前回の記事では、オランダの施設栽培について、グリーンハウスのサイズ感、スケジュール、環境制御、水管理など、詳しく紹介させていただきました。私の研修先の事例をお伝えしていますが、オランダの施設栽培は基本、このような土台の上に、個々の農家さんが経営をやっているといったイメージです。この記事では、天敵昆虫、受粉、二酸化炭素、肥料などについて紹介させていただけたらと思います。
制限が厳しい農薬事情
農薬の使用についてですが、EU では使用できる農薬と量が厳しく制限されています。まず、害虫の被害が出たときは、できるだけその被害に対応する天敵昆虫を使うようにしています。年によってどんな被害が出るかは全く異なるので、その度に迅速な対応をしなければなりません。定植した苗に天敵昆虫が入った袋を用意することで、事前に予防するようにしています 。
被害を見つけたら、すぐそれに対応する天敵昆虫を対処します。ベルギーのBiobest社から天敵昆虫を注文しています。被害が少ないうちは、天敵昆虫でなんとか防げるのですが、どうしても被害が治らない時だけ、農薬を使用します。5 年ほど前に、この農場で、無農薬で栽培することに挑戦してみたそうですが、あまり収量をあげられなかったので、今は全く使わないことを諦め、最小限に農薬を使うようにしています。大規模ゆえに、まずはしっかりと安定して生産することが大切で、それでもできるだけ農薬を使わないような努力をしているようです。
マルハナバチ
着果する確率を上げるために、最初の10 週間ほどは、マルハナバチを利用しています。ナスは雄しべと雌しべが1つの花にあり自家受粉するのですが、冬は日射量が少なく、光合成がうまく働かないため、花の生育もあまりよくありません。そのため、マルハナバチを利用し、より受粉する確率をあげます。冬が明けて花の生育がよくなると、勝手に受粉します。マルハナバチの数としては、およそ1㎡当たりに1 匹使用しています。
二酸化炭素
二酸化炭素濃度は、光合成を促進するために非常に大切な要素です。理想的な濃度は、900~1000 ppm です。ただ、夏場はハウス内の気温が高くなり、どうしても天井を開けることで温度を調節するので、ハウス内の二酸化炭素濃度は、500~600 ppmほどになります。この二酸化炭素は、天然ガスを燃やすことにより発生したものを利用します。その際に発生した熱も利用し、電気は売ります。
ちなみに、この天然ガスは値段が毎日違うので、いつ買うのか、がとても重要なポイントで、毎年値段は上がり続けていて、2022 年の分まで既に購入しているようです。さらに、2030 年にはオランダの天然ガスが使用できなくなるので、このエネルギーについても今後しっかりと対策も考えなければならないようです。
話を戻すと、ここで得られる二酸化炭素には、NOxやエチレンが含まれます。そのため、自分たちで作る二酸化炭素とは別に、純粋な二酸化炭素を使用しています。この不純物が入っていない二酸化炭素は、ハウスを閉じた際に使用します。二酸化炭素濃度を高く保つために、できるだけハウスを閉めて高い二酸化酸素濃度を保つことが、光合成を促進し、収量を上げるために重要なことになってきます。
肥料
次は、肥料の説明をしていきます。肥料は、生長に必要な栄養分が元素ごとに管理され、それらを混ぜ合わせたA とB という大きな2つのタンクに 保存されています。このように2つに分けている理由は、ここで作られているものが非常に高濃度で、化学反応を起こすためです。肥料は液体と個体の両タイプが存在します。液体は利用が簡単な面、個体は微妙な調節がしやすい点や間違いが起こりにくい点があります。高濃度の各元素は水を与える時に自動的に薄められて一緒に送られていきます。2 週間に一度、古い葉と新しい葉と排水の情報を、専門の業者に送り、解析してもらい、生長度合いを吟味しながら、必要な肥料の量を調合します。
ロックウール栽培
ここで栽培されるナスは養液栽培で、ロックウールが使用されています。他に泥炭やココナツなどがありますが、ロックルールは通気性・保水力が大きいので、高い収量を見込めるのが特徴です。 ロックウールは無機質からできているため、廃棄の仕方は大変ですが、私の農場では業者によって、リサイクルされて、毎年違うものを使用しています。
Crazy Roots との戦い
他に、オランダのハウスで毎年、生産者を悩ませているのは「クレイジールーツ」という根が異常に肥大してしまう現象です。これは、the bacterium Rhizobiumrhizogenes という細菌が原因で起きます。EU 圏内で1985 年ぐらいから観測されていますが、(オランダでは2002 年)どこからこれが発生したかなど詳しいことはわかっていません。クレイジールーツによって、根がとてつもなく肥大することで、水分が十分に行き渡らなくなり、生長障害などを引き起こします。完全には対処法がなく、清潔な状態を保つことが最も有効な手段です。
新たな品種で市場開拓を狙う
ハウス内で栽培されているナスの大部分は同じ品種ですが、他にもwhite、grafitti、nasu、konasu、purpura などを実験的に作っています。これらの品種はオランダでは他に作っている会社がほとんどないため、1キロ11ユーロのもの(通常約1ユーロ)もあるなど、非常に高値で取引されます。ただ、white やpurpura など大量に破棄するものが出てくることや栽培効率などを考慮しながら、新しいことに常にチャレンジしているようです。
まとめ
以上、オランダの施設栽培の実際の現場について紹介させていただきました。
レポートさせていただいたように、オランダの施設栽培は、様々な分野の知識が融合して成り立っています。競争が激しいオランダの農業で生き残っていくためには、植物のこと、機械のこと、マーケットのことなど様々な知識と現場での経験が必要なようです。現場にいて気づくことは、オランダの農家はよく他者と関わり、周りの情報を知っていること、定期的に勉強会を行いよく情報を仕入れていること。常に動いて変化していることだと思います。気候的な違いや国の違いがあるので、オランダの農業をそのまま日本に取り入れることは難しいと思いますが、オランダの農家の姿勢は、すぐにでも真似できるのではないでしょうか?
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
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