農業界においても、一般企業のような農業経営マネジメント(経営管理)が求められている。農業従事者の高齢化などによる離農や耕作放棄地問題などもあり、農業経営の大規模化、法人化の進展が経営力の強化へ課題を投げかけている。
家族経営から企業的農業経営を志向する農業生産者が増加している中で、農業経営者から相談を受ける一番の課題は、経営者の右腕となる管理者を育成することである。良い作業者が必ずしも「良い管理者」に成長できていないことが、問題として浮きぼりになっている。今回のコラムでは、《前編》として管理者育成のためのポイントについて解説し、《後編》で実際の事例を紹介しながら管理者が意識を変えて成果につなげるためのポイントを解説する。
良い作業者は、良い管理者か?
農業経営者から「現場を任せられる管理者がいない」「管理者育成は難しい」と相談を受けることが増えた。経営の大規模化に伴い、圃場や職場が増え、農作物の種類・機能が増えていく中で、従業員が増加し、経営者一人では管理しきれなくなってくる。
仕事ができる作業者を管理者に抜擢するが、経営者が思ったような管理レベルでない、管理者が上手に現場をまわせない、という話を聞く。良い作業者が、必ずしも良い管理者であるとは、限らないのである。
管理者は、なぜ育たないのか?
では、なぜ良い作業者が、良い管理者に成長できないことがあるのか?その理由は、「管理者本人の適性」と「経営者」の問題の2つが考えられる。
管理者本人の適性の問題とは、良い作業者ほど、自分が作業に集中し管理できていないケースが多いことである。部下に指導して作業させるより、自分で作業したほうが早い、上手に説明する必要もないし楽、と考えることが多い。また、コミュニケーション自体が苦手という管理者もある。
2つめの経営者の問題とは、経営者が管理者に求める役割が不明確、管理者に場や機会を与えていない、問題が起きた後に指摘する、経営者の考えを以心伝心できている(話さなくてもわかってくれる)と考えている、ことなどが考えられる。
管理者として、何をして欲しいのか?を明確に伝えず、管理者としての管理すべき範囲や権限、すべき行動を決めず、何かの不具合が発生した時に「なぜ、こんな当たり前のことを確認していないのか」と管理者を責め立てることが多い。挙句の果てには、「なぜ自分の考えが伝わらないのか?普通に考えれば分かるだろ」など、管理者は、経営者の当たり前を全て理解してくれる人格者と、経営者が誤解していることがある。別人格である管理者に、きちんと役割を伝えないと、管理者としての機能・能力を発揮してくれるはずがない。(たまに気が利く人格者が管理者として機能しているケースもあるが。。。まれである。)
管理者の役割は何か?
管理者の役割は、各社で異なるが、一般的には、成果と成長を実現することであると言える。経営方針に基づき、計画を立案し、経営資源(人、農業機械・設備、資材・包材、種苗・肥料・農薬)を準備し、成果(品質向上、納期遵守、原価低減)を出すことなどが考えられる。
具体的には、管理者は、計画(作付・栽培・作業・加工・出荷など)を作成し、収量や生産性の目標を設定し、実現するための手段を考えて、正しく実行させることである。正しく実行するためには、正しい標準に基づき、作業指導を推進したり、農業機械や加工機をメンテしたりして正しく機能できる状態を維持し、進捗を管理することが重要となる。そのほかにも、人材育成や組織風土作り、栽培や加工の技術化、マネジメントの仕組みづくりなど、事業に必要な基盤を構築することも役割となる。
役割があいまいなまま、肩書きだけ管理者になると、何をすべきか?不明なまま、作業に没頭し、成果や成長を促進する活動ができない管理者が多い。これは、管理者の適性の問題ということではなく、経営者がきちんと役割を明確化できていない、伝えられていないことが問題なのである。
経営者が意識して、管理者を育成する
農業経営者は、意識的に管理者を育成していく必要がある。まずは役割を明確にし、期待を具体的に伝えることが重要である。役割を伝えたら、課題認識をあわせ、目標を設定して共有する。次に、目標を達成するために、どのような行動をとるべきかを管理者に検討してもらい、経営者とすりあわせしておくことが望ましい。
また経営者は、管理者を育成するために、日常的に管理者に関わることは当然として、年次、四半期、月次、週次でフィードバック(振り返りと意見交換)を実施し、できていることは褒め、できていないことは課題と解決策を、管理者と共有することがポイントとなる。
管理者は、経営者が黙っていても育成できるわけではない。経営者が意識的に管理者を気にかけ、声掛けすることで、管理者の意識は変わってくる。人は見守られていることを認識すると期待されていると意識し、経営者の考えについて理解を深め、現場での実行度を向上する、など管理者としての自覚が高まり、意識が変わってくる。
管理者の「意識が変われば」「行動が変わり」「現場が変わる」
経営者が管理者の意識を変革し成長を促進することで、管理者は目標達成のための行動が変わってくる。積極的に現場の状況を把握して問題を発見し、問題解決を提案し改善が促進されてくる。行動も具体的になり、計画的に、迅速になり、成果につながる行動が増加してくる。
例えば、これまで問題が発生した時、できない言い訳ばかりしている管理者のケースでは、役割を明確化し推奨する行動を指導することで、問題の事実を把握し原因を分析して、解決方向性を自分で考えて、実行するようになった。管理者は自分で決めたことなので、問題解決する意識が違う。そのために現場を巻き込んで実行するようになり、実行スピードも加速度的に向上していくのである。
管理者の意識を変えるためには、経営者自らが、管理者に期待することをイメージし、その思いを役割として「明確に」「具体的に」伝えることが重要である。管理者の意識を変革できれば、あとは管理の方法論を一緒に検討しながら現場マネジメントのレベル向上を図っていくことが可能になる。
《後編》では、「管理者の意識変革が現場で成果を創出する」事例をもとに、工夫点、苦労しながら解決したポイントを解説する。
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