【温厚で優しい語り口の渡邊社長】
前回に引き続き、出資についてより具体的にご理解いただけるよう、アグリ社出資先の事例をご紹介します。
今回ご紹介する㈲わなたべ牧場は、島根県の東部に位置する安来市にあり、「皆さんの健康を応援します」をモットーに大自然からの贈り物である乳製品を生産から製造販売まで一貫して手掛ける農業法人です。平成30年で、創業から30年を迎えました。しかし、当社がここまでくる道のりは試行錯誤の連続でした。
有限会社 わたなべ牧場 設立:1960年 創業 1995年 法人化 代表者:代表取締役社長 渡邊 太郎 所在地:島根県 安来市伯太町日次463 事業内容:畜産、乳製品加工・販売 出資年月:2017年7月 出資金額:2,800千円 |
【獣医から社長に転身、社長自ら毎朝牛の世話を行う】
突然の転身、獣医から社長へ
わたなべ牧場は、1960年に、現社長の父親が安来市で酪農を開始し、1988年に、乳製品の加工事業に参入、その後、新しい加工場等を建設し事業を拡大してきました。しかし、1998年、経営状況がおもわしくなくなり、当時の金融機関や関係者の方たちから、大学卒業後NOSAI島根(島根県農業共済組合)で獣医として家畜診療所で勤務していた長男の太郎氏のもとに、当社の従業員として戻ってきて社長を支えて欲しいとの話が持ち込まれます。
― 大学卒業後獣医をされていたとお聞きしていますが、社長就任のきっかけはなんですか
渡邊社長)一時期、経営がうまくいかない時代があり、周囲の人たちから社長を支えるために戻ってきて欲しいとの話がありました。皆様に迷惑をかけたくない、会社を何とかしなければならないと考え、当社で働くこととしました。その約1年後の1999年4月に社長に就任しました。就任直後は、売上が思うように伸びず、大変な時期もありました。当時、JAしまねと農林漁業金融公庫(現日本政策金融公庫)の2つの金融機関からお世話になっており、両者から指導を仰ぎながら経営改善を進めてきました。加えて保証人となってくれた親戚からも助言をもらい、まだ再建途中ではありますが、安定した経営に向けて進んでおります。これまでの周囲の方々からのサポートについては非常に感謝しております。
【カラメル外付容器がかわいいプリン、親しみやすいイラストが付いたヨーグルト】
おいしくて、安全・安心な商品を消費者に届けたい
わたなべ牧場が販売する商品には、①生産から製造販売まで一貫体制、②消費者の健康を考え化学合成物を極力使用しない、③材料の牛乳は比較的低温で長い時間殺菌することで生乳のおいしさを残すなど、強いこだわりがあります。これが、安全・安心・健康を志向する消費者に受け入れられ着実に売り上げを伸ばしています。主力商品である、プリンとヨーグルトについてお話を伺いました。
― 販売されているプリンは、甘さもほどよく、またカラメルが外付けのかわいい小さな容器に入っていて、食べる時カラメルの量を自分で調整できるので、楽しいですね。
渡邊社長)当社のプリンは、元々会長(前社長)が構想としては持っていたのですが、地元の主婦の方にご提案いただいたことがきっかけでした。おいしい卵とおいしい牛乳を原料にして、お母さんが自分の子供に作るようなプリンを作ろうと、レシピの構想や商品開発は地元の農協の方にお世話になりました。作り方は現在でも当初のものから変わっていません。カラメルも安全にこだわり、三温糖を煮詰めて作っています。プリンは、平成3年から作っていますが、その当時はプリンの下にカラメルを入れていました。これが非常に手間のかかる作業で、何か良い案が無いか思案していました。その時に、たまたま地元の社会福祉法人の方が訪ねてこられ、そこに外付のカラメルの容器の製造をお願いたところ、考えていた通りの商品をつくることができました。
― ヨーグルトも、甘さが強くなく、適度の酸味と牛乳のおいしさが残っていますね。
渡邊社長)比較的低温での殺菌を行った搾りたての牛乳に、ブルガリア菌とサーモフィルス菌の2種類を使い、40℃で4時間かけて発酵させました。牛乳の栄養と風味を損なわないようにしています。プリン同様に安全安心、お母さんが自分の子供に作るようなコンセプトで作っているので、今回JAからの紹介で、地元の学校給食へ納入させていただくことになりました。
アグリ社の育成事業の一つである育成事業の利用
コラムの第1回で、農業法人投資育成制度では、投資育成会社等は、投資だけではなく、投資後、農業法人に対し、経営又は技術に関する助言を行う育成事業を行うことが法律のなかで定められているということを説明しました。今回、渡邊社長より、商品のマーケティングについてアグリ社に相談があり、アグリ社の契約コンサルタントによる助言をさせていただきました。
― 当社は投資育成会社なので、投資だけではなく、育成事業による支援もさせていただいています。今回マーケティングのコンサルタントを派遣させていただきました。
渡邊社長)アグリ社のコンサルタントの方に、現在抱える悩みを相談できました。具体的には、商品の仕様書の書き方など実務的な指導もいただき、販売先の拡大につながりました。出資に加えて、困った時に専門の方の指導が受けられる投資育成制度により、経営の改善につなげることができました。
― 今後どのような分野で育成事業からの支援を期待しますか
渡邊社長)2018年6月に食品衛生法等の一部を改正する法律が公布され、今後、HACCPに沿った衛生管理が必要になります。すでにお世話になっている先生はいますが、2020年に向けて県版のHACCP認定のために、関連する情報等を提供いただければと思います。
アグリ社からの出資について
アグリ社からの出資を受けるきっかけと、その時にネックとなったことについてお伺いしました。
― ファンドを受けるきっかけについて教えてください。
渡邊社長)JAしまねから農業法人投資育成制度の利用についてお話しをいだだき、アグリシードファンドの候補先として推薦をいただきました。とてもありがたいことと思い、出資を受けることについて検討してみようと思いました。
― 出資を受けるにあたり、ネックになったことはありますか。
社長)アグリ社からの説明を受ける前は、配当の額、投資期間終了後のこと、そしてアグリ社が株主になるので議決権のことなどが心配でした。アグリ社からの説明を聞き、配当は予想していたほど高くないこと、10年後の買戻しのこと、そして議決権のない無議決権株式による出資であることがわかり、出資を受けることにしました。金融機関、商工会の皆さん、関係者の方々もファンドの内容を理解してくれて、ファンドでの資金調達について支持をしてくれました。必要なタイミングで、長期の安定した資金を調達することでき、大変感謝をしております。
【安全・安心へ思いで商品を消費者へ届ける社長と奥様(常務)】
当面の経営方針と将来の夢
今後の経営方針についてお伺いしました。
渡邊社長)当面の5年間は、今の売上を落とすことなく、少しずつでも売上を増やしていくようにしていきたいです。そのためには、古い機械の入替え投資などを着実に行い、今後安定生産できる体制を整備していきたいと考えています。
― 将来の夢について教えてください。
渡邊社長)現在、商品に使う牛乳は自社生産し、加工に不足する分を安来市内の信頼できる酪農家から分けてもらっています。しかし、安来市の酪農家数が減少してきており、信頼できる原料を安定して確保するために、自社の生産体制の強化が大切だと思っています。生産現場を任せている父親は5年後には80歳を超えます。原料の確保のために、生産現場の担当者を増やし、乳牛を増頭すると供に、観光協会と協力し、消費者が当地に来て、牛と触れ合いながら当社の製品を楽しんでいだだけるような施設を建設できたら良いと思っています。
当社を訪れると、当社製品について熱烈なファンからのメッセージを集めた分厚いファイルを見ることができます。これを読むと、渡邊社長が一貫してこだわってきた、「安全・安心を届けたい」という姿勢が、消費者から高く評価されていることがわかります。わたなべ牧場のプリン・ヨーグルトはコンビニのナチュラルローソンやスーパーの成城石井等で購入できます。食べていただければ、社長の思いが伝わることと思います。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
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