更新日
1.販路の考え方
リスク分散手法の一つにポートフォリオという考え方があります。市場出荷のみ、あるいは契約栽培先が1社のみというのは、実はリスクが非常に高い経営になってしまいます。(例えば、市場価格が大幅に下落したら?例えば、1社で売上の大半を占める契約販売先が倒産したら?)
基本的に複数の販路を組み合わせて持つことが強い経営につながります。大口顧客であっても、1社あたりの売上構成比は10%以下にする、といったルールを設けている生産者も存在します。同じ100の売上であっても、50の売上先が2社ある経営よりも、10の売上先を10社持っている経営の方が強いのです。
また、取引先は、時間がたつと自然と減少していくものです。それは取引先の人事異動で担当者が変わったら契約が終了してしまったり、価格交渉を断ったら別の生産者と契約してしまったり、いろいろな理由がありますが、どのような業界であっても既存取引先は一定の割合で減少していくものです。
そのため、毎年、一定の件数の販路の新規開拓を考える必要があります。つまり、毎年、契約先のうち数社は離脱してしまうが、その数社を新規で開拓している、という状況を作れることが理想です。
2.販路拡大に向けて抑えておくべき流通の基本
販路拡大を考える上では、流通を構成する3つの流れを理解しておくことが重要です。3つの流れを理解することで、商談で相手に何を確認するべきか理解することができます。
流通は、基本的に商流(カネの流れ)、物流(モノの流れ)、情報流(情報の流れ)の3つの流れによって構成されます。これは、青果と加工品で異なるだけではなく、取引先によっても、取引先との取引内容によっても異なるものであり、商談の中で把握しなければなりません。
例えば、上記を理解していないと、商談会で出会ったバイヤーに「●●円で納入できます(物流費を入れない原価)」と言って良い感じの商談になったが、最後に「ここの卸経由で見積ちょうだい」と言われ、卸の手数料と物流費込みの見積を提出した結果、「価格が合わない」と言われて取引に繋がらない、といったことが発生します。
そのため、商談においては商流と物流の把握と理解が重要です。なお、情報流は昨今においてはインターネットの発展等により、あまり問題にはなりません。
商流で確認するべき内容としては、直接取引なのか、それとも商社や卸売業が間に入るのか、その場合の手数料はいくらか、といった点が重要です。
物流で確認するべき内容としては、商品をその店に直送すればOKなのか、送料は誰が持つのか、複数店舗への納品の場合、センターにおさめるのか、店舗におさめるのか、などが重要です。
3.加工食品・6次化商品の流通経路に注意
基本的に生鮮食品と加工食品では、商流と物流が大きく異なることが多く、注意が必要です。
加工食品の量販チェーンにおける流通形態は、市場を経由する生鮮食品の流通形態と異なり、中間流通として卸売業が入ることが一般的です。卸売業が間に入り、帳合を取ることで、小売業は商流(カネの流れ)と物流(モノの流れ)を一本化しています(下表)。
● 加工食品の流通形態
そのため、加工食品においては、卸売業との連携が不可避です。量販チェーン(特に食品スーパー)の場合、卸売業を経由した取引でないと商流・物流が確保できません。新たに個別のメーカーと口座開設を実施する小売業はほとんどありません。
商品の納入価格について、最終的に小売業のバイヤーは、卸売業の営業担当と価格交渉を行います。そのため、メーカー(生産者)は卸売業と事前に納入価格や卸売業の手数料について打ち合わせをしておく必要があります。
4.小売バイヤー等の現在の考え
量販チェーンや百貨店など、小売業は加工品であれ、生鮮品であれ、主に自社でしか取り扱っていない商品の品ぞろえによる競合差別化を目指しています。
大手食品メーカーブランド商品は、どの小売業でも販売しており、価格競争に陥りやすくなります。そのため、小売業のバイヤーは、他店で販売していない商品をラインナップすることによって、価格以外で競争することを志向しています。
一方、小売業のバイヤーは多忙であるため、地域商品を時間とコストをかけて自ら発掘するのは困難です。そのため、商品発掘は展示会や卸売業からの紹介がメインとなります。
したがって、販路拡大に向けて、展示会や商談会への積極的な出展、そこで知り合ったバイヤーに対する商流と物流を意識した着実な提案、既存取引先の卸売業との連携など、地道な活動が重要です。
当該コンテンツは、公益財団法人 流通経済研究所 農業・地域振興研究開発室 折笠室長の分析に基づき作成されています。