下がった食料自給率と続く農産物価格の上昇
2016年度のカロリーベースの食料自給率は前年度から下落し、38%となりました。冷害による米の大不作となった1993年に次ぐ2番目の低さです。一方で金額ベースの自給率は68%、こちらは2ポイントの上昇でした。カロリーベースの食料自給率低下は、コメの消費量が減るなど食の洋風化によるものであり、金額ベースが増えているのは高価な国産農産物でも消費者が選択してくれた結果によるもの。つまり消費者のニーズにあった農産物を作っている証だから心配する必要はない。そう説明されてきました。でも本当にそうなのでしょうか?
金額ベースの自給率上昇の要因を探ってみると、その背景にはコメや小麦の生産量、それに野菜や果樹の生産量は大幅に減っていることが分かります。これが農産物価格の上昇をもたらし、その結果、金額ベースの自給率上昇に繋がっているのです。消費者が国産農産物を積極的に選択し、販売額を伸ばしている訳では無く、やむを得ない生産額上昇だとみることが出来ます。これでは日本農業の実力が上がっているとは言えません。
実際、このところ肉や野菜の値段が高くなった。そう感じる人は多いのではないでしょうか?総務省の小売物価統計を見てみますと、ここ5年間の小売価格は。例えば牛肉は100グラムあたり898円と14%の値上がり。豚肉は13%、去年品不足で騒いだバターは12%の上昇となっています。
また野菜は、ネギが31%、にんじんは26%、タマネギやキュウリも14%と軒並み上昇、消費が年々減っているコメを除けば、肉も野菜もほとんどの農産物で価格を上げているのです。
家計調査から見る私たちの世帯収入は、ほとんど変わっていませんので、食費の増加が家計を圧迫する。そうした状況になっています。
国内の生産力が落ちている
いうまでもなく、農業の最大の使命は、安全で良質な農産物を、安定した価格で、安定的に国民に届けることです。もちろん野菜などの価格高騰の背景には、台風や日照不足などの気候要因もあります。しかしそれ以上に、農業の弱体化、国内の生産力が年々落ちているのです。
農業を主たる仕事とする農業従事者をみてみると2016年は151万人と5年間で30万人減少。年齢構成も60才以上が119万人と全体の80%近くを占め、今後の農業を担う50才未満は16万人と10%に過ぎません。高齢化によって農業を辞める人は毎年膨大な数に上り、生産量も年々減少。その結果、少しの天候不順にも価格が大きく反応する構造となっています。
現在の農業政策は
こうした状況を政権はどう変えようとしているのでしょうか?政権が5年前に打ち出したのは、農業の所得倍増と成長産業化でした。
例えば、農地の集約化による、コストダウンです。担い手となる農家に農地の80%を集約し、コメのコストを40%削減する。また農家が、利益の高い食品加工や、消費者への直接販売などに取り組む6次産業化を推進する、さらに2019年までに農林水産物の輸出を1兆円にまで増やすとしました。生産コストを下げて、利益率を上げ、さらに海外にも販路を広げる。つまり農業を儲かる産業に変え、若い人たちを呼び込もうと言うわけです。
農業の担い手が少なくなっている今の状況を考えれば、所得を上げて農家のなり手を増やす。この考え方は同意できます。実際に農業所得を見てみますと、一部の農家では大規模化が進み、農産物価格の上昇もあって、所得は大幅に増えています。しかし一部の懐が肥えただけで、全体の生産力はむしろ落ちているのです。
将来の不安が払拭できていない
農家人口の減少に歯止めがかからないのは、将来に対する、農家の不安が払拭できていないからです。安倍政権は農家所得の倍増を掲げる一方で、TPPや日EUEPAなど、農産物の市場開放も同時に進めてきました。国土の狭さなど農地制約もありますので、日本農業がアメリカやオーストラリアなどと、まともに戦うのには無理があります。政府も完全な自由化は考えていないと思います。しかしどこまで食料を国内でまかない、どの程度輸入に任せるのか、政府ははっきりと示していません。食料自給率45%という目標はありますが、実態は放置されたままで、政府がそれを実現しようとしているようには、とても見えません。
正念場を迎える農政
現在の農業、規模が大きくなっているだけに、投資額も高額です。先行きが不透明な中では、大きな投資をするのは躊躇され、一方で大量の農業離れは進む。去年話題になったバター不足は、まさにそうした状況の中で起こった出来事でした。
農産物価格を安定させるためには、まずは農家の不安を払拭し、生産力の低下に歯止めを掛けることが必要です。高齢化が進む農業構造の中で、生産量を維持するのは並大抵の事ではありません。しかし農産物価格が上がり続ければ、農産物輸入圧力は強くなるばかりです。農業の生産力低下を止め、農産物の価格上昇にどう対応するのか、現在の農業政策は正念場にきていると思います。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日