前回のコラムでは、管理者の意識が変わると、成果と成長が期待できることを解説した。今回のコラムでは、「作業者意識を変える」と題して、管理者の意識変革により現場が変わり、作業者の意識が変わることによるメリットやそのための取り組みについて解説する。
現場の最前線は作業者
農業現場で栽培や調整・包装の作業をするのは、経営者や管理者ではなく、作業者である。作業者の品質や効率化の意識が高ければ、作物品質や労働生産性は高くなる。作業者が安全で働きやすい、やる気を持てる環境を作るのが経営者の仕事であり、働きやすい環境を活かして現場をマネジメントして、作業者に高い意識をもって作業できるようにするのが管理者の仕事である。
作業者の意識を前向きに変えることで、現場は格段にレベルアップする。最前線にいる作業者が、ちょっとした作物の変化に気づき事前に教えてくれたことで病気を未然に防げた、やりづらい作業を工夫することで効率化できた、という事例をたくさん作ることが重要となる。経営者や管理者と同じ目線、意識をもった作業者をどのようにして育成するか?が農業経営にとって難しいことであるが、事業発展には肝となる。
頑張りが見える仕組みを構築して、作業者意識を変える
日本能率協会コンサルティングが改善支援したA社の事例をもとに、作業者の個々の頑張りが見える仕組みを紹介する。A社は、施設野菜を栽培し、収穫後、自社で洗浄、(保管)、調整、包装して、出荷している。調整や包装作業は、パートの作業者が10〜15人作業しており、コスト全体の30%程度を占める重要な工程であり、この工程の生産性が作物の収益性を決める要因となっていた。
これまでは、時間当たりの出来高(ケース数/時間)を工程全体の生産性管理指標として、日々評価していた。管理者を中心に改善活動を1年間推進し、生産性1.3倍を達成していたが、最近は頭打ち状態であった。JMACでは、個々の作業者のパフォーマンスに着目し、個人別の出来高を見える仕組みを導入した。具体的には、調整〜包装・箱詰めを一人で作業できるようにして、ケースに個人のカードを入れて、誰がどの程度ケース数を包装・箱詰めしたか?も見えるようにした。
これまでも、個人の出来高にバラツキがあることは把握していたが、個人別の数値では管理していなかった。遅い人(未熟練者)に対して改善指導してはいたが、目に見えた効果には至らなかった。個人別の出来高を見えるようにした効果はすぐに現れ、2週間で10%生産性が向上した。未熟練者は、自分の出来高を自覚し、熟練者のやり方を良く見て実践するようになり、できるだけ出来高を上げようと努力するようになり、また熟練者は、トップを競うように、更なる改善を図って提案数が増加した。トップ熟練者(改善推進者)を何人作れるかも重要なことである。
作業者の頑張りを見えるようにすると、未熟練者は、自分と熟練者との違いに愕然とし、成長をあきらめることもある。しかし、個人別出来高を見えるようにした仕組みに加えて、未熟練者もやる気になる仕掛けとして、生産性向上率(改善後生産性÷改善前生産)という指標で評価することで、やる気を持たせることができる。熟練していない人ほど改善余地が大きいので、生産性向上率は比較的容易に改善するのである。この時に管理者と経営者は、個人別出来高の低さではなく、どれだけ改善したかに目を向け、未熟練者の改善した成果を褒めることで、より前向きな改善意識を醸成できるのである。未熟練者は生産性向上率で成長を促進し、熟練者は出来高生産性の維持と更なる改善促進を図り、全体の生産性向上を推進することが重要となる。
【生産性向上の視点】
作業者意識を変えて改善を促進する
作業者の意識が変われば、現場は大きく変革し、どんどん改善が促進される。A社の事例では、トップ熟練者(改善推進者)は、自分の生産性を向上させるために、何が問題か?を考えるようになり、問題に気づき、要因を考え、改善提案してきた。
一つ目の事例は、午前の最初の生産性が低いことに気づき、その理由を作物の葉の状態だと把握し、問題点の要因を考え、改善案を実行し生産性向上を図った。具体的には、午前は作物の葉の湿り気が多く、包装しにくい状況が続いており、その要因は冷蔵庫の保管状況にあると仮説づくりをした。事実、午前の後半から午後にかけては、安定した生産性を維持できていた。改善案として、冷蔵庫内の風があたる向きや強さを変えたり、湿度管理を試行錯誤しながら、適正値を見つけることを実践し、生産性を向上した。
二つ目の事例は、ローラーコンベアのチョコ停(ちょっとした停止時間)の削減である。A社では、作物の供給や箱詰めした商品の受け渡しを、ローラーコンベアを使用して歩行を削減していたが、使用するにしたがってゴミや水滴などが付着し、ローラーの回転が悪く、途中で箱やパレットがコンベア上で停止するため、作業中にちょっと手を止め、押す作業が発生していた。この問題についても、パート従業員を中心に原因と対策を考え、ローラーコンベアの清掃をすることにした。最初は、きれいにすることを目的に、時間をかけて清掃していたため、片付け清掃時間が長くなっていたが、これについても改善を推進し、ローラーコンベアの部位別の清掃方法(頻度と清掃のやり方)、清掃基準(どの状態まできれいにするか?)を決めて、清掃時間を当初の半分まで短縮し、ローラーコンベアでのチョコ停もほぼ削減できた。
作業者が仕事の喜びを感じる職場づくり
これまで紹介した取り組みで説明したように、作業者の意識が前向きに変化すれば、大きな収益向上につながることは理解できたと思う。農業経営者や管理者は、自分自身では栽培を理解し、作業を効率化できると思う。しかしそれでは1人工の改善にしかならない。現場の作業者を巻き込んで、生産活動と改善活動を推進し、作業者に仕事の喜びを与えることが重要である。
仕事の喜びは、人によっていろいろあると思うが、農業であれば、人の身体づくりに関わる食糧品を生産している誇りや責任感であったり、日々改善し作物品質向上や作業効率化が図られ成長できている実感、結果としてコスト競争力向上となり収益向上が自分の給与に反映される、ことなどが喜びにつながっている。
農業経営者と管理者は、「作業者が仕事の喜びを感じる職場づくり」が重要な役割であり、そのための仕組みと仕掛けを工夫しつづけることがポイントとなる。収益向上のためには、現場力向上が一番の近道であり、そのためにも、現場の作業者が何に困っているか?どうしたら動機づけできるか?を常に把握し、考え、現場に寄り添って改善を推進し、作業者の意識を変革していくことが必要なのである。
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