アグリウェブの読者の皆様、こんにちは。東京大学・下水道システムイノベーション研究室の加藤です。
本シリーズでは、下水汚泥を農業活用している方々と協力し、リレー方式でコラムをつないでいこうと思います。
今回は、人間が生み出す資源である、下水汚泥の農業利用についてお話しします。
私は、この取り組みを「ビストロ下水道」と名付けました。そして、出来た作物は「じゅんかん育ち」と呼ばれています。
輸入に頼る日本の肥料価格の高騰と見えない出口
日本の化学肥料の原料はほぼ100%海外からの輸入に頼っていますが、世界情勢が不安定で価格が高騰しており先行きが不透明です。
環境に配慮した農業や低炭素社会の実現のための循環型社会が求められています。
そこで今、注目されているのが、下水を浄化する時に大量に発生する下水汚泥(げすいおでい)を肥料として再利用することです。
【肥料価格の推移】
有機物の塊「下水汚泥」を微生物のチカラで発酵、そして肥沃な土づくり
下水汚泥は有機物の塊で、栄養源である炭素と窒素とリン、そして微生物を豊富に含みます。そして、発酵する過程で微生物が有機物を分解し植物が栄養を吸収しやすくします。
この肥料は微生物が豊富なので、土壌中の微生物が増えて肥沃な土になります。
高温で十分に発酵させるので安全な肥料です。完熟したものはサラサラで、土の香りがします。
肥料取締法では「普通肥料」として扱われます。
栄養成分や重金属濃度の分析結果で、効果と安全性が確認されたもののみが肥料として登録され流通します。
【完熟してサラサラした手触りと土の香り】
【北海道・岩見沢市での発酵の様子】
(冬季でも発酵温度は100度近くなり湯気が発生)
微生物による効果とコスト〜農家の声〜
使用者した農家から、「収量が増えた」、「病害がなくなった」、「土がフカフカになった」、「草むしりが楽になった」「栄養分や糖度があがった」などの声を聞いています。
化学肥料に比べるとコストが8割程度減った農家もあります(佐賀市のアスパラ農家)。
【ビストロ下水道は地域に笑顔と元気をもたらす】
「ビストロ下水道」の社会的意義
下水汚泥から肥料を作る地産地消型の循環型農業に、佐賀市、岩見沢市、鶴岡市、秋田県など多くの地域が取り組んでいます。
作物は、お米、アスパラ、ダイコン、そば、桃、イチゴなど様々です。
下水から生まれる資源は持続的で安定しているし「食料の国産化」に貢献します。
地域に「循環の輪」が作られ、低炭素社会や環境保全に貢献する農業が出来ます
政府は昨年末に、堆肥と下水汚泥の利用を2030年までに倍増させる方向性を打ち出しました。
農林水産省やJAを通じて農家の皆さんに対する様々な財政的な支援や技術的な支援が広がりつつあります。
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