アグリウェブのみなさん、こんにちは。(株)アグリグローバルデザインの西川です。
私は、これまで国産農産物に関する輸出・インバウンドを手掛け、農水省や自治体の輸出支援事業を多く受託してきました。現在は、日本の農産物・加工品等を海外市場へ展開していくサポートをしています。
本連載を通じて、農産物の海外展開の大きな可能性を感じていただき、越境ECへの出品を現実的にとりえる選択肢として考えていただけるようになればと考えています。
1 農産物・食品の販路拡大のキーは「訪日時の食体験」
令和4年10月に、日本への入国規制が緩和されて以降、アジア諸国(特に、韓国、タイ、シンガポールが顕著)の訪日客が増加し、令和5年1月には、訪日外国人旅行者数(推計値)は149万7300人まで回復しました。
複数のシンクタンクの分析によれば、今後、外的環境が大きく変わらない限り、令和5年は2,000万人を超えると予測しています。そして2024年には、コロナ前の水準にまで回復することが考えられます。
コロナ禍前の令和元年には、史上最高の3,188万人の訪日客数となり、訪日客の国内食関連消費額は、1兆3655億円超え、大きな市場を形成するようになっていました。
まさに近い将来、訪日市場が急激に復活することが見込まれています。
<令和5年訪日外客数予測>
出所:平成26年〜令和4年までのデータはJNTO「訪日外客数」よりJTB総合研究所が作成したものを引用
<令和元年コロナ禍直前の訪日消費額及び構成比>
出所:農林水産省HPより引用
令和2年、新型コロナウィルス感染症が拡大すると、水際対策が強化された結果、観光を目的とする訪日外国人がいなくなり、活況を呈していた訪日客の国内食関連消費市場が消失しました。
しかしコロナ禍でも依然好調だったのが、日本農林水産物・食品の輸出です。訪日客の多い中国、香港、台湾などのアジア消費者の声を拾うと、訪日時の食関連消費経験から日本農林水産物・食品を消費することがライフスタイルとして浸透していることがわかり、輸出額が伸びている大きな要因の一つであることが理解できます。
今後急速に回復する訪日客数によってもたらされる国内食関連消費市場ですが、訪日外国人がコロナ禍を経験しライフスタイルや嗜好、価値観も変容していると考えられます。
特に、巣籠生活によってEC市場は、世界的に急激に成長し、海外販売での大きなチャネルになっています。
<香港輸入商社「Hokkaido Marcheが運営する食のECサイト「MILK TOP」>
2 越境ECで「訪日時の食体験」を再体験
訪日目的として最も多いのが「食事」です。観光庁の令和元年年次報告書「訪日外国人の消費動向」では、目的の1位に日本食を食べること(69.7%、複数回答)となっています。
単に食することだけでなく、日本の食文化、地域の郷土料理等に触れる機会を目的に訪日するリピーター客が増え、多様性と歴史に溢れた日本食のファンになって帰国しています。
この訪日時の食体験が、日本産農林水産物・食品の付加価値として捉えられ、帰国後も気軽に購入することで「再体験できる」越境ECでの販売が注目されています。
しかし農産物をそのまま越境ECで販売するには、発注から納品までにかかる時間が長いことや納品時の瑕疵、輸送コストを吸収できる程の単価の高い農産物の需要、そしてその供給量の他、現地市場で購入可能な農産物との価格競争と解決すべき課題が多いのが現実です。
その中で、越境ECに農産物活用の活路を求めている事例を紹介します。
株式会社新杵堂の取り組み
昭和23年に岐阜県中津川市で創業した、栗きんとん等和のスィーツメーカーである株式会社新杵堂は、越境ECに力を入れている事業者です。
現在、Amazon Business(国外販売)、自社で商品PR動画を制作し海外SNS(TikTok、Red等)を活用したライブコマース販売、海外百貨店のWeb販売に掲載するなどの取り組みをしています。
新杵堂グループ代表の田口和寿氏は、「越境EC販売を企業成長の大きな柱とし、外国人社員の登用を積極的に取り組み、組織強化を図っています。」と説明しています。
また、主力商品である「大福」や「ロールケーキ」は、日本の果物を原料にしていることから、全国の農産物事業者とのネットワーク拡大にも取り組んでいます。
田口氏は、「今海外で最も売れている「みかん大福」の製造は、和歌山のみかんの生産者団体からの声でした。つまり、みかんの多量の廃棄問題への取り組みでした。売り先のないみかんを当社が買取り、みかん大福にしたのです。」また、「海外消費者は、SDGsに対して関心が高く、当社の取り組みに共感され、それが付加価値となって売れています。」と話しています。
農産物を越境ECに売るには、新杵堂のように市場ニーズに合った、付加価値の高い加工品の原料として、サプライチェーンの一角の担う方法もあるのではないでしょうか。
<海外で人気の「みかん大福」>
株式会社テーブルクロス
平成26年に設立した株式会社テーブルクロスは、「食×体験」をコンセプトにした、訪日旅行者に向けたプラットフォーム運営を行っています。
現在、訪日旅行者向けのワンストップフードプラットフォーム「byFood.com」、YouTubeなどを活用して海外に対して日本の食文化や日本各地での魅力的な体験情報を発信しています。
そして令和4年に、越境EC「By Foodマーケット」を立ち上げました。訪日外国人が、食体験に参加し帰国後にも気軽に日本の商品を購入できる仕組みを構築し、販売しています。
城宝氏は「食体験を通じて海外の人が日本の奥深い文化を知る機会があり、日本の高付加価値商品に惹かれる旅行客も多いです。当社の体験サイトを利用した訪日外国人の声をもとに、越境ECサイトを立ち上げました。」と説明します。
今、By Foodマーケットでは、お茶や果物を加工したジュースの人気が高く、詰め合わせにして販売しています。
城宝氏は「いちご等果物狩り体験、お茶体験、郷土料理の料理教室体験の申し込みが多く、そこで使用される農産物を生産されている農家さんと連携して越境ECへの掲載サポートも行っています。」と話します。
<株式会社テーブルクロスCEOの城宝薫氏と同社COOのトソ セルカン氏>
<越境EC (By Food)で売れている商品例(和歌山)>
※越境EC「By Foodマーケット」 から引用
3 農林水産省の「食体験商品」磨き上げプロジェクト
農林水産省では、訪日客の食を絡めた体験を通じて、日本の食文化に触れ、帰国後、再消費する好循環の仕組みを構築・輸出拡大を図ることを目的に、平成31年度から「食×プロジェクト」として取り組んでいます。
訪日客市場はコロナ禍前の水準にまだ戻っていない中、過去、訪日した外国人を中心に、越境ECで掲載可能な地域の食文化を発信する付加価値の高い商品を発掘、開発・改良をしていくプロジェクトを新たに令和5年度から取り組みます。
農林水産省 EAT!MEET!JAPAN
<農林水産省 食体験「商品」磨き上げプロジェクト>
※農林水産省 HPより引用
4 次のコラムにむけて
コロナ禍で訪日観光需要が壊滅的になった中でも、農産物・食品の輸出は好調で、その理由には、訪日観光客の食体験があり、それを帰国後も「再体験」することにあることがおわかりいただけたと思います。
次のコラムでは越境ECに出品する際のポイントについて解説したいと思います。
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