実現が可能との仮説をたてました。
●デジタル化の第一歩は・・・
この仮説検証のため、JA島原雲仙では、営農担当者がエクセル等にて定植日、生育日数等を管理し圃場単位に収穫時期を独自に計算し出荷予測グラフを作成しました。
しかし、このやり方では、担当者の圃場巡回等の業務負荷が高いにも関わらず、気温による変動が大きく誤差が発生していたことから、精度向上が課題となっていました。
●ブロッコリーの出荷予測システムを導入
そこで、2020年にブロッコリーの出荷予測システムの導入に踏み出しました。
稲とは異なり、露地野菜、とりわけブロッコリーは気温や多雨の変化を受けやすく出荷予測が困難なため、露地野菜の出荷予測として初の試みでしたが、更なる飛躍に向けたチャレンジとして踏み出しました。
出荷予測システムとは
出荷予測システムは、生育情報などの生産者が記録する情報や、気象情報等の外部データを出荷予測モデルにインプットし、出荷時期の予測をするものです。
AIで算出された予測データを、最終的に営農・販売担当者がデータを確認しながら補正することで、より精度の高い出荷予測を実現するものです。
島原地域のブロッコリー栽培にフィットした出荷予測とするため、長崎県農業センター、JA島原雲仙、ブロッコリー生産者、そしてNTTデータがともに協力しあいながら、システムの基盤となるデータ収集の為の仕組みや、圃場単位ではなく産地全体としての複数品種を纏めて予測を出していくモデルを作り、精度の高い出荷予測を実現させました。
3. システム導入の効果〜JA島原雲仙と生産者、長崎県農林技術開発センターの声
そして、今では、このシステムを導入することで、
1. 適期を逃さず収穫可能となることによる収量最大化
2. 労働力予測が可能であることによる労働力の適正化
3. 買い手との交渉における販売価格の適正化による収益最大化が実現しつつあります。
●JA島原雲仙のご担当者の声
「出荷予測システムを導入することによって、(収穫時期を予測し雇用計画を立てられることで)選果場の人員削減に繋がりました。
また、販売面では、出荷予測システムで出た予測を市場に連携することで、売り込みタイミングがわかりやすくなり、生産コスト削減にも寄与しています。」
●ブロッコリー生産者の声
「出荷予測により収穫時期が判るので、行ってみたら大きくなりすぎていて(出荷することができず)適期を逃すことが多かったですが、出荷予測をみることでいつ圃場に入ればよいのかが分かるので、適期を逃さなくなりました。そこに掛けていた手間を規模拡大や生産率向上・秀品率向上に使いたいと思います」
●長崎県農林技術開発センターの声
そして、長崎県農林技術開発センターでは、JAでの導入の先の展開についても見据えています。
「どうしても県内の産地だけで解決できないのが価格の平準化です。今後、出荷予測が全国の産地で使われるようになれば、それぞれの出荷予測に基づいて定植時期を調整し、産地リレーをすることで出荷量安定と価格安定につながります。今後は、これを見据えて、全国の産地と連携していきたいです」
次回以降では、このプロジェクトを導入に導いたポイントを、「デジタル化」と「組織づくり」の観点よりご紹介いたします。
■JA島原雲仙の出荷予測システムの取組について、動画(所要時間約10分)をご覧頂けます。
本プロジェクトの担当者が導入の苦労やポイントを語るインタビュー動画を是非ご覧ください。
https://aisaku.nd-agri.jp/shimabara_movie/
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当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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