農業ビジネスに潜む損害賠償リスクについて、大場弁護士が事例を交えて解説します。
はじめに-免停講習で得た教訓
昔、自動車の免停講習で言われたことがあります。「『だろう』運転ではなく、『かもしれない』運転をしましょう」と。ビジネスも同じです。「(大丈夫)だろう」ではなく「(あぶない)かもしれない」という意識をもつことが大事だと思います。
この点、「かもしれない」に備えて、火災保険、傷害保険、自動車保険など、自分に生じる損害に備えた保険に加入している方は多いと思います。
しかし、第三者に生じた損害につき当該第三者から損害賠償請求されるリスクについては、問題関心の程度は低く、それに対する備えをしている方も少ないようです(JA共済連アンケート参照)。
ただ、一方で、第三者への賠償事故の発生率は、賠償責任保険の加入者だけでみても、6.3%(3年間の事故発生率)と決して無視できる数値ではありません(共栄火災「農業者賠償責任保険の保険金支払実績」より)。
このコラムでは、農業経営を行う上で抱える様々なリスクのうち、身の回りで生じる「損害賠償責任」について、当たり前と思っているものから、意外と気づかないものまで、いくつか説明していきたいと思います。
農業の現場の皆様に、ひとつでもふたつでも「それは知らなかった」と思っていただけるような情報をお伝えできれば幸いです。
目には見えない損害賠償責任-弁護士がでてきた?
損害賠償責任とは、自分の「落ち度」によって、他人に「損害」を与えたとき、この「損害」を「賠償」しなければならない法的な「責任」です。ただし、この「責任」は、誰かから追及されない限り、目には見えません。
近隣の農家さん同士であれば「お互いさま」だし、販売先や取引先であれば「お付き合い」があるから、「責任」を追及されることは滅多にない「だろう」と思います。
しかし、この先、新規就農者や移住者、親父の後を継いで出戻ってきたせがれなど、「お互いさま」や「お付き合い」が通じない相手が弁護士に相談して、これまで目に見えなかった法的な「責任」を追及され、訴えられる「かもしれない」のです。
次回は、具体的に「ため池・水路等の農業水利施設の管理」に潜む、訴えられる「かもしれない」リスクについて解説します。
シリーズ『農業ビジネスに潜む損害賠償リスク』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日