「農業法人における採用のポイント」
〜人が集まり、活き活きと働き、成長する農業法人づくり〜
労務管理とは
労務管理とは、会社の目標を達成するために、労働者の意欲や能率を長期間にわたって高く維持・上昇することを目的とした施策や制度のことです。
具体的には、「募集・採用」に始まり、「賃金」「労働時間」「昇進・昇給」「人事考課」「教育訓練」「人材配置・異動」など、入社から退社に至るまでの一連の流れを適正に管理することです。
労務管理の実務については次回以降で説明しますが、今回は、「応募者(求職者)から選ばれる会社になる」ために農業法人が実施すべき労務管理基盤の整備について述べてまいります。
最低限守るべき労働条件に関する主な基準
農業法人における労務管理基盤の整備についてのポイントとして、
(1)法令遵守(コンプライアンス)
(2)求職者にとって魅力があること
(3)既存従業員にとって納得性・公正であること
の3つがあげられます。
(1)法令遵守(コンプライアンス)
労務管理に関連する法令には、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、最低賃金法、健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法などがあります。
各法令についての詳細を把握する必要はありませんが、
賃金の設定方法や社会保険の加入要件など、自社のこれまでの労務管理施策が法令に遵守しているかどうかを検証しておくことが必要です。
特に、労働基準法では、次表の通り「最低限守るべき労働条件に関する主な基準」を定めていますが、農業に関しては、労働基準法第41条で「労働時間・休憩・休日など」の労働時間に関係する事項は適用除外となっています。
<最低限守るべき労働条件に関する主な基準>
さらに、今国会で「働き方改革関連法」が成立し、「労働時間・休憩・休日など」に係るものとして、以下の事項が施行されることになりました。
- 年次有給休暇の確実な取得
<中小企業:2019年4月1日から施行>
・毎年5日、時季を指定して有給休暇を付与
(10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者が対象) - 勤務間インターバル制度の導入促進
<中小企業:2019年4月1日から施行>
・前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保するように促す - 時間外労働の上限規制の導入
<中小企業:2020年4月1日から施行>
・原則:「月45時間、年360時間」
・臨時的、特別な事情がある場合
「年720時間、単月100時間未満」(休日労働含)
「複数月平均80時間」(休日労働含) - 時間外労働に係る割増賃金率
<中小企業:2023年4月1日から施行>
・60時間超/月:25%以上→50%以上
農業は、労働時間に関係する事項が労働基準法の適用除外になってはいますが、今後、労働人口の減少や一般産業界との人材争奪など採用環境が厳しくなることが見込まれます。
農業法人が人材を獲得していくためには、「労働時間・休憩・休日・休暇」については、一般産業界と同等の基準で労働条件を整備していくことが望ましいと考えられます。
求職者が重視する労働条件は異なる
(2)求職者にとって魅力があること
前回のコラム「求める人材像の具体化」で、求める人材像を具体化することで、労働条件(待遇)の方向性が明確になると説明しました。
具体的には、求める人材像を求職者の属性で分類し、各属性別に会社を選定する際に重視する労働条件を推測します。これにより、自社が整備すべき労働条件がどの部分であり、どのように整備していくかの方向性が明確になります。
求職者にとって魅力ある労働条件、換言すれば、「応募してみたいと思う労働条件」を整備しておくことが、人材を募集していくうえでの重要な課題になります。
<求職者が重視する労働条件>
※上記表は執筆者の個人的見解になります
労働力確保が企業存続の最重要課題である
(3)既存従業員にとって納得性・公正であること
3つめのポイントは、整備した労働条件を新規入社者だけでなく既存従業員にも適用するということです。
「正規雇用と非正規雇用などの雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」が先述の働き方改革関連法により、中小企業も2021年4月1日以降から施行されます。
また、新規入社者に対して、これまで定めていた基本給より増額するのであれば、既存従業員の基本給の増額も検討する必要があります。
例えば、新規入社者の基本給を1万円増額し18万円とした場合、昨年入社した既存従業員の基本給は現時点では17万円になってしまいます。
法的な規制はありませんが、既存従業員からしてみると
納得性や公正に欠けるものであり、モチベーションの向上にはつながりません。
既存従業員も含めた新規人材の獲得が、自社の労働力確保につながります。
「企業は人なり」の言葉通り、企業が存続していくためには、人材を確保していくことが企業にとっての最重要課題となってまいります。
ぜひこの機会に、労務管理基盤の整備(見直し)をご検討ください。
※参考文献・資料
- 「農業者・農業法人労務管理のポイント(平成28年2月改訂)」<農林水産省・厚生労働省>
- 「働き方改革〜一億総活躍社会の実現に向けて〜」<厚生労働省・中小企業庁>
- 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年7月6日公布)」<厚生労働省>
- 「2018年卒マイナビ大学生就職意識調査」<株式会社マイナビ>
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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