農業法人投資育成制度とは
はじめまして。アグリビジネス投資育成株式会社(以降、アグリ社)です。
アグリ社は、「農業法人投資育成制度」という仕組みの中で、農業法人・農業関連法人に対して出資(株式を取得)し、育成事業によりその健全な成長を応援する会社です。
これから、アグリ社の出資に関するコラムを連載します。
1回目は、農業法人が資金調達に活用できる「農業法人投資育成制度」について、もっと多くの人に知ってもらいたいとの思いから「出資」の基本をご紹介していきます。
「出資は怖い」「出資を受けると投資会社に乗っ取られるのでは」という質問を受けます。
しかし、そんなことはありません。
投資育成株式会社や投資事業有限責任組合(LPS)が農業法人に出資する仕組みを理解してもらえれば、ご理解いただけると思います。
まず押さえていただきたいのは次の2点です。
- アグリ社やLPSは※「農業法人投資育成制度」という仕組みの中で、農林水産省の承認を受けて出資を行っていること。
- アグリ社やLPSは投資だけではなく、投資後の農業法人に助けが必要なときに、経営又は技術に関する助言を行う育成事業を行うこと
これらは法律のなかで定められています。
※「農業法人投資育成制度」とは「農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法(特措法)」に基づき、農業法人投資育成事業に関する事業計画について、農林水産大臣の承認を受けて、農業法人投資育成事業を行うことを指します。
この「農業法人投資育成制度」での第一号の投資育成会社として、日本政策金融公庫とJAグループ(農林中央金庫、全国農業協同組合連合会、全国共済農業協同組合連合会、全国農業協同組合中央会)の出資により、2002年(平成14年)10月にアグリビジネス投資育成株式会社(アグリ社)が設立されました。その後、2013年(平成25年)の法改正があり、LPSの形態での農業法人への出資も可能となり、地方銀行等による農業法人投資育成制度への参入が進みました。アグリ社以外に農林水産大臣の承認を受けたLPSが、全国に17社設立されています。
農業法人への出資実績について、例えば、アグリ社の投資実績については、2018年5月末に農業法人に対する投資件数が累計500社を突破し、投資実行の総額は累計83億円を超えました(図表1)。また、日本政策公庫から出資を受けた「LPS」13社の出資実績については、合計54社、投資総額は17億円[ 1][溝上2]となり全国での活用が進んでいます。(2018年3月現在)(出典:日本政策金融公庫[https://www.jfc.go.jp/n/release/pdf/topics_180413a.pdf])
出資先は、北は北海道から南は沖縄まで日本全国、業種も花き、野菜から畜産まで様々です。このように、特措法の施行から15年余りで、農業法人の皆さまの間で資金調達の選択肢として、出資を受けることが浸透しつつあります。また、実際に出資をうまく活用したことで、農業経営の成長・発展につなげた農業法人も増加しています。
図表1.アグリ社の累計出資件数
「出資金」と「借入金」の違い
「出資を受けたいが、融資と一体何が違うのか、良く分からない」
出資の説明をする際、農業法人の方からよく受ける質問です。
まずは下表にある「出資金」と「借入金」を比較しながら、それぞれの特徴を見てみましょう。
借入金の利息と出資金の配当金、一見どちらを選んでもコストがかかることには変わりがないように見えますが、実は、「出資金」は「借入金」とは大きく違う点があります。その違いを理解し、事業のタイミングや成長段階にあわせ「出資」と「借入」をうまく組み合わせて利用することが有効と考えられます。
① 財務の安定化
出資を受けると、貸借対照表の資本が増加します。これは、長期的に使用可能な資金が増強されることを意味し、財務内容の改善、安定化につながります。資本は、投資期間中に定期的な返済もありません。また、担保や保証人等は不要であり、担保価値や保証能力等に影響を与えることもありません。
⇒つまり、出資で増えた資金は、農業のような資金の回収に時間が掛かるものに向いています。
② 対外信用力の向上
出資により資本が増えると、「自己資本比率(資本÷総資産)」が上昇します。
自己資本比率の上昇は、通常金融機関からは財務状況の改善と評価され、金融機関の信用力の評価が上がります。また、公的な性格を有するアグリ社の出資を受けているということが対外信用力の向上につながる場合もあります。
⇒出資を受けることで、銀行等の金融機関からの融資を受ける条件が整いやすくなります。
③ 経営の安定化
「出資を受けると経営の自由度が下がるのではないか?」
出資の仕組みを説明する際、多くの農業法人の経営者がまずこのことを気にしています。
この不安を解決するために、株式にはいくつかの種類があることを説明します。
普段、株式と呼ばれているのは、「株主総会での議決権」「余剰金の配当」「残余財産の分配」という「権利」を持つ「普通株式」です。それに対し、「種類株式」と呼ばれる株式があります。例えば、株主総会での議決権を持たない、配当を受け取る順位が普通株式に優先するなど条件をつけた株式のことです。出資に際して、この種類株式を発行することで、自分のニーズにあった調達方法を選択することが可能となります。
⇒「資金調達はしたいけれど、経営の自由度は確保したい」といった農業法人のニーズに対し、例えばアグリ社では、議決権のない「無議決権配当優先株式」で投資を行うことが可能です。
④ 事業承継における活用
例えば後継者は決まっているけれど、現時点で当社株式を買い取るための資金や、承継の準備のための時間が十分に整っていない場合に出資を受けることで、アグリ社やLPSを安定株主として後継者が資金を用意するまでの時間を確保したり、事業承継に関して経営者の皆様からの相談にお答えすることで、孤独になりがちな経営者を支えます。
今回は借入金と出資金の違いおよび投資育成制度の概要について、ご説明しました。次回からはアグリ社の出資先の事例や、出資を受ける際のフロー、そして育成事業についてご紹介していきます。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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