B弁護士は、A社長から債権回収についての相談を受けているようです。
今回は、債権回収についての基本的な考え方や支払いが滞った場合の対応について検討してみましょう。
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A社長
- この間はすまなかったな。そうだ、今回もひとつ相談に乗ってくれよ。今日の飲み代は俺が払うからさ。
知り合いが社長をやっている桑田飼料が困っているんだ。なんでも取引先の清原農産が売掛金を支払ってくれないらしい。その金額が100万円を超えるみたいなんだよ。分割払いに応じてもらいたいと泣きつかれているみたいなんだけど…
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B弁護士
- なんだ、またトラブルの話か。会うたびに法律相談みたいになってきたな。しかし、金額も大きいし、桑田飼料は困っているだろうね。
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A社長
- 売掛金を払わないなんてけしからんだろう。清原農産の清原社長はベンツを持っているらしい。金も払わないでベンツに乗っているなんて不届きな奴だ。そのベンツを売って回収するっていうのはどうだ。名案だろう。
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B弁護士
- おいおい。桑田飼料が取引をしているのは、清原社長個人ではなく、清原農産なんだろう。清原社長と清原農産とはいわば違う人間なんだよ。清原農産に対する売掛金があるからといって、清原社長の財産から回収することはできないんだ。
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A社長
- そうなのか。清原社長がベンツに乗っているのを黙って見ているしかないなんて歯がゆいな。
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B弁護士
- 基本的には、清原農産からの回収を考えなければならないね。
その前に債権回収についての基本的な考え方を確認しておこう。これは経営者であればみんなが理解しておくべきことだよ。債権回収というのは誰と誰の争いだと思う?
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A社長
- 簡単な質問だな。債権者(回収する側)と債務者(回収される側)に決まっているだろう。この場合は、桑田飼料と清原農産の争いさ。桑田飼料がいかにして清原農産の財産から売掛金を回収するのか。そういう問題だ。
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B弁護士
- そうではないんだ。債権者(回収する側)は債務者(回収される側)に対しては、法的には勝てるに決まっているよ。桑田飼料は清原農産に対する売掛金を持っていて、支払時期は来ているんだからね。清原農産は払わなきゃいけない、そのこと自体に争いはないんだ。
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A社長
- それなら誰と誰との争いだっていうんだよ。
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B弁護士
- この場合の争いは、桑田飼料と他の債権者の争いなんだよ。
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A社長
- もっと具体的に言ってくれ。
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B弁護士
- 清原農産の債権者は、桑田飼料だけではないだろう。他にも取引先はいるだろうし、銀行やリース会社、税務署だって債権者さ。これに対して、清原農産が持っている財産というのは限られている。債権回収というのは、清原農産が持っている財産という限られたパイを多数の債権者が競って回収しようとする場面なんだよ。だから、債権回収は、債権者(回収する人)と債務者(回収される人)の争いではなく、債権者間(回収する人同士)の争いなんだ。
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A社長
- そういうことか。
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B弁護士
- それがわかれば何が必要なのかもわかってくる。債権回収では、他の債権者に勝つための武器が必要になるってことさ。
例えば、銀行は、会社や社長が持つ不動産に担保を設定するよね。これは、他の債権者に先立って債権を回収するために銀行が準備する武器なんだ。
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A社長
- なるほどな。でも、銀行ならば社長の自宅に担保を設定することもできるかもしれないが、俺たちのような単なる取引先ではとても相手方の社長に「取引するにあたって、あなたの自宅に担保を設定させてください。」なんて言えないぞ。もっと手軽に使える方法はないのか。
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B弁護士
- 実務上、良く使われているのは、公正証書だな。
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A社長
- 公正証書か。遺言なんかは公正証書で作ると聞くが、商取引でも使うことがあるのか。
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B弁護士
- 公証役場に行って公正証書を作っておけば、取引先が売掛金を支払わないときに直ちに強制執行できるようになるんだ。
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A社長
- すぐに相手方の持つ売掛金や在庫を差し押さえられるということか。
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B弁護士
- そうなんだ。実際に差し押さえるかどうかではなく、差し押さえができるポジションを取ることが大事なんだ。取引先としては、売掛金や在庫を差し押さえられては困るから、優先的に支払わざるを得ない。つまり、公正証書は、債権回収の武器になるってことさ。
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A社長
- よくわかったよ。で、どうやって取引先の社長に公正証書を作ることに応じさせるんだ。
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B弁護士
- 売掛金の支払が滞ったときがチャンスさ。清原農産からは、分割払いのお願いをされているということだから、公正証書で分割払いを約束させて、今度支払が滞ったときは強制執行できることを盛り込んでおくと良いと思うよ。
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A社長
- ありがとう。桑田社長には、公正証書を作成するようアドバイスしてみるよ。
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B弁護士
- よし。それじゃあ法律相談はここまでだな。遠慮なくこの松阪牛のしゃぶしゃぶってやつをいただくことにしよう。
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A社長
- そんなのメニューにあった?
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