アグリウェブの皆さん、こんにちは、公益財団法人 流通経済研究所の折笠です。
流通経済研究所は、昭和38年の設立以来、流通・マーケティング分野において広く社会に貢献することを目的に研究調査活動を展開しています。私はその中でも、小売業の購買履歴データ分析、農産物の流通・マーケティング、地域ブランド、買物困難者対策、地域流通といった領域を中心に取り組んでいます。
突然ですが、あなたは、自分の商品の価格をどのようにして付けていますか? なんとなく500円くらいかな…というような決め方はしていないでしょうか?
ここでは、価格のつけ方について、論理的に考えていきたいと思います。価格を決めるためのアプローチは大きく3つあります。
① 原価ベースの価格設定
1つ目は、「原価」をベースに考える方法です。原価をベースに、どれくらい利益を乗せたいかを考えて、価格を決める方法です。例えば、生産原価が1個あたり50円のリンゴであれば、1個売れるたびに50円の利益が欲しい場合は、
50円(原価)+50円(利益)=100円(売価) となります。
当然ながら原価より高い金額で販売し、利益を生み出す必要がありますが、この利益をどれくらい乗せるのかを考える必要があります。ただ、商売の基本は「薄利多売」か「厚利少売」です。
安価な価格設定=多数の顧客に販売して少額の利益を積み重ねる、あるいは集客をする
高価な価格設定=少数の顧客に販売して利益を稼ぐ
分かりやすい例で言えば、1000円カットの理容室は前者で、安価な価格設定で多くの顧客を集客し、顧客1人あたりの利益は薄いものの、回転率を高めて多数の顧客に対応することで店舗1坪あたりの利益を高めています。逆にカリスマ美容師のいる美容室などは後者で、カットからカラー、パーマなどを駆使し、付加価値としての技術料をもらいつつ、場合によっては専用シャンプーまで販売して、顧客1人あたりの利益を最大化しています。これらについては、正解がありません。自分の農業経営のスタイルに合わせた価格設定を考える必要があります。高単収で面積拡大を目指すのであれば、薄利多売になるでしょうし、小さい面積で、手間暇をかけて差別化できる商品づくりを目指すのであれば厚利少売になるでしょう。
② 競争ベースの価格設定
2つ目は、「競争」をベースに決める方法です。競合の商品が100円で売られている場合、それよりもかけ離れた価格にしてしまうと、競争に負けてしまうかもしれません。そのような時は、100円を基準に価格を考える必要があります。また、場合によっては、消費者の頭の中に相場としてある程度の価格感が出来上がっている場合なども、その価格よりも大幅に高い価格だと購入してもらうことが難しくなります。ただこれは逆に、競合よりも安価な価格設定ができれば、有利に立てるということでもあります。
販売をする、という視点で考えると、農産物の場合、自分だけが作っている品目は無く、同じ品目を同じ時期に作っている生産者が存在しますので、基本的に「競争」は避けることができません。そのため、原価ベースで考える場合も、この後に述べる価値ベースで考える場合も、価格を考える上では、競争の要素は欠かすことができません。
自分の農産物・商品のライバルとなる商品や産地の動向をチェックし、常に競合の価格感をおさえておくようにしましょう。卸売市場での取引価格や、小売店頭での末端価格などもあわせておさえておく必要があります。
そのうえで、価格競争に勝つのか、あるいは価格競争を避けるのか、を選択するのです。
価格競争に勝つためには:
原価を他社よりも下げることができれば、価格競争力を持たせることができる。そのため、機械化・自動化による人件費の削減、肥料や農薬といった資材のコストダウンなどに注力するほか、規模の拡大による1単位あたりの生産効率の向上などを目指す必要がある。おもに、大規模生産、薄利多売といったキーワードと相性が良い。
価格競争を避けるためには:
徹底的な差別化によって、競合の商品とは「異なるものである」と顧客に認識してもらうことで、価格競争から脱却することができる。例えば、ダイソンの羽の無い扇風機などは、3千円前後で一般的な扇風機が価格競争をしているなか、そのデザイン性などで差別化され、3万円以上の価格でも非常によく売れた。これは、羽が無いことで「普通の扇風機ではない」と差別化できたこと、「インテリアとしての家電」として、競争の軸を「機能」から「デザイン」にズラしたことが効いている。よって、競合しないように差別化をする、あるいは競合しないように商品比較をされる場合の軸をズラすといったアプローチが有効である。
③ 価値ベースの価格設定
3つ目は、「価値」をベースに決める方法です。例えば、富士山の山小屋ではペットボトルの水が500円でもよく売れます。水を持って上りたくないけれど、休憩の時に水を飲みたい登山客にとっては、500円以上の価値がその水にはあるのです(実際に、水をそこまで運ぶコストも余計にかかっているでしょうが)。
差別化を徹底した先で、「唯一無二である」、「ほかの商品とは比較できない」と考えてもらうことができれば、「価値」をベースに価格を決めることができます。この場合は消費者の払っても良い、と思ってもらえる価格(消費者の認識している価値への対価)が設定できる価格の上限となるでしょう。
例として桃をギフトで販売する場合で考えてみましょう。他の桃と差別化できている場合、多少価格が他の桃や、その時の桃の相場より高くても、ギフトとして消費者に選んでもらえるようになります。しかしながら、いくらでも良いわけではなく、1箱10万円といった価格をつけた場合は、多くの顧客が「高すぎて買えない」と思ってしまうでしょう。そのカテゴリーや用途として受け入れてもらえる価格があるのです。価値ベースの場合でも、消費者が「買える、買いたい」と思ってもらえるように価格を設定していく必要があります。
今回、価格設定の考え方として、原価、競争、価値の3つの軸を示しました。実際には、これらの考え方を組み合わせて価格を設定することになると思います。原価を考え、競合の価格相場を見つつ、差別化・ブランドづくりと合わせて「いくらで売るか」を決める…ということになります。ただ、注意したいのは、「利益は経営全体で考える」ということです。高付加価値な商品を中心に販売する戦略だとしても、すべての商品の利益率を高く設定する必要はありません。A品の利益率を高めに設定し、B品を集客のために安価に販売するという選択肢も考えられます。この場合、A品は価値ベースの要素が強い価格設定となり、B品は競争ベースの要素が強い価格設定となるでしょう。自社の経営戦略、マーケティング戦略から価格を考えていくことが重要です。
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