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1.営農と発電の両立
営農型太陽光発電(いわゆるソーラーシェアリング)とは、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、発電設備の下部で営農を継続しながら、上部空間で発電を行う再生可能エネルギー発電の一類型です。
上部空間の太陽光発電設備(パネル)の設置面積割合等を下部の農作物の生育に必要な日照量が確保できる程度に抑制することにより、営農と発電の両立(太陽光(ソーラー)を農業生産と発電で共有(シェア))することを目的としています。
営農型太陽光発電等の取組の促進について、2020年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画にも位置づけられています。
2. 営農型太陽光発電に係る農地転用許可の取扱等
(1) 農地転用許可の取扱い経過
営農型太陽光発電設備の設置には、支柱の基礎部分について、農地法に基づく一時転用許可を得る必要があります。
平成25年(2013年)3月に通知が発出され、農地転用許可制度に係る取扱いが明確化されました。その後、2015年度末までに許可を行った775件の取組の検証を行ったところ、担い手が営農している場合は営農に支障のあった割合が非常に少なかったこと、荒廃地の再生に貢献していることなどが明らかになりました。
この検証結果を踏まえ、平成30年(2018年)に営農型太陽光発電を促進するための「包括的な促進策」がまとめられました。
包括的な促進策の最大のポイントは従来の農地転用許可の取扱の見直しで、担い手が下部農地で営農する場合や荒廃農地を活用する場合等には転用期間を10年(従来は3年)以内に延長すること等を定める農地転用取扱通知(平成30年通知)が発出されました(平成25年通知は廃止)。
その他促進策として、営農型太陽光発電の留意点・注意点をまとめた点検表の作成、優良事例の紹介、相談窓口体制の整備(各地方農政局)も発表されました。
(2) 営農型太陽光発電設備の取扱いの主な内容(農地転用許可の取扱い、促進策)
① 一時転用許可時のチェック項目
一時転用許可に当たり、農地転用許可権者(都道府県知事等)は、次の視点から、営農の適切な継続が確実か、周辺の営農上支障が生じないか等をチェックします。
□ 下部農地における営農の適切な継続が確実か
営農の適切な継続とは
・営農が行われていること
・生産された農作物の品質に著しい劣化が生じていないこと
・下部の農地の活用状況が次の基準(かっこ書き)を満たしていること
a 荒廃農地の再生利用以外の場合(同年の地域の平均的な単収と比較しておおむね2割以上減収しないこと)
b 荒廃農地を再生利用した場合※(適正かつ効率的に利用されていること。農地の遊休化、捨作りをしないこと。) ※この場合には、「おおむね2割以上減収しないこと」の要件は外れました( 令和3年(2021年)3月31日改正)。
□ 農作物の生育に適した日射量を保つための設計となっているか
□ 支柱は、効率的な農業機械等の利用が可能な高さ(最低地上高2m以上)となっているか
□ 周辺農地の効率的利用(農用地区域は土地改良や規模拡大等の施策)等に支障が生じないか
② 支柱の基礎部分の一時転用許可(転用期間)
支柱の基礎部分について、一時転用許可が必要となります。申請に係る転用期間は、次の場合は10年以内で、それ以外は3年以内です。問題がない場合には再許可が可能です。再許可は、転用期間の営農状況を十分勘案し総合的に判断されます。
一時転用期間が10年以内となるケースは、次のいずれかの場合です。
□ 担い手※が自ら所有する農地又は利用権を有する農地等を利用する場合(担い手が下部農地で営農を行う場合)
※ 担い手とは、効率的かつ安定的な農業経営体、認定農業者、認定新規就農者、法人化を目指す集落営農を言います。
□ 農用地区域内を含め荒廃農地を再生利用する場合
□ 農用地区域外の第2種農地又は第3種農地を利用する場合
③ 営農状況の報告
一時転用許可の条件として、毎年、営農状況(農作物の生育・収量等の状況)を報告することが義務付けられます。農地転用許可権者は、この報告等により農産物生産等に支障が生じていないかをチェックし、著しい支障がある場合には、必要な改善措置、営農発電設備の撤去の指導を行うこととされます。
④ その他の促進策(優良事例の紹介、地方金融機関に対する情報提供、一時転用許可違反の悪質なケースへの対応)
3.営農型太陽光発電の導入状況
① 農地転用許可実績
営農型太陽光発電設備を設置するための農地転用許可の許可(新規)実績は2020年度までに3,474件、872.7haとなっています。各年毎の許可を受けた件数の推移をみると、2017年度を除き、毎年増加傾向で推移しており、2020年度には、過去最高の779件の許可が行われました(表1)。
また、地域別の農地転用許可実績(累計)は、千葉県、静岡県、群馬県が300件を超える一方、取扱いのほとんどない地域もあります(表2参照)。
② 営農型太陽光発電設備の設置者と営農状況
設置者は、主として発電事業を営んでいる発電事業者が設置したものが60%(1,542件)で、農業者が設置したものが40%(1,046件)となっています。2019年度までに転用許可があった営農型太陽光発電設備下部農地の営農者のうち担い手の割合は、全体の23%(605件)でありました。太陽光パネル下部の農地で生産されている農作物は様々ですが、分類別で見ると、野菜等が34%(879件)と最も多く、次いで観賞用作物が30%(786件)、果樹が14%(369件)の順となっています。
なお、前述の2015年度の実態調査によると、下部農地に係る遮光率30%以下の施設は全体の約2割、40%以下では全体の約4割となっています。一方、遮光率70%超は全体の約2割となっています。また、下部農地面積の規模は、3,000㎡以下が全体の約9割、7割弱の施設が1,000㎡以下となっています。
4.営農型太陽光発電に対する国の支援措置等
営農型太陽光発電のモデル的取組支援(農林水産省事業)
本事業は、「営農型太陽光発電の高収益農業の実証事業」※の後続事業です。その内容は、地域循環型エネルギーシステムの構築に向け、①太陽光発電設備下においても収益性を確保可能な作目や栽培体系、地域で最も効果的な設備の設計(遮光率や強度等)や設置場所の検討を支援、②検討の結果、最適化された営農型太陽光発電設備の導入実証を支援(太陽光発電設備(パネル、架台等)等の導入費用1/2以内を補助)するものです。
なお、本事業により設備導入を行った場合は、固定価格買取制度(FIT)との併用は認められません。
※ 「営農型太陽光発電の高収益農業の実証(H30〜R元年度)結果」 (農林水産省事業)
①秋田県秋田市における「えだまめ」の実証概要
(設備概要):発電出力39.6KW、支柱間隔4.2m、施設面積8.5a、遮光率31%、高さ3.4m
(結果概要):
・発電設備下ではやや生育量が不足し、開花期も2日程度遅くなる等生育へ影響があるが、収量、品質は慣行と同等と推定
・機械作業は可能であるが、支柱に注意して作業する必要があり、作業時間が増加
② 静岡県における茶、ブルーベリー、キウイフルーツの実証結果概要
実証結果例:ブルーベリー
(設備概要):発電出力13KW、支柱間隔4m、施設面積2.6a、遮光率36%、さ3m
(結果概要):
・収穫時期が数日程度遅れる傾向があるが、収量、果実品質は慣行と同等定
5.営農型太陽光発電取組の留意点
(1) 無理の無い営農計画の作成
営農型太陽光発電は下部農地での営農の継続が前提となります。良好な営農が継続されない場合、発電設備設置に必要な農地の一時転用許可が取り消されることもあります。
営農計画の作成に当たっては、太陽光パネルの下部でも、必要な収量、品質が見込める作物選定や栽植密度とするなど無難なものとすることが重要です。
今まで未経験の作物等を選定する場合などは、営農技術や販路等に関する専門家などの指導を受けられる体制を整えておくことが大切です。
(2) 適切な発電設備設計
発電設備の設計に当たっては、選定した作物に対して必要な日射量が確保できる適正なパネル配置(遮光率)となっているか確認することが重要です。
一時転用許可申請を受ける際、発電設備の設計が、作物が上手く生長し、収穫できることについて、根拠を含めた説明が求められます。先駆的な取組事例の調査研究や専門家の助言・指導を受けるなどの対応が必要です。
パネル架台の支柱の高さは、農林水産省通知では最低2m以上取ることとしていますが、下部農地で使用する機械の作業性等に関係するため、営農計画と一体的に設計することが望まれます。(前述の「営農型太陽光発電の高収益農業の実証(H30〜R元年度)結果」参照。)
(3) 発電設備の設置位置
その位置等が集団的にまとまりのある農地の真ん中等である場合には、担い手農家への農地集積やほ場整備等による規模拡大等への支障が生じるおそれがあります。
この場合、農地転用許可権者は、担い手への集積、土地改良事業の実施予定等に関し市町村担当部局に確認の上で許否判断を行うこととされています。施設の立地等に関し、地域や市町村に対する理解促進、必要な調整に努めておきましょう。
(4) 主体分離型に係る農地法の許可手続
発電設置者と営農者が異なる場合(主体分離型)には、支柱に係る一時転用許可(5条許可)の他に、下部の農地にその空中を利用するための区分地上権等を設定するための農地法第3条第1項(3条許可)の許可を受けることが必要となります。
この場合、5条許可に係る申請と3条許可に係る申請を同時に行うとともに、下部農地に係る区分地上権等の設定期間を、支柱に係る一時転用期間と同じ期間とすることとされています。
(5) 相談窓口(農林水産省、地方農政局等)の活用
営農型太陽光発電の制度や手続きについては、次の相談窓口をご活用下さい。
農林水産省:大臣官房環境バイオマス政策課 再生可能エネルギー室
地方農政局等:経営・事業支援部 食品企業課等
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。