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労災保険とは
労災保険は、従業員の業務上及び通勤途上の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行うことを主な目的としています。
労働基準法は、従業員が労働災害を被った場合には事業主が補償することを義務づけています。そしてその補償給付を確実に行うために、労災保険に強制的に加入させているのです。
暫定任意適用事業
労災保険は、国の直営事業など適用除外とされている一部の事業を除いて、労働者を使用するすべての事業を適用事業としています。
ただし、災害発生率の低い小規模な事業は、当分の間、法律上当然には労災保険が適用されず、その加入は事業主又は労働者の意思に任されています。これを暫定任意適用事業といい、農林水産業の一部で、農業では、常時5人未満の労働者を使用する個人経営の事業ですが、次のイとロは強制適用事業となります。
イ 一定の危険又は有害な作業を主として行う事業
ロ 事業主が特別加入している事業
したがって個人経営の農業であっても、常時5人以上の従業員を使用している場合や農業法人は強制適用事業となります。
労災保険の事業の種類の決定方法
労災保険において、事業とは、一定の場所においてある組織のもとに相関連して行われる作業の一体をいいます。個々の事業に対する労災保険率の適用については、「事業の単位」「その事業が属する事業の種類」「その事業の種類に係る労災保険率」の順に決定します。
事業の単位
一定の場所において、一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体は、原則として一の事業として取り扱います。
継続事業と有期事業
工場、事務所、店舗等の事業の性質上事業の期間が一般的には予定し得ない事業を継続事業といいます。反対に、木材の伐採事業、建物の建築の事業等事業の性質上一定の目的を達するまでの間に限り活動を行う事業を有期事業といいます。
農業は継続事業の扱いになります。継続事業については、同一場所にあるものは分割することなく一の事業とし、場所的に分離されているものは別個の事業として取り扱います。
ただし、同一場所にあっても、その活動の場を明確に区分することができ、経理、人事、経営等業務上の指揮監督を異にする部門があって、活動組織上独立したものと認められる場合には、独立した事業として取り扱います。
また、場所的に独立しているものであっても、出張所、支所、事務所等で労働者が少なく、組織的に直近の事業に対し独立性があるとは言い難いものについては、直近の事業に包括して全体を一の事業として取り扱います。
有期事業については、当該一定の目的を達するために行われる作業の一体を一の事業として取り扱います。
事業の種類
一の事業の「事業の種類」の決定は、主たる業態に基づき「労災保険率適用事業細目表」により決定します。
なお、複数の業態が混在している場合に何を「主たる業態」とするかという判断は、原則として売上高、労働者数等で決定します。
また、総務、人事、経理といった事務専従者は、業務そのものに生産性がないので、主たる業種に含みます。
労災保険の目的
労災保険は、従業員の業務上及び通勤途上の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行うことを主な目的としています。
労働基準法は、従業員が労働災害を被った場合には事業主が補償することを義務づけています。そしてその補償給付を確実に行うために、労災保険に強制的に加入させているのです。
主たる目的 |
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付帯目的 |
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業務災害
労災保険では、労働者が被った災害が業務災害であるか否かの認定が重要な問題となります。業務上の傷病等と認められるには、第一次的に「業務遂行性」が認められなければならず、第二次的に「業務起因性」が成立しなければならないとされています。
1 業務遂行性
業務遂行性とは、労働者が労働関係のもとにあること、すなわち、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にあることをいい、業務遂行性が認められる場合は、次のように3つに分類できます。
業務遂行が認められる場合 | 具体例 |
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事業主の支配下にあり、かつ管理下にあって業務に従事している場合 | 作業中、作業準備中、後片付け中 |
事業主の支配下にあり、かつ、管理下にあって業務に従事していない場合 | 休憩時間中に事業施設内で行動している場合 |
事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合 | 出張中 |
2 業務起因性
業務起因性とは、業務と傷病等との因果関係をいいます。業務災害には、業務と傷病等の間に相当因果関係がなければなりません。
通勤災害
通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡をいいます。労働基準法では、通勤災害を災害補償の対象としていませんが、労災保険では保険給付の対象にしています。
なお、通勤とは、労働者が就業に関し、原則として住居と就業の場所との移動を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとしています。
通勤災害と認定されるための要件
イ 事故が通勤途上で発生し
ロ 通勤と傷病等との間に相当因果関係があること
労災保険の主な保険給付の内容
保険給付の種類 | 保険給付が受けられるとき | 保険給付の内容 | 特別支給金の内容 | |
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療養補償給付療養給付(通勤災害の保険給付には「補償」の文字は使いません。) | 業務災害又は通勤災害による傷病により労災病院や労災指定医療機関等で療養を受けるとき | 必要な療養の給付 | ||
業務災害又は通勤災害による傷病により労災病院や労災指定医療機関以外で療養を受けるとき | 必要な療養費の全額 | |||
休業補償給付休業給付 | 業務災害又は通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき | 休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額 | 休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額 | |
障害を負ったとき | 障害補償年金障害年金 | 業務災害又は通勤災害による傷病が治った後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から131日分の年金 | (障害特別支給金)障害の程度に応じ、342万円から159万円までの一時金 (障害特別年金)障害の程度に応じ、算定基礎日額の313日分から131日分の年金 |
障害補償一時金障害一時金 | 業務災害又は通勤災害による傷病が治った後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残ったとき | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日分から56日分の一時金 | (障害特別支給金)障害の程度に応じ、65万円から8万円までの一時金 (障害特別一時金)障害の程度に応じ、算定基礎日額の503日分から56日分の一時金 |
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遺族に対する補償 | 遺族補償年金遺族年金 | 業務災害又は通勤災害により死亡したとき | 遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245日分から153日分の年金 | (遺族特別支給金)遺族の数にかかわらず、一律300万円 (遺族特別年金)遺族の数等に応じ、算定基礎日額の245日分から153日分の年金 |
遺族補償一時金遺族一時金 | (1)遺族(補償)年金を受け得る遺族がないとき (2)遺族(補償)年金を受けている方が失権し、かつ、他に遺族(補償)年金を受け得る者がない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき |
給付基礎日額の1000日分の一時金(ただし、(2)の場合は、すでに支給した年金の合計額を差し引いた額) | (遺族特別支給金)遺族の数にかかわらず、一律300万円 (遺族特別一時金)算定基礎日額の1000日分の一時金(ただし、(2)の場合は、すでに支給した特別年金の合計額を差し引いた額) |
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葬祭料 葬祭給付 |
業務災害又は通勤災害により死亡した方の葬祭を行うとき | 315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分) | ||
傷病補償年金 傷病年金 |
業務災害又は通勤災害による傷病が療養開始後1年6か月を経過した日又は同日後において次の各号のいずれにも該当することとなったとき (1)傷病が治っていないこと (2)傷病による障害の程度が傷病等級に該当すること |
障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から245日分の年金 | (傷病特別支給金)障害の程度により114万円から100万円までの一時金 (傷病特別年金)障害の程度により算定基礎日額の313日分から245日分の年金 |
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介護補償給付 介護給付 |
障害(補償)年金又は傷病(補償)年金受給者のうち第1級の者又は第2級の者(精神神経の障害及び胸腹部臓器の障害の者)であって、現に介護を受けているとき | 常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、172,550円上限とする)。ただし、親族等により介護を受けており介護費用を支出していないか、支出した額が77,890円を下回る場合は77,890円。随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、86,280円を上限とする)。ただし、親族等により介護を受けており介護費用を支出していないか、支出した額が38,900円を下回る場合は38,900円 |
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