事業承継は他業種であっても本質的に違いはありません。他業種を俯瞰的に眺めることで新たな気付きを得られるかもしれません。今回は精肉卸売業の事例です。
事業承継の事例
食用肉を切り分けて、卸売りをする精肉専門の卸売り業の事業承継の話です。
現在、後継者はAさん30歳、経営者はBさん、父親で65歳です。
いわゆる家族経営ですが、従業員20名ほどの中に親族は5名ほど働いています。
後継者Aさんは、大学卒業後、大手食品商社で働いていましたが、商社で働いていた当時は実家の事業を継ぐことはあまり考えていませんでした。
しかし、26歳の時、社長Bさんが病気で入院したことがあり、それをきっかけにして実家の事業を継ぐことを真剣に考え始めましたのです。
実家の事業に戻った決め手は、子供の頃、創業者である祖父から言われていた言葉だったと振り返っています。
「孫の中でも、おまえに会社を継いでほしい」
それがいつまでも心に残っていて、
祖父に可愛がられていたAさんは、自分がやるべきだし、やらないと後悔する、と考え実家に戻る決意をしました。
当時は、Aさんと同じように、Aさんの従兄も事業承継をする後継者候補としていましたが、結果的にAさんが従兄を追い出す形で、後継者がAさんになりました。
Aさんは、実家の会社に入ったはのよかったですが、いままで大手でバリバリ仕事をしていたので、会社の仕事のやり方に納得がいかずイライラする日、親との関係もうまくいかない、従業員にも自分の言葉が伝わらず関係が悪化する中で、会社の未来や自分の未来はどうなるのか?道が見えなくなってしまいました。
受け渡す社長Bさんも、具体的に事業承継に向けてどうすればよいかわからず、Aさんに何を伝えたらよいのかわからずに、ただ時が過ぎていくだけでした。
顧問税理士に相談しても、何も考えてくれず一般論しか教えてくれない。
事業承継の専門家という人に相談したら、事業承継ではなく相続のことはとても詳しく教えてくれるのですが、事業承継については教えてくれない。
結果、事業承継について、だれも何をすべきかわからないまま、ただ時が過ぎていくのを待っていたのです。
解説
このように、事業承継に対して、何をすべきかわからず、ただ時を待つ経営者と後継者は、比較的多いと感じます。
農業でも同様に比較的多いと感じます。
また、専門家に相談しても、技術的なところは教えてくれるのですが、それを実行するために大事なことは教えてくれないのも多いと感じます。もしくは、事業承継の大事なところ自体わからなかったりします。
そんな中、後継者Aさんは、不安を抱えながら、私たち「後継者の学校」や事業承継を経験した経営者の話を聞くなど、自分なりに事業承継と経営について、向き合って考えに考えたのです。
そして、導き出した答えは、
「事業承継は、経営者でなく自分がやるもの!」
後継者がそう考えた時から、すべてが動き始めました。
会社の未来をつくる後継者が主体的に動かなければ、結局そのつけは後回しになるだけです。
経営者が、いくらおぜん立てをして事業承継を迎えようとしても、それを引き継いで事業を育てる後継者が言われるがままやっている、いわゆる経営や事業承継に対して受け身だと、後継者が事業を継いで経営者になったあと苦労をすることになってしまいます。場合によっては,会社を衰退させてしまうかもしれません。
Aさんは、自分でやろうと決めてから、どんなことをしたのでしょうか。いくつか列挙してみます。
1.社長(親)とのコミュニケーション
まず、社長との距離を縮めるためにコミュニケーションを増やしました。これまではなんとなく言いづらい雰囲気があったのですが、決意をしてからは、社長と意思疎通を図り、社長が何を考えているのかしっかりと聞いて、自分の考えをしっかりと伝えることが大事だと考えたのです。
結果、事業承継や経営、相続に至るまで、これまで話をしてこなかったことが話合われ、いろいろなことが前に進むことになりました。
2.従業員とのコミュニケーション
次に、これから苦楽を共にする従業員との関係を構築しなおすために、従業員とのコミュニケーションを増やしました。
ひとりひとりとの面談を増やし、会話したり、会議を見直して全員が発言しやすい場をつくって、コミュニケーションを増やしました。
結果、従業員から意見や提案がたくさん出るようになり、Aさんからの言葉にも耳を傾けてくれるようになり、関係が良好になりました。
3.財務状況の把握
Aさんは、財務諸表も見たことはあっても、内容の把握はしていなかったので、過去の財務状況や同業他社の財務諸表と見比べるなどをして、徹底的に会社の財務状況の把握をしました。
結果、これから会社はどこへ向かうべきか、何をすべきか、数値上で見えるようになりました、
また、相続や事業承継の話を顧問税理士にしたところ、満足のいく回答がまったく得られなかったばかりか、後継者を否定するような意見があったので、税理士を変えるべく動いています。
4.事業の見直し
Aさんは、これまでの社長Bさんが作り上げてきた顧客や強みを活かしながら、後継者自身が開拓できる地域のレストランや焼き肉店へ個別に卸す市場を開拓し、自らの手で事業の幅を広げはじめました。
5.株式の整理
株式についても、分散しないように自身に集まるように株主である親や親族を説得し、買い取る方向で話を進めています。どうしても資金的に買い取りができない時でも、遺言書などに残してもらうなどの対策を検討しています。
6.土地の整理
また、事業をしている土地が、親個人の所有になっているので、相続時に分散してしまうことを考え、会社での買取の準備を始めました。
以上のように、後継者が自らの手で事業承継を進めよう、自らの手で経営をしていこうと、“覚悟”を決めると何をすべきかやるべきことが見えてきます。
そして、後継者が動き出すと、経営者はその動きに反応してそれを援助しはじめて、事業承継が前向きに進んでいきます。
事業承継で一番よくないのは、なんとなくわからないから時期がくるまでそのままにしておくことです。
ギリギリになって事業承継を考えると、準備が足りないまま事業承継をすることになってしまい、最悪の事態を招く恐れもあります。
また、ある80歳の引退した経営者が言っていました。
「経営は失敗しないとわからないことがたくさんある。自分のたくさん失敗しながら今がある。」
経営者は、後継者の失敗を見守って、任せることが必要なのかもしれません。
ただ、大失敗をしないために、「後継者の学校」などの経営や事業承継を学んで、経験を積むことが大事ですが。
まとめると、事業承継は後継者がキーマンとなって早めに準備を進め、経営者はそれをサポートしながら見守ることが、うまく進めるコツなのだと、この精肉卸売業の例からも感じました。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
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