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事業承継の専門家より、失敗しない事業承継のポイントを解説します。
前回のコラムで、事業承継の失敗のひとつ「後継者がいない」ということについて触れましたが、今回は、別の失敗例のひとつ「後継者が主体者になっていない」について、事例を踏まえてお伝えします。
失敗の理由
後継者が主体者になっていない!?
事例
農業法人の社長のD男65歳。息子で後継者のE男35歳。
後継者のE男は、子供のころから家業の農家を継ぐことを意識していました。大学を卒業したのち、東京の企業に入社し社会人としての経験を3年程度積んだところで、家業へ就農しました。
社長のD男は、E男が就農したことで後継者は決まったと思い、ほっと安心しました。D男は、地域のだれもが認める優秀な農業経営者でありました。
D男は、息子のためと思い、E男が事業承継で困らないように、あれこれと自ら道筋をつくっていきました。新技術を取り入れた機械を取り入れたり、財務も税理士がすべてやってくれるように手配したり、後継者が何をしなくても事業承継ができる状態をつくっていったのです。
後継者のE男は、社長のD男の準備をありがたいと思い、素直に受け止めていました。E男は農業技術の習得に力を入れていくことができたのです。
そして、D男の計画どおり、自身が70歳、息子が40歳の時に代表交代をし、事業承継をしました。そこからE男は経営者となりましたが…、
自身が経営者になるために何もしてこなかったことに経営者になってから気づいたのです。E男は、あるべきものを受け入れていただけ、いわゆる“受け身”で経営者になってしまったのです。
その結果、事業がうまくいかないと、ことあるごとに、「前社長が悪い」とか「従業員が悪い」など、だれかの責任にしてしまうようになってしまったのです。
E男は、自分が経営者として責任を取るということは頭の中にありませんでした。だれかの責任にしてしまうような経営者は、だれからも信頼されなくなり、結果的に組織が崩壊し、事業モデルが崩壊し、財務状態が崩壊していってしまいました。
対策・解説
なぜこうなってしまったのでしょうか。
事業承継の主体者が社長のD男になってしまっていて、後継者のE男が主体者になっていなかったのかもしれません。
社長のD男がE男を後継者としてではなく息子として扱ってしまい、息子なので良かれと思って、いろいろと手配して完璧に準備をしておこうとして、結果的に後継者のE男は自分でやらなくてもだれかがやってくれると勘違いをしてしまったのかもしれません。
本当に後継者を育てるのであれば、経営者として独り立ちできるように厳しく教育すべきだったのです。
また、後継者のE男の方は、自分が経営者になるという強い思い、いわゆる決意をもって経営者になっていなかったのかもしれません。
子供の頃から継ぐ意識があったことが逆に、経営者となることをあらためて決意することはなく、成り行きで経営者になってしまったのかもしれません。
就農してから、あらためて経営者となるための決意・覚悟をもつことができれば、だれかの責任にする経営者にはならなかったかもしれません。
後継者の学校では、事業承継に対して受け身の後継者を主体的な意識に変わってもらうために、後継者にとっての事業承継の向き合いかたとして以下のメッセージを伝えています。
「超友好的なのっとりである。」
後継者にとっての、事業承継はのっとりと同じ、継ぐべき会社をのっとるということです。ただ、敵対的にのっとるのではなく、超友好的にのっとっていく。超友好的にのっとっていくために、後継者自身が考えて実行していく。
その行動は、当然受け身ではできず、後継者が主体者として活動していくことになります。 経営者ではなく、後継者が主導して事業承継を前に進めていくことで、事業承継は未来最適な承継をすることができるのです。
次回のコラムも、失敗理由について少し具体的に掘り下げていきます。テーマは、事業承継で一番問題になることです。最後まで、お読みいただきありがとうございます。次回のコラムもよろしくお願い致します。
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