オランダ流「売り方」
前回の記事では、私の研修先であるGebr.van Duijnを例に、経営的な視点からオランダの農業現場を紹介しました。オランダの農業現場は、社内外問わず分業化が進み、それぞれが、より自分の専門性に特化することで、生産性の向上を実現しています。
今回は、オランダ農業現場の「生産後」に注目します。「小さい国(九州程度の面積)にもかかわらず、世界で2番目の農作物輸出額」という点で注目されているオランダの農業。
この数字は、「生産」だけではなく、収穫してから消費者に届くまでも、工夫しなければ、達成できないことです。高い輸出額をあげているオランダの農業。実際の現場では、どのような「売り方」をしているのでしょうか。
独自のブランド「Purple Pride」
前回の記事でも少し触れましたが、Gebr.van DuijnはPurple Prideという独自のブランドでナスを出荷しています。これは、三箇所あるGebr.van Duijnに加え、greenbrothersとAuberginekwekerij De Jongを入れた5つの生産者で成り立っています。つまり、Gebr.van Duijnで作られたナスは、全て「Purple Pride」として売られます。
なぜ、このようなことをしているのでしょうか。
経営者のRob氏に尋ねたところ、この方法が最も「マーケットにより大きなインパクトを与えるため」とのことでした。
ナスの施設栽培は、Gebr.van Duijnだけであれば25 haしかありません。しかし、Purple Pride全体では42ha あり、オランダのナスの生産の40%以上を占めています。
一人一人の生産者として戦うのではなく、束になって戦うという戦略をとっています。
もちろん、会社が異なるため、売り上げも個別になり、当然、個々の会社の利益も異なります。Purple Prideの本部は7人のセールスチームが、日々、営業先と取引を行なっています。消費者のニーズに応えるため、7種類のナスを生産し、20種類以上の箱を使い分けています。そのため、梱包の作業には多くの人を要します。
「Purple Pride」の出荷
続いて、流通経路について紹介します。以前は、生産したナスは「セリ」にかけていましたが、現在は、消費者や小売店に「直接届ける」方法を取っています。これは、価格の安定や顔の見える関係性を築けるためです。また、契約の内訳は、年間契約が20%、1週間が50%、1日が30%という構成になっており、価格が安定している年間契約の増加を目指しています。
また、Purple Prideの出荷先もそれぞれの農場ごとに異なっています。
Purple Prideの出荷先で最も多いのはドイツであり、イギリスやスカンディナヴィアなどのヨーロッパの他に、アメリカや日本などの長距離で飛行機が必要な場所もあります。
ナスは傷みやすく、10日間で食べることができなくなります。そのため、朝6時にナスの収穫が始まり、昼には出荷しています。
アメリカのような遠くの場所へ出荷する場合、出荷されたナスは、トラックで直接空港へ送り、凡そ8時間後には到着しています。アメリカはニューヨーク、日本は横浜などと、出荷先を一か所に集中し、効率的に行っています。
このような遠い国とどうやって関係性を持つのでしょうか。
アメリカとは、20年ぐらいの付き合いになります。非常に少ない量から始まり、真面目に良い品質を提供し続けることで、段々と引き取ってくれる量が増加していきました。また、現在取引している日本の会社は、アメリカの業者の紹介された企業とのことでした。やはり、国に関わらず、お客様に対し、地道に誠実な態度で質の良い野菜を届けることが大切になります。
生産者組合「DOOR」
Purple Prideとして、温室栽培の生産者が属しているDOORという生産者組合に所属しています。このDOORには、Purple Prideの他に、GREEN DIAMONDS(キュウリ、3つ生産者、総面積24 ha)、PROMINENT(トマト、30の生産者、総面積355ha)SweetPoint(ペッパー、2つの生産者、総面積19 ha)PariCo(パプリカ、4つの生産者、総面積52ha)で計5品目の生産者団体(ブランド)が所属しています。DOORは、品質管理、ブランド戦略など、消費者と生産者をつなぐ役割を果たしています。昨今、消費者の目はますます厳しくなり、品質を問われることが多くなりましたが、DOORに属することで、安全が保証されています。DOORの生産者は、GROBAL GAPを取得し、衛生管理と食品安全を保証するBRC FoodとIFS Food認定を受けなくてはなりません。厳しい基準をクリアすることで、消費者自身が安心して、野菜を購入できるという仕組みになっています。
また、日本とは異なり、地区ごとで所属する組合が決まる訳ではなく、どの地区に農場があっても、自分が好きな生産者組合に入れます。
オランダの農家は、自分たちで配送したり、貯蔵したりすることができる大規模な生産とそれを貯蔵できる倉庫があるため、このような直接的な販売を実現できると言っています。
余談ですが、仮にスーパーで「ナス1本1ユーロ」で売られていると場合、出荷する際の元値は0.3ユーロ程度だそうです。様々な費用が掛かって市場に出る中で、特に「売る」というところに重点を置いているようです。
”Story Telling”の重要性
前回の記事でも話しましたが、オランダ人にとって、ナスは馴染みのないものです。市場を開拓する中で大切なことについて、Steernbergen経営者Rob氏に話を伺いました。
「ゼロから市場を開拓していく上で、非常に大切なのは、消費者にストーリーを伝えることです。なぜ、ナスが必要なのかをしっかり伝えなければなりません。例えば、我々は、出荷するナスにテープで情報を貼ったり、ホームページや冊子でレシピを公開したり、消費者が実際にハウスに足を運ぶ機会を作ることなどを通して、消費者にちゃんと自分たちの思いを届けるようにしています。」
ニーズが多様化した現代で、どのようにしたら、生産したものが消費者の目に留まり、選んでもらえるのかを考えることが非常に重要です。どこまでストーリーを伝えるか。徹底した「こだわり」とそれを伝える「戦略」が鍵になるのではないでしょうか。
今回の記事では、オランダの「生産後」を紹介させていただきました。しっかりした経営基盤と販売戦略を持っていると感じました。次回は、大規模なグリーンハウスのもと、ITを駆使した環境整備や天敵昆虫の利用など、世界から注目されているオランダ農業の生産現場を紹介します。
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