(日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会(JONA) 高橋 勉)
有機農業のメリットについて、農薬不使用で語っていたのは昔の話。
その後、世界的に研究が進む中で、有機農業にはもっと大きなメリットのあることが明らかになってきました。その最たるものは、「生物多様性の増進」です。
生物多様性の現状ついて
2020年にWWF(世界自然保護基金)が発表したデータによると、過去50年で世界の生物多様性は68%減少したといいます。
その原因として挙げられているのが、森林伐採による生息地の減少、気候変動、化学物質による環境汚染、過剰な捕獲、外来種の増加などなど。
これらの原因は、いまなお継続しており、生物多様性の減少に歯止めはかかっていません。
こうした現状を受けて、2022年にひらかれた生物多様性条約第15 回締約国会議(CBD-COP15)では、「陸と海の30%以上を2030年までに健全な生態系として保全する」とした『30by30目標』が新たな世界目標のひとつに盛り込まれました。
この30by30を達成していくために、日本では環境省が「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を「自然共生サイト」と名付け、令和5年度から認定制度を開始しています。
(参考)環境省「自然共生サイト」
「自然共生サイト」に新たに認定された区域は、生物多様性を効果的にかつ長期的に保全しうる地域(OECM)として国際データベースにも登録されますが、ここでは有機農業をはじめとする農地での生物多様性保全の取り組みも、登録が可能な対象となっています。
このようななか、金融界や大手企業も生物多様性保全への取り組みに大きく舵を切っている潮流が、国内メディアでも報じられるようになりました。
(参考)国内メディア報道
これからは「自然共生サイト」に認定され、30by30の世界目標に貢献していることが、農業経営における新たな付加価値として広がっていくかもしれません。
生物多様性減少のデメリット
ところで、生物多様性が減少するとどのようなデメリットがあるのでしょう?
簡単に言うと、生物多様性が減少し生態系バランスが崩れると、生命にとって危機的な状況が生まれやすくなります。
例えば、作物に害虫が出始めた時に殺虫剤を使うと、害虫を餌にする益虫も一緒にいなくなってしまいます。
もちろん、最初の害虫は一時的に減りますが、第2波が来た時には再び殺虫剤を使用しないと駆除できなくなります。
これは餌となる害虫よりも、捕食者である益虫のほうが元々の数が少ないから当然で、第3波、第4波とイタチごっこが始まり、最終的には防除剤への耐性をもった害虫が現れ、既存の殺虫剤では効果がなくなってしまうわけです(耐性菌問題も同じ構図)。
見逃されているメリット
生物多様性を維持して生態系のバランスを保つことは、生命全体のリスク管理というだけでなく、長期的な経済性でもメリットが大きく、これを農業現場で実践するのが有機農業といえます。
しかし実際に、有機農業で生物多様性はどれほど増加するのでしょう?
日本では農林水産省が令和3年度に、水稲・大豆・茶を対象とした生物多様性保全効果測定調査を全国的に実施しています。
その結果、水稲に関しては「指標生物スコアに基づく生物多様性総合評価」の項目において、有機農業はIPMに次いで高い評価が示されました。
また、指標生物のうちサギ類、アシナガグモ類については有機農業が最も平均個体数が多いという傾向も出ています。
(参考)農林水産省 環境保全効果の調査・評価及び中間年評価の構成について
これからに向けた取組
ご参考までに、日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会(JONA)が次代の農と食をつくる会のサポートで運営している「米麦大豆2年3作実験圃場」における生きもの調査の最新結果を掲載します。
毎年、春と秋に生きもの調査を実施して、生きものとのバランスを考えながら有機栽培実験を続けています。
すぐに画期的な成果が出るものではありませんが、少しずつ生物多様性が向上していくことを目指しています。
(参考)「米麦大豆2年3作実験圃場」調査結果
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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