(農林中金総合研究所 野場隆汰)
前回解説したように、自然災害は地域農業の持続性を考えるうえで重大なリスクとなりえます。そこで本シリーズでは、「連携」をキーワードとして、自然災害に強い地域農業の在り方を検討していきます。
今回は生産者同士の災害時の連携事例として、三重県伊賀市の3つの農業法人が締結した「災害時における相互支援に関する協定」(以下、「相互支援協定」という)の取組みを紹介します。
相互支援協定の参画法人と締結までの経緯
相互支援協定に参画しているのは、三重県伊賀市猪田地区で営農を行う農事組合法人大東営農組合、農事組合法人いだたなか、株式会社ヒラキファームの3法人です。
大東営農組合と農事組合法人いだたなかは、それぞれ猪田地区内にある集落営農組織を母体とする農業法人で、両法人ともに同地区内のみで営農しています。一方、ヒラキファームは伊賀市内で約100haのほ場を耕作する大規模農業法人であり、猪田地区内でも約5haの農地を営農しています。
3法人による相互支援協定は2022年3月に締結されています。
きっかけとして、大東営農組合の代表者であるA氏による、昨今高まる自然災害リスクへの対策としてBCP策定を進めるなかでの、大規模な自然災害には自らの法人のリソースだけでは対応できないという課題認識がありました。
それと同時に、ヒラキファームの社長のB氏も、コロナ禍を経験するなかで、従業員内でのウイルス感染拡大など、自社に重大な経営リスクがあることを懸念していました。
両者の課題認識は非常時での事業継続への懸念という点で一致し、その解決策として近隣の農業法人同士であらかじめ助け合うことを協議しておく、相互支援協定のアイデアを浮かび上がりました。
その後、大東営農組合から同じ猪田地区内で営農する農事組合法人いだたなかにその話を持ち掛けたところ、同法人も非常時での事業継続について同様の課題認識を持っており、最終的に3法人での協定締結に至りました。
相互支援協定の具体的な内容
相互支援協定の具体的な内容は、地震や台風などの自然災害や感染症が発生し、協定に参加するいずれかの法人が事業継続困難となった場合に、被害がない法人から復旧に必要な支援を受けることができるというものです。
支援内容としては、「農業機械」「従業員等の人員」「農業生産資材」に加えて、「そのほかとくに要請のあるもの」という項目も定め、互いの法人の事業継続にとって必要なものを柔軟に支援要請できる点が特徴となっています。
支援の要請は、災害時に被害を受けた法人が文書に「被害状況」「要請する内容と規模等」「支援の期間」「そのほか必要な事項」を明記したうえで相手方に手交することとしています。また、この支援要請のために、3法人間で緊急連絡先をあらかじめ共有しておくことも協定内には明記されています。
支援において発生した経費は、支援を受けた側の法人負担が原則となっています。実際に人材や物資の支援があった場合、その費用の負担は後々問題になりえます。相互支援協定のなかで負担の方針をあらかじめ決めておけば、支援後の法人間の協議が円滑に進むことが期待できます。
実際の自然災害リスクを想定した事前協議と平時からの連携
3法人が営農する地域の水害ハザードマップを確認してみると、大東営農組合および農事組合法人いだたなかが営農する猪田地区とヒラキファームの主たる営農エリアである地区は、同時に被災するリスクが低くなっています。
そのため、もし両地区のどちらかが水害になったとしても、被害が少ないもう片方の地区の法人が支援できる可能性は高いと想定されます。
幸いなことに、相互支援協定が締結されてから、3法人が営農する地域では大規模な自然災害は発生しておらず、これまで実際に協定が発動したことはありません。ただし、協定内にも記載があるように、3法人では平時に互いの情報交換や組合員・従業員間の交流などを行い、いざというときに円滑な相互支援ができるような体制づくりに取り組んでいます。
具体的な自然災害リスクを確認して、直面するリスクが異なる事業者・地域で対策を検討してみることや、平時から自然災害リスクを意識しつつ法人間での連携に取り組むことは、地域農業の災害回復力をより一層向上させることにつながるのではないでしょうか。
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