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1.GAP推進の背景
GAP推進の背景には、流通のグローバル化、世界規模での食糧不足、環境破壊の進行があります。さらに先進国においては、消費者ニーズの多様化、高品質商品ニーズの高まりも見られ、世界規模で「食の安全・安心」、「持続的な社会づくり」が求められる時代になりつつあることが、GAP推進の理由になっています。
また、完成品として見える価値だけではなく、見えない価値を評価する動きもあり、農業生産という一連の活動において、見えない価値を生み出す(確保する)ための仕組みづくりがGAPであるともいえます。
見える価値:機能、賞味期限、デザイン、価格など
見えない価値:製造工程、労働安全、環境対応など
2.GAPとは?
Good Agricultural Practiceの略称であり、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組みを指します。つまり、農業の持続可能性を確保するための取り組みそのものを行うことを「GAPをする」、「GAPに取り組む」と言います。
その取り組みについて、第三者から「実施しているね」とお墨付きをもらうことを「GAP認証を取得する」と言います。つまりGAP認証は、第三者機関の審査によって、GAPが正しく実施されていることが確認された証明であり、GAP認証はISO認証やHACCPと同様の認証であるといえます。
ASIA GAP/J GAP
一般財団法人日本GAP協会が策定した日本発のGAP認証。J GAP Advance/J GAP Basicから、ASIA GAP/J GAPに改名、運用を開始。
GLOBAL G.A.P
ドイツのFood PLUS GmbHが策定したGAP認証であり、主に欧州で普及。青果物に関してGFSI承認(※)を受けています。
※ GFSIとはグローバル・フード・セーフティ・イニシアチブの略称であり、世界中の小売業やメーカー、フードサービス業まで幅広い食に関わる事業者が業種を超えて集まり、協働して食の安全に取り組む組織です。
その他のGAP
オリンピック、パラリンピック対応に向けた農水省ガイドライン準拠GAPや、都道府県確認GAP(県GAP)も存在します。
3.GAPに取り組むべきか?
もちろん、取り組んで「悪い」ものでは無いので、積極的に取り組みたいところです。
取り組むにあたり、社内の管理工数等はかかりますが、経営面でも改善が求められる「生産工程の管理」に関する項目が、GAP認証の基準の中心になっているため、生産工程の見直しに合わせて実施することが有効です。
また、ライバルとの差別化の視点からも、取り組みは優位に働くと言えます。国内市場において、バイヤーと商談する際にも、GAPを実施し、認証も取得していることをアピールすれば、差別化につながる可能性があります。
一方で、輸出を目指す場合には必須のケースもあります。アジアにも多く出店している欧米の小売業等では、GLOBAL .G.A.Pを調達(仕入れ)の条件に挙げているところが多く、他国においても欧米の基準がベースとなることが多いため、輸出に取り組む場合には、GAP認証は必須レベルといえます。
加えて、経営管理のレベルアップを目指して、GAPに取り組むことも重要です。GAPに取り組み、認証を取得することは、農業の生産管理がしっかりできている証明でもあります。GAPへの取り組み、認証取得を通じて自社のレベルアップをはかったり、労働環境等を把握することで、人材の確保につなげたりすることも可能です。
取り組みを通じて、業務効率化等が実現すれば、収益アップにもつながります。なお、ASIA GAPであれば、10万円〜のコストで取得可能です。
4.GAPに取り組むと高く売れるか?
これについては、答えはNoであると言えます。
GAP取り組んだからと言って、商品が変わらない以上、生産物が高く売れることはあり得ません。
しかし、前述のようにGAPに取り組むことで取引先が増える、業務効率化が図れる、優秀な人材を確保できる、といった効果が見込めるため、結果的に収益向上につながる可能性は高いと言えます。
5.目的に合わせたGAP認証を取得する
先述の通り、GAP認証には、自治体等で認定・確認を行う通称「県GAP」から、日本GAP協会が認証するJGAP、ASIAGAP、EUで生まれ、世界120ヵ国以上で使われているGLOBALG.A.Pまで様々な種類があります。
GAPに取り組んで行く上で、どの認証を目指すべきでしょうか?その答えは、目的にあります。
GAPは農業の食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性の確保に向けた取り組みであり、これからの農業に必要なものです。これらは第三者認証を受けなくても実施できるものであり、自身で取り組むだけであれば、特に認証の取得は必要ないかもしれません。
ただ、しっかりと自身が取り組めているのか、客観的に確認したいのであれば、まずは自治体などで進めている県GAPの取得などを目指してみると良いでしょう。
また、会社のWEBサイトなどにGAP取得を掲載し、採用活動や販路拡大に利用したい場合は、JGAPやASIAGAPの取得を目指すべきであると言えます。
そして輸出に取り組みたい、大手外資系企業との取引を目指したいと考えるのであれば、GLOBALG.A.Pに取り組むことが理想です。
このように自身の目指す販路や経営に合わせて、GAP認証取得を考えていくことが重要です。
6.GAPの進め方&認証の取得に向けて
GAPの実施あたっては、基本情報が農水省のウェブサイトに良くまとまっています。農水省のTRY GAPのWEBサイトをまずはチェックしてみましょう。
また、農水省では、オンライン講座として「これから始めるGAP」といコンテンツも用意しています。こちらも合わせてチェックしてみましょう。
実際にGAP認証を取得するにあたっては、GAPに関する業界団体などが研修会や講座を開催しているので、そこに参加することが近道であると言えます。
J GAPや、ASIA GAPの認証を行っている日本GAP協会でも講座を行っています。(http://jgap.jp/)
加えて、日本生産者GAP協会でも様々な研修会が開催されています。(https://www.fagap.or.jp/)
なお、グローバルGAPについてはGAP普及推進機構(G.GAP協議会)の情報を確認しておきましょう。(https://www.ggap.jp/)
当該コンテンツは、公益財団法人 流通経済研究所 農業・地域振興研究開発室 折笠室長の分析に基づき作成されています。