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剰余金処分案の作成義務
農事組合法人の場合、決算書として「剰余金処分案」の作成が必要です。
2006年5月1日に施行された会社法により、会社においては利益処分案(損失処理案)が廃止され、これに代わって「株主資本等変動計算書」の作成が義務付けられました。
これに対して、農事組合法人の場合には、引き続き剰余金処分案の作成が必要です。
利益準備金
利益準備金とは、利益を源泉とする剰余金のうち、法令によってその計上が義務付けられている準備金です。
株式会社については、会社法により、剰余金の配当をする場合には、剰余金の配当により減少する剰余金の10分の1を利益準備金等として計上しなければならないことになっています。
一方、農事組合法人については、農業協同組合法(農協法)により、定款で定める額に達するまでは、配当の金額に関係なく、毎事業年度の剰余金の10分の1以上を利益準備金として積立てなければならないとされています。
このため、従事分量配当制を採る場合において、利益準備金が定款で定める額に達していないときは、毎事業年度の剰余金の全額を従事分量配当することはできません。
利益準備金の要積立額が多くなるとその分、従事分量配当(損金算入)の対象となる剰余金が減りますので、課税所得が増えます。このため、定款で定める額は、農協法が規定する最低限の「出資総額の2分の1」とする方が税務上は有利になります。
●定款の記載例
(利益準備金)
第○条 この組合は、出資総額の2分の1に達するまで、毎事業年度の剰余金(繰越損失金のある場合は、これを填補した後の残額。第42条第1項において同じ。)の10分の1に相当する金額以上の金額を利益準備金として積み立てるものとする。
定款における利益準備金の要積立額が「出資総額と同額に達するまで」となっている場合には、定款を変更して「出資総額の2分の1に達するまで」と変更することができます。この場合において、農協法により、利益準備金の額は、出資総額の2分の1を下つてはならないとされています。
農事組合法人の定款を変更するには、総会において特別議決、すなわち総組合員の3分の2以上の多数による議決が必要です。総会の議事として「定款の一部変更について」を審議し、議決することになります。
従事分量配当
農事組合法人が、その組合員に対してその者が農事組合法人の事業に従事した程度に応じて分配する配当です。農業の経営により生じた剰余金の分配であり、農業経営の事業(2号事業)に対応する配当です。
協同組合等に該当する農事組合法人が支出する従事分量配当の金額は、配当の計算の対象となった事業年度の損金の額に算入します。
従事分量配当は、その剰余金が農業経営により生じた剰余金から成る部分の分配に限られます。
農事組合法人の従事分量配当は、給料等を支給しない生産組合である協同組合等を共同事業体とみてその組合員である個人の所得税の課税上事業所得又は山林所得として取り扱うこととの関連から協同組合等の所得の金額の計算上損金の額に算入するものです。
このため、固定資産の処分等による「固定資産売却益」や固定資産の滅失等により受け取る保険金による剰余金は、農業経営により生じた剰余金とは言えないため、従事分量配当の対象となりません。
一方、収入保険・農業共済の保険金・共済金(固定資産に係るものを除く)、経営所得安定対策等の交付金は、農業収入に代わるものですので、農業経営により生じた剰余金に含まれます。
農事組合法人定款例の配当の項では「この組合が組合員に対して行う配当は、毎事業年度の剰余金の範囲内において行うものとし」としているため、そのままの表現で定款を定めていることが多いようです。
この場合、当期剰余金を超えて従事分量配当を行ったときは定款に違反することになりますので、望ましくないだけでなく、その分の損金算入が否認されるおそれがあります。
ただし、次のように定款を定めた場合、当期剰余金を超えて従事分量配当を行ったとしても剰余金の範囲内であれば、そのことをもって当期剰余金を超える部分の損金算入が否認されることはありません。
●定款の記載例
(配当)
第○条 この組合が組合員に対して行う配当は、組合員がその事業に従事した程度に応じてする配当及び組合員の出資の額に応じてする配当とする。
2 事業に従事した程度に応じてする配当は、その事業年度において組合員がこの組合の営む事業に従事した日数及びその労務の内容、責任の程度等に応じてこれを行う。
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