6次産業化の取り組みの中で、生産者が、直接、消費者に向き合う直販事業が注目されている。今回は、直販事業の中でも、カタログ販売やネット販売といった通信販売について取り上げたい。
通信販売を行うメリットは、中間流通業者を通さずに販売できるため収益性を高められることである。しかし、比較的参入が容易なため競争が激しく、事業を軌道に乗せることが難しい。このような特徴のある通信販売における成功ポイントとして、①リピート顧客の獲得、②親近感の醸成、③現物を見られない不安の解消、の3点が挙げられる。
リピート顧客の獲得
通信販売は、日本全国や全世界のお客さまを相手にできる一方で、日本全国や全世界の同業者と競争することになる。そのため、新規顧客の獲得以上にリピート顧客の獲得に注力することが大切である。1度でも購入歴のあるお客さまへのDM送付やメルマガ配信、何度も購入しているお客さまへの優先案内や特別割引などがリピート顧客の獲得に効果的である。
北海道せたな町で、海産物の漁を行うとともに、それらの加工・販売も行っている㈲マーレ旭丸では、20年近くネット販売を行っている。会員登録したお客さまには、メールアドレスとパスワードの組み合わせでログインすることで、発送状況の確認やかんたん購入機能を利用していただけるような仕組みを用意している。また、会員向けの割引価格も設定し、リピート顧客を獲得している。
親近感の醸成
通信販売では、店舗販売のようにお客さまと直接対話ができない。そのため、丁寧な説明と頻度の高い情報発信が必要である。また、商品の紹介だけでなく、自社の考えや身の周りの出来事などを紹介し、お客さまに親近感を持ってもらうことが大切である。
北海道中富良野町で、年間3万個超のメロンを栽培している寺坂農園(株)では、ツイッターやフェイスブックといったSNSを利用して情報発信をしている。メロンの育成状況や収穫状況を伝えるだけでなく、日頃の出来事や北海道の景色など、一見、商売とは関係のない事柄も伝えている。こういったメッセージから、寺坂社長がまじめな情熱家であることが伝わってくる。また、一日に何度も情報発信するときもあり、いつの間にか寺坂社長と友人になったような親近感を抱く。このような情報発信の積み重ねによってファンを増やしている。
現物を見られない不安の解消
通信販売では、お客さまが商品を手にとって見ることができない。そのため、現物を見られない不安を解消する手段が必要となる。商品に不備があった場合の対応方法を明示したり、単に商品の良さをアピールするのではなく、取り組み姿勢や理念などを伝えたりすることが大切である。
山口県山口市で、鶏肉、豚肉、牛肉、牛乳、鶏卵、無農薬野菜の生産・加工および宅配事業を行う(株)秋川牧園では、創業以来、若鶏の無投薬飼育や全植物性飼料の開発、飼料原料の非遺伝子組み換え化、野菜の無農薬栽培技術の開発など、食の安全・安心のための技術開発に取り組んでいる。宅配サービスを利用するお客さまに信頼して注文してもらうために、こういった取り組みの歴史をホームページにわかりやすく詳細に掲載している。
通信販売の事業拡大の可能性
近年、通信販売に影響を及ぼす大きな変化が見られる。その一つは、スマホの普及である。スマホによって、消費者は手軽にネットにアクセスするようになっている。これは、事業者側からみれば、いつでも、どこでも、お客さまに対してネットを通じてアプローチする機会を得たことになる。もう一つは、SNS利用者の増加である。電話やメール等に比べて情報の発信・受信が行いやすいことや、誰かが発信した情報を知り合いが評価することで情報が再発信されるといった情報発信の連鎖により短時間に情報が拡散されやすいことから、TV・ラジオのCM放送や新聞・雑誌の広告出稿に比べて、SNSは低コストのマスメディアとして捉えられるようになってきている。このような環境変化により、通信販売の事業拡大の可能性が大きく広がっている。
表 通信販売の成功ポイント
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