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スムーズな事業承継を行うには、経営者が元気なうちに計画的に進めることが鉄則です。
「使用貸借」により親族へ承継する場合
経営者の事業用資産を後継者に無償で貸し付ける方法が「使用貸借」です。固定資産は、使用貸借契約書を作成して、使用貸借(無償貸付)を行います。
税務上、不動産については、登記名義を変更するなど特に贈与したと認められるものを除いて、贈与はなかったものとされます。
動産については、「不動産以外の農業用財産の贈与を留保する旨の申出書」という様式がありますが、国税庁のホームページに公開されておらず、税務署によってこの取扱いが認められない場合があります。
「贈与」により親族へ承継する場合
税制特例を活用しない贈与の場合
経営者から後継者へ財産を贈与する場合、後継者に贈与税の納税義務が生じます。
ただし、後継者が1年間(暦年)に贈与を受けた財産の価額が110万円の非課税枠以下の場合には、贈与税はかかりません。暦年あたり110万円を超える部分には、金額に応じ10%から55%の贈与税が課税されます。
なお、2015年以降、祖父母や父母などの直系尊属から20歳以上の子や孫への贈与について、若干、税率が優遇される特例が設けられていますが、非課税枠の特例はありません。
個人版事業承継税制を活用する場合
個人版事業承継税制は、2028年12月31日までに行われる、特定事業用資産の贈与または相続について、贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。この適用を受けるためには、まず、2024年3月31日までに「個人事業承継計画」を都道府県知事に提出し、確認を受ける必要があります。
個人版事業承継税制は、多額の減価償却資産を有する酪農、牛の繁殖経営、施設園芸、果樹経営などでは、税負担の軽減に寄与すると考えられます。なお、これらの減価償却資産は、青色申告決算書の貸借対照表に計上されている必要がありますのでご注意ください。
一方、棚卸資産は納税猶予の対象とならないため、豚や牛の肥育経営など多額の棚卸資産を保有する事業には、税負担の軽減効果は限定的です。
法人化の可能性がある場合には注意を要します。個人版事業承継税制を適用した後の法人化は、承継から5年を経過した後でなくてはならない、特定事業用資産を現物出資しなくてはならない、などの制限があります。
法人化の計画がある場合には、先に法人化をしてから法人版事業承継税制の適用を受ける方がよいでしょう。
農地等の贈与税・相続税の納税猶予を活用する場合
農地等を贈与または相続により後継者1人に承継する場合に、贈与税・相続税の納税が猶予される制度があります。
農地等の納税猶予を受けている間は、農業経営を継続する必要があり、途中に農地を貸付け(農地中間管理機構への貸付などの特定貸付けを除く)または譲渡をした場合には、納税猶予を受けていた贈与税・相続税を利子税とともに納税する必要が生じます。将来的に、宅地転用等して譲渡する可能性がある場合などには注意です。
なお、過去に経営者が農地を贈与して、後継者などの推定相続人が相続時精算課税の適用を受けている場合には、この特例を受けられません。
相続時精算課税制度を活用する場合
相続時精算課税制度とは、経営者が60歳以上の場合、18歳以上(2022年3月31日以前の贈与は20歳以上)の子または孫の後継者に財産を承継する際に選択できる制度です。
2,500万円の特別控除額を超える部分に20%の贈与税が課税されますが、特別控除額の範囲内の財産であれば贈与税がかからず、経営者の相続のときに、贈与時の価額で相続税額を計算し、相続時精算課税制度による贈与税額を控除して精算します。
2,500万円の特別控除額は複数年にわたって利用できますが、この制度を選択すると同じ贈与者(経営者)から贈与を受ける財産については相続時精算課税制度が適用され、暦年課税は適用できなくなります。
なお、相続時精算課税を選択しても同じ贈与者(経営者)以外の者から贈与を受けた財産については、暦年課税が適用されます。
相続税が生じると見込まれる場合、将来的に評価額が下がる財産(例えば、減価償却資産)について相続時精算課税の適用を受けると不利になることがあります。
売買による承継の場合
売買価格は、「時価」が原則です。親族間の売買取引の場合、第三者と異なり恣意的な価格設定が行われやすいので、時価よりも低い価額での売買による贈与税の問題が生じないよう留意する必要があります。
売買価格が時価であれば、贈与税は課税されませんが、利益が出れば経営者に所得税がかかるだけでなく、経営者が消費税の課税事業者であれば消費税がかかります。この場合、後継者が消費税の課税事業者を選択して譲り受けた資産について仕入税額控除を受けた方が有利になることもあります。
譲渡価格は、「適正な帳簿価額」「相続税評価額」「固定資産税評価額」「市場価格」「精通者意見価格」「再調達価額」「収益還元法などで計算した価額」などを参考にして定めます。
経営継承と農業者年金
農業者年金に加入していれば経営継承をした場合に、「特例付加年金」を受給できます。なお、農業者年金制度には旧制度と新制度があり、旧制度の経営移譲年金では経営移譲に65歳の年齢制限がありました。
特例付加年金の経営継承に年齢制限はありませんが、農地等だけでなく、畜舎や温室などの農業用施設も含めて後継者または第三者へ所有権・使用収益権を移転して農業経営から引退する必要があります。ただし、経営継承した旧経営者が青色事業専従者などの従業者として農業に従事することは可能です。
「相続」により親族へ承継する場合
何も準備をしないまま先代経営者が亡くなった場合は、相続税について、事業承継税制と農地等の納税猶予の適用が考えられます。2つの制度を併用して適用することも可能です。
事業承継税制の適用を受けるためには、亡くなってから8か月以内に都道府県知事へ「円滑化法の認定」の申請を行う必要があります。
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