6次産業化を取組む際に、多くの農林漁業者が課題と感じるのが営業・販売である。また、実際の販売先として企業や最終消費者等の様々な相手が考えられる。そこで、今回は6次産業化における企業との直接取引についての成功ポイントは何かをみていきたい。
直接取引のメリット、デメリット
企業との直接取引を行うメリットは、提供した農産物が原材料として使用されるため、一定以上の品質であれば色や形が不揃いであっても取扱ってもらえるということである。その結果、規格外品も商品になり、廃棄を減らすことができる。一方、デメリットとしては、単価の安い輸入農産物との価格競争になり、利益が出にくいということである。
このような特徴のある企業との直接取引における成功ポイントとしては、①組み手を見極める、②長期的な関係構築、③あくまで「生産」が軸の3点が挙げられる。
①組み手を見極める
農林漁業者では、一般的には大量生産・大量販売によるスケールメリットを活かした低価格戦略を実行することは困難である。そのため、価格だけにこだわる取引先ではなく、自社の経営理念に共感し、共有できる取引先を選ぶことが大切である。
群馬県で有機栽培にこだわった農産物の栽培とその加工品の製造・販売を行っているグリンリーフ(株)では、「感動野菜」や「人づくり、土づくり」といったキーワードを掲げ、環境にこだわった事業展開を行っている。企業との直接取引では、自社の理念に共感し、共有できる先を選んで、長期的な取引を前提に契約を結んでいる。
モス・バーガーを全国展開している(株)モスフードサービスとは、環境にこだわった事業展開を理解してくれる先として1996年から取引を開始し、10年後の2006年にはトマトとレタスを生産する会社を合弁で設立する関係にまで至っている。
②長期的な関係構築
企業との直接取引では一定量以上のロットや取引先独自の基準に合わせた生産、加工、包装、運送、品質管理等が求められ、それに応える体制を整えるためには、多くの時間と費用が掛かる。そのため、体制構築の投資の回収には長期的な関係を維持していくことが大切である。
京野菜の1つである九条ねぎを生産していること京都(株)では、自社生産だけではなく、数十戸の農家と契約し、京都市内、亀岡、美山でも九条ねぎを生産することで通年供給を実現している。また、九条ねぎの加工工場も京都市内に持ち、正真正銘の京都産ブランドの商品を供給できる体制を構築している。
このように、企業側から求められる価値を提供できる体制を整えることによって、首都圏のラーメン店、百貨店等と長期安定的な取引を行っている。
③あくまで「生産」が軸
企業との直接取引は、バリューチェーンの川上にいる農林漁業者と川下にいる2次業者、3次業者との連携・役割分担と捉えることができる。そのため、農林漁業者側に求められるものは、品質のよい農産物であることが大前提となっていることを忘れてはならない。
奈良県で梅・柿・野菜等の農産事業、加工事業等を展開している㈲王隠堂農園では、「生産者が連帯することで、流通業者や消費者と対等な関係を築いていく」という経営理念の下、西日本の生産者との連携構築に取組んでいる。参画する生産者が増加してくると、事務処理、加工、出荷作業等の共同センターを設置して農業者が生産に特化できる体制を整える等、常に生産に軸足を置いた事業展開を行うことで取引先からの信頼を得ている。
しなやかな経営を
企業との直接取引では、近年、厳しい品質管理基準を求められるようになっている。そのため、HACCP等の安全・安心に関する認証を取得する農林漁業者が増えてきている。このように、企業との直接取引を行うには、取引先の企業側が求めるニーズの変化を察知し、それに対応していくしなやかな経営が必要である。
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