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1.実需者は何を求めているか?
実需者のニーズは業種や業態によって大きく異なります。そのため、同じ品目を求める場合でも、そこに要求される品質は異なることが一般的です。
例えば、ほうれんそうの場合、小売業のバイヤーは全長25cm前後のサイズを求めます。これは店舗で棚に並べるためにちょうど良いサイズだからです。その一方、冷凍加工業者の場合は、同じほうれんそうでも、加工工程における歩留まりを考え、30cm以上の大きいサイズを求めます。
これは、一般小売向けでは規格外となってしまうサイズが、加工業務用では望まれる一例です。
顧客のニーズを満たすことができれば、その商品はその顧客にとって「品質が良い」ということになります。顧客のニーズが異なれば、求められる品質が異なるのです。
2.ニーズに対応した品質を考える
品質は、商品そのものだけではなく、顧客に商品を納めるまでの全てのプロセスの中で考える必要があります。そのため、商品だけではなく、それに付随するサービスまで含めた品質を考えなければなりません。以下に考えるべき品質をあげます。
味・見た目・サイズ・栽培方法など
通常、品質といって想像するものが、食味、見た目、サイズ、栽培方法等です。食味が良く、見た目が綺麗なものは高品質であるのは当然ですが、見た目はともかく食味については用途や品種などで「良い」の定義が変わるため注意が必要です。
例えば、イチゴを考えた場合、東南アジアへの輸出用では糖度が高く、酸味が低いものが求められますが、ケーキ店などでは甘いケーキに使うため、酸味を求められます。酸味が悪いとされるマーケットと良いとされるマーケットの両方が存在しているのです。サイズも同様で、顧客のニーズに合わせて求められるサイズが異なります。
栽培方法については、有機栽培や自治体で規定されている特別栽培などに取り組むことは品質向上につながるものではありますが、どうしても慣行栽培よりも収量が落ちてしまいます。そのため、業務加工用などで求められる価格と量のバランスといったニーズには対応が難しくなる点に注意が必要です。
出荷可能数量
マーケット全体で商品が不足しているときに、潤沢に商品を出荷できるだけの量を持っているということは、顧客にとってあなたとの取引は品質が高いということになります。もっと言えば、後述するリードタイムも含めて、安定的に出てくる商品は品質が高い、ということになります。
どれほど商品自体が良いものであっても、いつ、どれくらいの量が出てくるか分からない商品は、販売しにくいため、顧客からすれば「品質が良い」とはならないのです。あくまで、品質とは「商品からそのデリバリーまでを含む取引全体」で考える必要があります。
出荷可能時期・リードタイム
他の産地で出せない時期に商品が出せる、あるいは注文したのちにすぐに納品してもらえる(リードタイムが短い)といった時間的な要素も品質として評価されます。
例えば、朝採り野菜をランチ営業に合わせて昼前には納入できます、といったアプローチは顧客である飲食店にとってみれば高品質なサービスであり、そこで得られる野菜は鮮度という意味で品質の高いものになります。
安定出荷には、量だけではなく時間も関わってくるということを常に考えておきましょう。
付加サービス・情報提供
皆さんの商品を購入するバイヤーにとって、商品だけではなく、それに付随するサービスや情報提供も重要な品質となります。
例えば、商品販売時に店頭でPRをしてくれる、商品に関する詳細情報やレシピなどを提供してくれる、といったものもバイヤーにとってみれば生産者との取引を検討するための品質です。
3.まとめ
ここであげた品質はいずれも、「価格」に影響するものであり、かつ「差別化」につながるものです。
価格の評価は、品質に対して行われるものであり、品質に対して価格が安ければコストパフォーマンスが良いと言われます。そして、コストパフォーマンスが良い商品は、他の商品に対して競争優位性を持ちます。つまり、差別化されるのです。
生産者として、しっかりと顧客をターゲティングし、その顧客のニーズに合わせた品質設計を行っていくことが、農業経営には重要となります。
当該コンテンツは、公益財団法人 流通経済研究所 農業・地域振興研究開発室 折笠室長の分析に基づき作成されています。