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親族に後継者がいないため、従業員や新規就農者、近隣の法人などの第三者へ、農業経営を承継するケースも多くなってきています。第三者間の事業用資産の承継が不成立となる一番の原因は、譲渡価格の合意ができないことです。
現経営者側は、これまでしてきた設備投資の苦労に対する思いや、今後の生活費の心配などから、後継者に過大な負担を求めてしまうことがあります。
後継者側は、農業用機械や設備が高価であることへの認識が足りない、購入資金を借入金で調達することができてもそれを背負う覚悟ができない、といったことがあります。
個人事業の第三者承継
個人事業を第三者へ承継する場合は、個々の事業用資産の「譲渡(売却)」によるのが一般的です。
譲渡価格は、「時価」によりますが、第三者間の取引の場合、双方が合意できる譲渡価格が時価と考えられます。譲渡価格は、「適正な帳簿価額」「相続税評価額」「固定資産税評価額」「市場価格」「精通者意見価格」「再調達価額」「収益還元法などで計算した価額」などを参考にして定めます。
土地、建物などの不動産を譲渡した場合には、登記が必要になります。また、農地等を売買する場合には、農業委員会の許可が必要になります。
土地や建物の譲渡益には、分離課税の譲渡所得として所得税・住民税が課税されます。譲渡所得は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を控除して計算します。税制特例がある場合には、特別控除額を控除します。
取得費は、土地、建物の購入代金や購入手数料などの合計額で、建物については、減価償却費相当額を控除します。購入代金などが不明の場合には、譲渡価額の5%相当額を取得費とします。譲渡費用は、売却手数料や売買契約書の印紙代などです。
税率は、譲渡した年の1月1日現在のその土地建物の所有期間によって区分されます。所有期間が5年以下の場合(短期譲渡)は、39.63%(所得税等30.63%・住民税9%)、5年超の場合(長期譲渡)は、20.315%(所得税等15.315%・住民税5%)です。
事業承継への活用が考えられる税制特例には、「農地保有の合理化などのために土地を売った場合の800万円の特別控除」があります。農業委員会のあっせんによる土地の譲渡や、農用地利用集積計画による土地の譲渡が対象となります。特例の要件を満たし、譲渡益が800万円以下であれば、無税で承継することができます。
法人経営の第三者承継
株式等の譲渡
法人経営の第三者への承継は、一般に株式又は出資の譲渡によります。譲渡価格は、原則として純資産価額を基礎に計算した時価によります。
旧株主に対して、株式等の譲渡価額と帳簿価額(一般的には出資した金額)との差額(所得)について、分離課税により20.315%(所得税等15.315%、住民税5%)が課税されます。株式等の譲渡は消費税の非課税取引ですので、消費税の課税はありません。
退職金
事業承継を機に退職する経営者に支払う退職金は、退職所得として課税されます。退職金は、退職後の生活原資であり、長年の勤労に対する報償的な給与であることから、税負担が軽くなるよう配慮されています。
退職金に係る所得税は、退職金の額から退職所得控除額を控除した金額の2分の1に所得税の税率を乗じて計算します。
退職所得控除額は、勤続年数20年以下の場合は40万円×勤続年数、20年超の場合は800万円+70万円×(勤続年数-20年)です。勤続年数20年までは1年あたり40万円、20年超は1年あたり70万円と設定されています。
住民税も同様に計算します。法人は、退職金を支払う際に所得税・住民税を源泉徴収し、退職者から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けます。これにより退職金に対する課税は終了しますので、退職金を受け取った経営者は確定申告をする必要はありません。
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