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1.農業就業者と農地の状況
(1) 農業就業者の減少、高齢化
農業人口(農業就業人口)※は、2016年に200万人を割り(192.2万人)、2018年は175.3万人、直近の2019年は168.1万人とさらに減少をみています。
農業就業人口のうち基幹的農業従事者(主に仕事として農業に従事している者)数も減少傾向が続いており、2020年は136万3千人(2021年130万2千人)と2015年の175万7千人と比べ22%減少しました。2020年の基幹的農業従事者数のうち65歳以上が全体の70%を占める一方、49歳以下の若年層の割合は11%となっています。こうした中、2015年以降49歳以下の新規就農者数は約2万人のペースで維持しています。
※ 「農業就業人口」は、2020年の農林業センサスでは調査対象となっていない。
(2) 農地・耕作放棄地の状況
① 農地面積の減少
2021年における我が国の農地面積は435万haで、ピーク時(1961年)の608.6万haから58年間で169万ha減少しました。農地面積の減少要因は、非農業用用途(宅地等、工場用地、道路鉄道用地等)への転用と耕作放棄(荒廃農地)が大部分を占めてきましたが、2013年以降は耕作放棄(荒廃農地)が最大の要因となっています。
② 荒廃農地の発生
荒廃農地(客観ベース)※の面積は、2020年には28万42千ha、耕作放棄地(主観ベース)の面積は、同年には42万3千haです。また、荒廃農地面積のうち再生利用可能なものが9万ha(32%)、再生利用が困難と見込まれるものが19万2千ha(68.0%)です。
荒廃農地の発生原因(所有者)としては、「高齢化・労働力不足」が最も多く、次いで「土地持ち非農家の増加」が多くなっています。今後、農業者の高齢化の進展、土地持ち非農家の増加等から耕作放棄が一層、増大するおそれがあります。
※ 「荒廃農地」は、調査員が状態を見て判断(客観ベース)し、「耕作放棄地」は農家等の意思で判断します(主観ベース)。このため、荒廃農地でなくても、農家等が耕作する意思がない場合は、耕作放棄地にカウントされます。
(3) 農地の流動化、担い手への集積の状況
① 農地流動化面積の推移
農地の流動化面積(売買と貸借による農地等の権利移動面積)は、2000年以降年間20万haから25万haと着実に推移してきましたが、2014年に発足した農地中間管理機構(以下「農地バンク」という。)✳の活動の本格化に伴い、2015年は約35万haと大きく増加し、2016年もその水準で推移しました。
農地流動化面積について売買と貸借の構成比を見ると、2016年には貸借の割合が約90%を占めるなど借地が農地の流動化が太宗となっています。
借入れが経営面積全体に占める割合は、2005年が22.3%、2010年が29.3%、2015年が33.7%と高まっています。
農地の貸借の多くはこれまでは経営基盤強化法に基づく市町村が定める農用地利用集積計画による利用権設定によるものでしたが、最近は農地バンクによる賃借権の設定も増加してきています。なお、農地バンクの取扱面積(転貸面積)は2020年度末時点で前年度に比べて4万2千ha増加し、29万5千haとなっています。
✳ 農地中間管理事業法(2013年)に基づき2014年に発足した各都道府県の農地バンクは、地域内に分散・錯圃する農地を借り受け、必要に応じて条件整備等を行い、再配分して担い手への集約化を実現する農地中間管理事業を実施しています。
② 担い手への農地利用集積面積割合の推移
担い手(認定農業者、集落営農等の担い手等)への農地利用集積面積は、農地バンクが発足した2014年度以降年々増加しており、2020年度時点で254万haとなっています。2020年度末の担い手への農地集積率は、58.0%です。
担い手への集積率を地域別に見ると、北海道、東北、北陸地方では高い一方、大都市を抱える地域(関東、東海、近畿)や中山間地域の占める割合が多い近畿、四国、中国地方では低い傾向にあります。
担い手への農地集積率について、農林水産省は2023年度までに8割にするという政策目標を設定しており、農地バンクによる農地の集積・集約化を加速させる必要があります。
③ 農業経営の規模拡大
農地流動化の進展に伴い、農業経営の規模拡大も進んでいます。1農業経営体当たりの経営耕地面積は2020年に3.1haとなり、2015年の2.5haから20.4%増加(2005年の1.9haから1.63倍に拡大)しています。地域別に見ると、北海道は26.5haから30.2ha(13.9%)増加、都府県は1.8ha〜2.2ha(13.9%)の増加となっています。
(4) 農地の分散化の状況
担い手の規模拡大は進んでいる一方で、その経営農地は分散(圃場が小さい、遠い)している状況にあります。
担い手(229経営体)に対する農水省調査(2013年度)によると、平均経営面積約18haが約32団地に分かれ、1団地の平均面積は60aと小さく、最も離れている農地間の距離は4.3kmの状況にあります。T県N市の認定農業者の事例(水稲専作)の事例によると、経営面積16.4haが、70箇所に分散(1か所当たり平均23a)、最も離れている農地間の直線距離は5kmとなっています。
圃場の分散・錯圃の解消の遅れは、規模拡大によるメリット発揮の支障となっており、この分散・錯圃の解消が依然として、大きな課題となっています。
2.農地の見通しと確保、農業構造の展望
以上「農地の現状」を説明しましたが、農地の見通しと確保、農業構造の展望(望ましい農業構造の姿)等が、2020年の「新たな食料・農業・農村基本計画」の策定時に併せて策定されました。その概要は次のとおりです。
(1) 農地の見通しと確保
2030年における農地面積の見込みは、これまでの趨勢が今後も継続した場合、2019年の農地面積439.7万haから、農地転用により16万ha、荒廃農地の発生により32万ha減少し、392万haと推計されています。これに荒廃農地の発生防止や荒廃農地の解消の施策効果(+22万ha)を織り込んだ結果、2030年時点で確保される農地面積は414万haと見通されます。
農地の見通しと確保のためには、①農地制度の適切な運用を図るほか、②地域における積極的な話合いを通じ、(ア)リタイアを考えている高齢者の農地を農地バンクの活用による担い手への農地の集積・集約化、(イ)農業委員会による所有者等への利用の働きかけの促進、(ウ)多面的機能支払交付金や中山間地域等直接支払交付金の活用、(エ)農地の粗放的な利用(放牧等)等により荒廃農地の発生を抑制するとともに、③農業者等による再生利用取組支援の実施、関係施策との連携(農地条件整備)などにより荒廃農地の再生・解消を進めることが重要とされています。このほか、農地の集積・集約化の支障や農地荒廃化の一因となっている所有者不明農地については、その利活用を図るための関係施策の効果的活用が期待されています。
(2)望ましい農業構造の姿
育成すべき担い手の姿としては、家族・法人の別等経営形態にかかわらず、効率的かつ安定的な農業経営になっている経営体及びそれを目指している経営体の両者をあわせて「担い手」としており、具体的には「認定農業者」、「認定新規就農者」、「集落営農(任意組織)」としています。
望ましい農業構造の姿としては、前述のとおり、農地バンクの発足以降、担い手への農地の集積率が約6割まで上昇している中、基本法第21条を踏まえ、全農地面積の8割が担い手によって利用される農業構造の確立を目指すこととしています。
担い手への農地の集積・集約化を進める観点から、農業者の話し合いを基に、地域農業における中心経営体、地域における農業の将来のあり方等を明確化する「人・農地プランの」推進が2012年度から図られてきましたが、2019年度から「人・農地プラン」の「実質化の取組」が推進されてきております(この実質化の取組は、2020年度末時点で、全国2万2千地域で行われている。)。この実質化に際しては、5年後から10年後の農地利用についてアンケート調査を行い、農業者の年齢や後継者の有無等を地図により「見える化」し、中心経営体への農地の集約化に関する将来方針を作成することが重要とされています。担い手への農地集積率80%の目標達成に向けては、この実質化された人・農地プランを「核」に、担い手への農地の集積・集約を一層加速化させていくことが期待されています。この場合、地域条件は多様のため、地域の状況、地域の創意工夫に応じた取組を図ることが重要です。※
なお、後述するように「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律(以下「改正基盤強化法等」が令和4年5月に成立しました。改正基盤強化法等の経過期間経過後は、農地の集約化等は、「人・農地プラン」の「実質化」の取組の推進から、「地域計画」(人・農地プランの法定化)に基づき、それを実現すべく、推進されることとなっています。※
※ 基盤法等の改正法の成立(令和4年5月)―人・農地プランから地域計画へ―
1 背景
農業者の減少が加速化し、地域の農地が適切に利用されなくなることが懸念される中、分散錯圃の状況を解消し、各地域において農地が利用されやすくなるよう、農地の集約化等に向けた取組を加速化することが、喫緊の課題となっています。この状況に対処するため、農業経営基盤強化促進法等の改正法が令和4年(2022年)5月に成立ししました。
2 改正基盤強化法等の概要
(1)地域計画の策定(人・農地プランの法定化)
① 市町村は、関係者による協議の場を設け、将来の農業や農地利用の姿について地域での話合いを実施
② 人・農地プランを法定化し、市町村は、地域での話合いにより、地域の将来の農業の在り方、目指すべき将来の農地利用の姿を明確化する地域計画((目標とする農地利用の姿を示した地図を含む)を定め・公告する。その際、農業委員会は、農地バンク等と協力して目標とする地図の素案を作成 ※
※ 地域計画は、施行期日(令和5年4月1日予定)から2年を経過するまでの間(令和7年3月31日まで)に策定
(2) 農地の集約化等
地域計画の達成に向け、地域内外からの農地の受け手を幅広く確保しつつ、農地バンクを活用した農地の集約化等を推進(現行の市町村の「農用地利用集積計画」は、農地バンクが作成する農用地利用集積等促進計画に統合される)
3 施行期日
今後、施行期日政令で定められるが、令和5年4月1日の予定
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。