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変形労働時間制の導入の検討
変形労働時間制とは、労働の繁閑の差を利用して休日を増やすなど、労働時間の柔軟性を高めることで、効率的に働くことを目的とする制度です。
他産業では、使用者は労働者に法定労働時間である1週40時間、1日8時間を越えて労働させた場合は、法律で定められた割増賃金を支払わねばなりません。
変形労働時間制は、労働基準法で定められた手続を行えば、その認められた期間においては、法定労働時間を越えて働いた場合でも、この期間内の平均労働時間が法定労働時間を越えていなければ、割増賃金の対象として扱わないとする制度です(労働基準法32条の2〜5)。
仕事内容等に応じて「1か月単位」「1年単位」「1週間単位」「フレックスタイム制」があります。たとえば、「1年単位の変形労働時間制」は、夏のお中元の季節や冬のお歳暮の季節はすごく忙しくて反対にあまり忙しくない季節があるデパート等でよく使われています。
外国人技能実習生に対しては、労働時間・休憩・休日等に関して他産業に準拠するよう指導されています。具体的には、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えて実習させた場合には、法定の割増賃金の支払い義務が生じることになります。したがって、外国人技能実習生に対しては、変形労働時間の利用は必須と言っても過言ではありません。
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年次有給休暇を付与
- 年休権が発生した場合は、技能実習生は年休をとる時季を原則として自由に指定することができます。
- 年休をどの様に利用するかは技能実習生の自由です。使用者に何に使うかを告げる必要はなく、使用者に告げた目的と異なる用途に使っても何ら影響を及ぼしません。ただし、休日等を利用したアルバイト活動等の資格外活動は認められていません。
- 技能実習生の場合、長期間母国に帰国せず、家族にも会っていないことが多いと考えられるため、年休や休業日を利用して一時帰国することが推奨されます。
- 年休は、休暇を取ることによって労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図ることを目的としています。したがって、休暇を与える代わりに金銭を給付することは本来の目的を果たすことになりません。法律は、「休暇を与えなければならない」(労基法第39条)と使用者に義務づけているので、技能実習生の年休を買上げることは違法です。ただし、労働者の退職や解雇に際し、年休の残日数分を買上げることは、好ましいことではないものの労基法違反ではないとされています。これは技能実習生についても同様です。
- 技能実習生が帰国間際に年休の未消化分をすべて消化したいと使用者に申し出てトラブルになるケースがあります。年休は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないので、退職間際だからといって、使用者はこれを拒否することはできません。ただし、労働基準法は「事業の正常な運営を妨げると認められる場合」には、使用者は、他の時季に与えることができるとしています。
「事業の正常な運営を妨げると認められる場合」とは、「個別的、具体的に客観的に判断されるべきもの」とされているので、具体的には事業内容や職場の事情等を総合的に考慮して判断されます。しかし、帰国が決まっている技能実習生に対しては、そもそも年休を与えるべき「他の時季」がないため、結局、年休の請求を拒むのは難しいのが現実です。
退職間際にまとまった年休を請求されることのないよう日頃から技能実習生が年休を取得し易い職場環境をつくりましょう。
事業の附属寄宿舎
寄宿舎に関する条件も労働基準法に一定の基準を設けています。(94〜96条)
技能実習生が宿泊する設備が寄宿舎である場合には、使用者は寄宿舎規則を作成して管轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。
寄宿舎かどうかの判断基準
- 相当人数(二人以上)の労働者が宿泊しているか否か
- その場所が独立又は区画された施設であるか否か
- 共同生活の実態を備えているか否か。すなわち単に便所、炊事場、浴室等が共同となっているだけでなく、一定の規律、制限により労働者が通常、起居寝食等の生活様式を共にしているか否か
なお、社宅のように労働者がそれぞれ独立の生活を営むもの、少人数の労働者が事業主の家族と生活をともにするいわゆる住み込みのようなものは含まれません。
労使協定等の管轄労働基準監督署長への届出
労使協定とは労働者と使用者との、書面による協定のことで、労働基準法(や高年齢者雇用安定法、育児介護休業法など)で禁止されている事項について、例外的に労働組合又は過半数代表者との合意による労使協定の締結をもって、免れさせること(免罰的効力)が認められるものです。
種類 | 労働基準監督署長への届出 | |
---|---|---|
1 | 時間外労働・休日労働に関する協定書(三六協定)※ | ○ |
2 | 貯蓄金管理に関する協定届 | ○(外国人技能実習生には適用できない) |
3 | 賃金控除に関する協定書 | × |
4 | 1か月単位の変形労働時間制に関する協定書※ | ○(就業規則で規定した場合は、労使協定は必要ない) |
5 | 1年単位の変形労働時間制に関する協定書※ | ○ |
6 | 就業規則 | ○(常時雇用する労働者が10人以上の場合) |
7 | 寄宿舎規則 | ○ |
※管轄労働基準監督署によっては、届出が必要ない場合がありますので事前にご確認ください。
技能実習生の労働・社会保険の適用
技能実習生は外国人労働者に含まれるとしているので、技能実習生には、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、労働者災害補償保険法等の労働者に係わる諸法令が適用されます。
(1)入国後2か月間(1か月間)は国保・国年に加入
技能実習生が日本に入国してから2か月間(本国で入国6月以内に監理団体等が160時間以上外部講習を実施した場合は1か月)は講習期間です。
講習期間は、日本語や日本での生活を座学によって学ぶ期間であり、技能実習生は、この期間は労働者ではないので労働保険(労災保険、雇用保険)と社会保険(健康保険、厚生年金保険)には加入しません。
したがって、この期間は、国民健康と国民年金に加入することになります。
(2)法人は労働・社会保険の加入が義務
技能実習生の労働保険と社会保険の適用について、法人であれば、労働保険(労災保険、雇用保険)及び社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入は絶対条件です。
個人事業の場合の労働・社会保険の適用は下表のようになります。
労働保険 | 社会保険 | ||||
---|---|---|---|---|---|
従業員常時5人未満 | 従業員常時5人以上 | 国民健康保険 | 国民年金 | ||
労災保険 | 雇用保険 | 労災保険 | 雇用保険 | ただし、 事業所で使用される者の 2分の1以上の同意及び 厚生労働大臣の認可があれば 健康保険が適用される。 |
ただし、 事業所で使用される者の 2分の1以上の同意及び 厚生労働大臣の認可があれば 厚生年金が適用される。 |
任意加入 ただし、 必ず任意加入 しなければ ならない。 |
任意加入 労働者の 過半が同意、 もしくは 希望する場合に 任意加入する。 |
強制加入 |
(3)脱退一時金
外国人技能実習生の場合、滞在が短期間であるため、将来老齢厚生年金等を受取ることはありません。せっかく納付した厚生年金保険料や国民年金保険料が掛け捨てにならないように、厚生年金や国民年金の被保険者期間が6か月以上ある場合には「脱退一時金」が本人の請求により支給されます。
ただし、請求は本国に帰ってから行うことになり、離日後2年経過すると請求できなくなります。日本年金機構(外国業務グループ)(〒168-8505東京都杉並区高井戸西3-5-24)が請求先になっており、「脱退一時金裁定請求書」に①出国証明(パスポートの写し)、②銀行の口座証明、③年金手帳を添えて提出します。
参考) 厚生年金保険の脱退一時金(最終月が令和3年4月以降の場合の支給額)
※概算ですので実際の金額は正確な情報に基づき算出する必要があります。
厚生年金保険被保険者期間月数 | 支 給 額 | 厚生年金保険被保険者期間月数 | 支 給 額 |
---|---|---|---|
6月以上12月未満 | 平均標準報酬額×0.5 | 36月以上42月未満 | 平均標準報酬額×3.3 |
12月以上18月未満 | 平均標準報酬額×1.1 | 42月以上48月未満 | 平均標準報酬額×3.8 |
18月以上24月未満 | 平均標準報酬額×1.6 | 48月以上54月未満 | 平均標準報酬額×4.4 |
24月以上30月未満 | 平均標準報酬額×2.2 | 54月以上60月未満 | 平均標準報酬額×4.9 |
30月以上36月未満 | 平均標準報酬額×2.7 | 60月以上 | 平均標準報酬額×5.5 |
※ 国民年金の脱退一時金は、所得税が源泉徴収されませんが、厚生年金保険の脱退一時金の場合は、支給の際に20%の所得税が源泉徴収されます。この場合、日本の居住地を管轄する税務署へ他の退職一時金と併せて確定申告を行い、「退職所得の選択課税申告書」を提出することにより税の還付を受けることができる場合があります。なお、手続等詳しいことは所轄の税務署にお尋ねください。
当該コンテンツは、「キリン社会保険労務士事務所」の分析・調査に基づき作成されております。