(株式会社インテージ 西日本支社 リサーチデザイン部 松瀬智仁)
こんにちは。インテージの松瀬です。
突然ですが、みなさんが最近食べた果物は何でしょうか?
私は毎朝バナナを食べて、手軽に栄養補給するのが習慣になっています。先日は、友人と家で食事をする際に、ちょっとしたデザートとしてシャインマスカットを食べました。
果物は、栄養が豊富なだけではなく、食卓の彩りにもなります。みなさんも、果物を食べる機会は少なくないのではないでしょうか。
日本人の果物の摂取量は減少傾向にあり、「果物離れ」が起きているという話も聞きます。
一方、コロナ禍では巣ごもり需要が活況で、多くの食品の販売は伸長しました。果物の販売も、コロナ過を転機として伸びたのでしょうか。
■果物離れは本当に起きているのか?
まずは、全国のスーパーマーケット約600店より収集した「インテージSRI」のデータで、果物全体の市場規模推移を確認します。
下図は、2014年から2021年度までの推移を見たものです(各年度4-3月)。
▼果物の市場規模の推移(2014年度〜2021年度)
(出所:インテージSRI)
果物の市場規模は2014年度から2016年度にかけて増加したのち、2019年度にかけては緩やかな減少傾向にありました。ところが、コロナ1年目の2020年度には前年度比105%と再び増加に転じ、1兆1356億円となっています。コロナ2年目の2021年度には、前年度比99%と微減したものの、コロナ前の2019年度の水準を上回っていました。
長期的には日本人の果物離れが起きているとは聞きますが、コロナ禍を転機として、果物の市場は足元では堅調に推移していると言えるでしょう。
■果物の売れ筋にも変化があったのか?
それでは、果物の売れ筋にも変化は起きているのでしょうか。
下図は、2014年度から2019年度までを「コロナ前の変化」、2019年度から2021年度までを「コロナ禍の変化」として、各期間の販売金額の変化を種類別に確認したものです。ここでは、2021年度の販売金額の構成比が果物全体の2%以上のものを抜粋しています。
▼果物の種類別販売金額の変化(2014年→2019年比/2019年→2021年比)
(出所:インテージSRI)
コロナ前の比較で伸びているのは、キウイ、ぶどう、アボカド、みかん、バナナでした。
とりわけキウイは、2019年度対2014年度比で195%と大きく伸びています。ビタミンCや食物繊維など栄養素が豊富で、美容にも健康にも良い「スーパーフルーツ」として人気となったようです。
コロナ禍の変化では、スイカ、メロン、ぶどう、桃、いちご、キウイ、バナナ、みかんと多くの果物が伸長していました。コロナ禍のお取り寄せグルメなども含め「おうちでプチ贅沢」需要で、単価が高いメロンやぶどう、桃なども人気となっているのでしょうか。
また、ぶとうでは、シャインマスカットの販売金額の伸びが見て取れました。シャインマスカットは、高級ぶどうとして美味しさもさることながら、皮ごと食べられ種もない手軽さ、そして、その見た目が「映える」とSNS上でも注目されたようです。
ただし、販売金額が増えていても、価格上昇によるもので、販売数量はそれほど伸びていないことも考えられます。
以降では、価格の動きも踏まえて、消費の動向を見ていきます。
■コロナ禍に販売数量が増えた果物は?
コロナ禍に販売金額が増えた果物に着目して、販売金額が販売価格よりも伸びているのかを確認します。ここで、販売価格とは、袋やばら売りなど販売単位ごとの平均価格です。
▼種類別の販売金額・販売価格の変化(2019年度・2021年度比較)
(出所:インテージSRI)
差分は、2021年度対2019年度比について、販売金額の値から販売価格の値を引いたものです。
差分がプラスのものは、販売価格よりも販売金額が伸びており、販売数量も伸びたと捉えることができます。
また、差分がマイナスのものは、販売価格の上昇により販売金額が伸びたものの、販売数量は減少したと見られます。
差分のマイナスが大きいものとして、ぶどうと桃が挙げられます。コロナ禍のプチ贅沢として高級品が販売価格を押し上げたものの、販売数量は減少したようです。
一方、スイカ、メロン、いちご、バナナについては、差分が+5ポイント以上と、販売数量が増加したと考えられます。
■販売数量が増えた果物を主に食べている年代は?
最後に、コロナ禍に販売数量の増加が見られたスイカ、メロン、いちご、バナナを主に食べている年代について確認します。
下図は、2人以上家族の主家事担当女性に聴取している、1,260世帯の食卓調査「インテージキッチンダイアリー」より、TI値という1,000食卓当たりの出現回数を見たものです。
▼スイカ、メロン、いちご、バナナのTI値(2019年度〜2021年度)
(出所:インテージキッチンダイアリー)
年代別では、どの果物も年代が上がるほどTI値が高くなる傾向にありました。
若年層で果物の摂取が伸び悩んでいる要因としては、「なかなか食べきることができない」「皮をむいたり切ったりする手間を避けたい」といったことが挙げられます。
以前から果物を食べる習慣を持っていて、準備の手間もそれほど気にしないと推察される60-70代が、果物の主な購買層となっているようです。
年代計でTI値の推移をみると、スイカやメロンは2019年度から2021年度にかけて減少していました。
食卓に並ぶ機会は増えていないものの、食事1回当たりの消費量も増えたのでしょうか。外出自粛により家で過ごす時間が増え、食事をする時間や人数が増えたことが、消費量の増加につながったと推察されます。また、キッチンダイアリーでは補足できていない単身世帯で、家でゆっくりと食事をする時間のゆとりができ、気分転換をしようと購入が増えた場合もあると考えられます。
2021年対2019年度比でTI値の伸びが確認できたのは「いちご」で、年代計で1.03倍、20-30代と40-50代では1.07倍と年代計以上に伸びが見られました。いちごは洗うだけで食べられ、ヨーグルトやスムージーなど簡単にアレンジして食べることもできることから、幅広い世代で人気となったとうかがえます。
さいごに
今回の分析から、日本人の果物離れが言われるなかでも、コロナ禍では果物市場は底堅く推移していることが分かりました。
価格の上昇により市場規模が拡大した果物だけではなく、販売数量でも増加が見られた果物もありました。
年代別では、高齢層が主な購買層となっているようです。ただし、いちごのように、幅広い世代で支持される果物もありました。
今後、世代を問わず食卓に欠かせない食べ物として、果物の人気が高まっていくことが期待されます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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